新築マンション価格の高騰を受けて、国土交通省は令和9年度税制改正要望で必要な措置を求めています。
特に注目されているのが、都心の大規模マンションなどでみられる短期売買です。
では、短期間でマンションを転売して得た利益に対して、現在より重い税負担を求めることはできるのでしょうか。
現時点では具体的な制度の内容は示されていません。
そこで今回は、現在の税制を出発点として、短期転売への税制措置を考える場合にどのような論点があるのかを整理します。
現在でも短期売却には重い税率がある
まず確認しておきたいのは、現在でも不動産の短期売却には比較的高い税率が設定されていることです。
個人が土地や建物を売却した場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下であれば、原則として短期譲渡所得になります。
税率は所得税30%と住民税9%を合わせて39%です。
さらに復興特別所得税がかかります。
一方、所有期間が5年を超える長期譲渡所得では、所得税15%と住民税5%を合わせて20%です。
短期と長期では19ポイントの差があります。
今回問題になっている短期は1年以内
現在の税制と国土交通省が注目する短期売買では、短期という言葉の意味が異なります。
国土交通省の調査では、購入後1年以内に売買された新築マンションを短期売買として分析しています。
令和6年1月から6月の実績では、短期売買の割合は東京圏6.3%、東京都8.5%、東京23区9.3%、都心6区12.2%でした。
税法上の5年という基準より、かなり短い期間の取引が政策上の焦点になっているわけです。
今後税制措置を考えるのであれば、この極めて短い保有期間をどう扱うかがポイントになります。
1年以内だけ税率を高くする考え方
一つの考え方として想定できるのが、極めて短期間の売却について、現在の短期譲渡所得よりさらに重い負担を設ける方法です。
例えば5年以下という現在の区分の中に、さらに短い保有期間の区分を設けるという考え方です。
短期間で売却するほど税引き後の利益が小さくなれば、値上がり益を狙った転売の魅力は低下します。
ただし、これは制度の具体案として公表されているわけではありません。
今後考えられる制度設計上の選択肢の一つとして見る必要があります。
税率ではなく追加負担を設ける方法も考えられる
現在の短期譲渡所得の税率そのものを変更せず、一定の短期売買だけに追加的な負担を設ける考え方もあり得ます。
この場合、既存の5年を基準とする短期譲渡所得制度を維持しながら、政策上特に問題とする取引だけを対象にできます。
一方で、新しい区分を設ければ税制は複雑になります。
納税者にとっても、どの取引が追加負担の対象になるのかを判断する必要があります。
税務当局にも取引時期や対象物件などを確認する事務負担が生じます。
新築マンションだけを対象にするのか
大きな論点になるのが対象物件です。
今回の議論の出発点は、新築マンション価格の高騰です。
そのため新築マンションの短期転売だけを対象とする考え方もあり得ます。
しかし、新築だけに負担を設ければ、投資資金が築浅の中古マンションへ移る可能性があります。
一度購入されたマンションは、短期間しか経過していなくても次の取引では中古になります。
新築と築浅中古の間に大きな税制上の差を設けることが適切なのかという問題があります。
個人だけを対象にするのか
取引主体についても問題があります。
個人には短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分がありますが、法人には同じ仕組みはありません。
法人がマンションを売却して得た利益は、原則として法人全体の所得の中で課税されます。
個人の短期転売だけに負担を追加すれば、法人を利用した取引へ資金が移る可能性があります。
一方、法人まで広く対象にすると、不動産売買を通常の事業として行っている事業者まで影響を受ける可能性があります。
誰を対象にするのかは制度の効果を大きく左右します。
自宅をどう扱うのか
さらに重要なのが、自宅として購入したマンションです。
購入後1年以内に売却されたマンションがすべて投機目的とは限りません。
転勤、離婚、出産、介護、失業などによって短期間で自宅を売却することがあります。
こうした人まで追加課税の対象にすれば、投機対策という制度目的から外れた負担が生じます。
一方、自宅をすべて除外すると、投資目的の購入者が形式上自宅として扱う可能性があります。
居住実態をどのように確認するのかという問題も生じます。
利益が出なければ追加課税の意味は小さい
転売対策を考えるときには、売却価格ではなく利益を見ることも重要です。
1億円で購入したマンションを9,000万円で売却したのであれば、基本的には値上がり益を得た取引ではありません。
短期間で売却したという理由だけで負担を重くするのか、それとも転売によって利益が生じた場合を中心に考えるのかで制度の性格は大きく変わります。
投機的な値上がり益を抑えることが目的なら、どの所得や利益を課税対象とするのかを明確にする必要があります。
保有期間の境界では行動が変わる
仮に1年以内の売却だけを追加課税の対象とした場合、投資家は1年を超えるまで売却を待つ可能性があります。
11カ月で売る予定だった物件を、1年1カ月まで保有するという行動です。
この場合、統計上の1年以内の短期売買は減ります。
しかし投機目的の購入自体が減ったとは限りません。
そのため制度を導入した後は、対象期間直後の売却が増えていないかまで確認する必要があります。
税率を上げれば上げるほどよいわけではない
短期転売を抑えるだけなら、税負担を非常に重くすれば大きな抑制効果が期待できます。
しかし税制には別の役割もあります。
正常な不動産取引を妨げないことです。
負担が重すぎれば、転勤などで住宅を売却したい人が売却を先送りする可能性があります。
市場に売り物件が出にくくなれば、不動産市場の流動性が低下します。
投機を抑えながら必要な売買を維持できる水準を考える必要があります。
制度が示されたら確認したいポイント
今後具体的な税制改正案が示された場合には、単に増税かどうかだけを見るのでは不十分です。
重要なのは、どの物件を対象とするのか、何年以内の売却を対象とするのか、個人と法人をどう扱うのか、自宅に例外を設けるのか、どの利益に負担を求めるのかという点です。
さらに制度導入後に投資家の行動がどう変わるのかも重要です。
税率そのものより、対象範囲と線引きが制度の実効性を左右す可能性があります。
結論
現在でも個人が不動産を短期間で売却した場合には、短期譲渡所得として原則39%の税率が適用されます。
しかし現在の税制は5年を基準としているのに対し、新築マンション高騰対策で注目されているのは購入後1年以内などの極めて短い取引です。
今後、短期転売への税制措置を設けるのであれば、より短い保有期間について負担を重くする考え方などが論点になり得ます。
ただし現時点で具体的な税率や対象期間などが決まっているわけではありません。
新築だけを対象にするのか、中古も含めるのか。
個人だけなのか、法人も対象にするのか。
自宅のやむを得ない売却をどう扱うのか。
制度を実効性のあるものにするためには、税率以上にこうした線引きが重要になります。
今後具体案が示されたときには、増税という言葉だけを見るのではなく、誰の、どのような取引を対象とする制度なのかを確認する必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か