イノベーションボックス税制を理解するうえで重要になるのが「ネクサスアプローチ」です。
ネクサスとは、つながりや関連性を意味します。
イノベーションボックス税制では、特許や一定のAI関連プログラムの著作権を保有しているという事実だけで税制優遇を受けられるわけではありません。
その知的財産を生み出した研究開発と、その知的財産から得られる所得との間に実質的なつながりが求められます。
資料では、この考え方についてBEPSの行動5との関係から説明しています。
知的財産を税率の低い国や地域へ移すだけで税負担を軽減するのではなく、実際に研究開発を行った企業や場所と、税制優遇を受ける所得を結び付ける考え方です。
ネクサスとは研究開発と所得のつながり
イノベーションボックス税制では、研究開発と、その成果から生まれた所得を別々に考えません。
企業が研究開発を行います。
その研究成果から特許などの知的財産が生まれます。
さらに、その知的財産をライセンスするなどして所得を得ます。
ネクサスアプローチでは、この一連のつながりを重視します。
どこで研究開発を行ったのか。
誰が研究開発を行ったのか。
その研究からどのような知的財産が生まれたのか。
その知的財産からどのような所得が生まれたのか。
こうした関係を確認することで、実際の研究開発活動と税制優遇を結び付けます。
BEPSの行動5と関係している
資料では、ネクサスアプローチについてBEPSの行動5との関係が説明されています。
国際的に事業を行う企業の場合、研究開発を行う国と、知的財産を保有する国が異なることがあります。
知的財産は、工場や機械のような有形資産とは性質が異なります。
そのため、実際に研究開発を行った場所とは別の国や地域で知的財産を保有することも考えられます。
こうした知的財産の性質を利用して、実質的な研究開発活動との関係が薄い場所で税制上の優遇だけを受けることを防ぐ考え方がネクサスアプローチです。
税制優遇と実際の研究開発活動とのつながりを求めることが重要になります。
知的財産を移しただけでは十分ではない
例えば、ある企業が研究開発によって特許を生み出したとします。
その後、その特許を税負担の小さい国や地域へ移し、そこでライセンス所得を受け取る形にすることも理論上は考えられます。
しかし、知的財産を移したという形式だけで大きな税制優遇を認めれば、実際にどこで研究開発が行われたのかという点が無視されてしまいます。
これでは、研究開発を促進するための税制が、単に知的財産を移転することで税負担を軽減する制度になってしまいます。
そこで、研究開発活動と知的財産から生じる所得との実質的な関連性を求めます。
「知的財産がどこにあるか」だけではなく、「その知的財産を誰がどのように生み出したのか」が重要になるのです。
国内で研究開発することが重視される
資料では、イノベーションボックス税制について「国内で」研究開発を行うことが重要な考え方として示されています。
日本国内で研究開発を行い、その成果として知的財産を生み出し、さらにその知的財産から所得を得るという流れを税制面から支援します。
これは、イノベーションボックス税制が「イノベーション拠点税制」として説明されていることともつながります。
研究開発拠点としての立地競争力を高め、無形資産への投資を促進することが制度の背景にあります。
単に所得に対する税負担を軽くするのではなく、国内で研究開発を行うことと税制優遇を結び付けることに意味があります。
自ら研究開発することも重視される
もう一つの重要な考え方が「自ら」です。
企業が自ら研究開発を行って生み出した知的財産と、他社が開発した知的財産を購入した場合では、研究開発への関与の仕方が異なります。
イノベーションボックス税制では、この違いが重要になります。
前回取り上げた自己創出比率も、この考え方とつながっています。
対象となる知的財産から所得を得たとしても、その知的財産を生み出す研究開発に自社がどの程度関わったのかを反映させます。
単に知的財産を取得して所得を得るだけではなく、自ら研究開発を行うことを重視する制度になっています。
研究開発税制とも考え方がつながっている
ネクサスアプローチを理解すると、研究開発税制とイノベーションボックス税制の関係も分かりやすくなります。
研究開発税制では、研究開発にお金を使う段階を支援します。
イノベーションボックス税制では、その研究成果から一定の所得を得る段階を支援します。
つまり、
研究開発
知的財産の創出
知的財産の収益化
という流れの入口と出口を、それぞれ異なる税制で支援することになります。
ネクサスアプローチは、その入口と出口が本当につながっているのかを確認する考え方ともいえます。
税務だけで完結しない管理が必要になる
ネクサスアプローチを実務に落とし込む場合、税務部門だけで対応することは難しくなります。
研究開発部門には、どの研究プロジェクトを実施したのかという情報があります。
知的財産部門には、その研究成果からどの特許などが生まれたのかという情報があります。
経理部門には、研究開発費やライセンス収入などの金額があります。
税務部門には、研究開発税制やイノベーションボックス税制の計算に必要な情報があります。
これらを別々に管理しているだけでは、研究開発と知的財産所得とのつながりを把握することが難しくなります。
部門をまたいで情報を結び付けることが重要です。
研究を始めた段階から記録する必要がある
研究成果が出てから過去の資料を調べようとしても、十分な情報が残っていない可能性があります。
どの研究プロジェクトにどの費用を使ったのか。
誰が研究に関わったのか。
どの研究成果がどの知的財産につながったのか。
その知的財産からどの所得が生まれたのか。
こうした情報を研究開始時から継続して管理しておけば、研究開発と所得とのつながりを把握しやすくなります。
イノベーションボックス税制では、税金を計算する年度だけを見るのではなく、研究開発の開始から知的財産の収益化までを長期間にわたって追跡する視点が必要になります。
結論
ネクサスアプローチとは、研究開発活動と、その研究成果である知的財産から生じた所得との実質的なつながりを重視する考え方です。
資料では、BEPSの行動5との関係から、イノベーションボックス税制による優遇を受けるためには、自ら行った研究開発と所得とのつながりが重要であることが示されています。
そのため、知的財産を税率の低い国や地域へ移しただけで税制上の優遇を受けるという考え方とは異なります。
重要なのは「国内で」「自ら」研究開発を行い、その成果から知的財産を生み出し、その知的財産から所得を得るという流れです。
企業には、研究開発費だけではなく、研究プロジェクト、知的財産、ライセンスなどによる所得までを結び付けて管理することが求められます。
ネクサスアプローチを理解することは、イノベーションボックス税制が単なる減税制度ではなく、実際の研究開発活動を促すための制度であることを理解することにつながります。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション