国際送金の世界では、銀行だけが主役ではなくなりつつあります。
その代表的な存在がステーブルコインです。
ステーブルコインはブロックチェーン上で移転でき、法定通貨との価値の安定を目指して設計されています。
銀行の営業時間に左右されにくく、24時間365日動かせることが大きな特徴です。
一方、銀行側もトークン化預金を使って国際送金を即時化しようとしています。
国際送金を巡って、銀行預金とステーブルコインという異なるデジタルマネーが競争する時代が始まろうとしています。
ステーブルコイン送金とは何か
ステーブルコインは、円やドルなどの法定通貨と価値を連動させることを目指したデジタル資産です。
例えばドル連動型ステーブルコインであれば、基本的に1コインを1ドル程度の価値に保つことを目指します。
利用者はブロックチェーン上でステーブルコインを別の利用者へ移転できます。
相手が海外にいても、同じブロックチェーンを利用できれば国境を越えて送ることが可能です。
従来の国際送金とは異なる経路で価値を移転できることが大きな特徴です。
銀行送金との違い
従来の国際銀行送金では、送金元銀行から受取銀行まで複数の金融機関を経由する場合があります。
Swiftなどを使って送金情報を伝え、その裏側で銀行同士が資金を決済します。
送金元銀行と受取銀行が直接取引できなければ、中継銀行が必要になることもあります。
これに対してステーブルコインでは、ブロックチェーン上でデジタル資産そのものを移転できます。
従来型の銀行間送金とは、価値を移す経路が大きく異なります。
24時間365日という強み
ステーブルコインの大きな特徴の1つが、原則としてブロックチェーンが24時間365日動いていることです。
銀行の営業日を待つ必要がありません。
土曜日でも日曜日でも、システムが稼働していればステーブルコインを移転できます。
国際取引では時差があります。
日本が昼間でも米国は夜間ということがあります。
世界中の企業が利用する決済手段にとって、特定の国の銀行営業時間に左右されにくいことは大きなメリットになります。
銀行にとってなぜ脅威になるのか
これまで国境を越えて大きな金額を安全に送るには、銀行の国際送金網を利用することが一般的でした。
銀行は送金手数料や外国為替取引などから収益を得ています。
しかし、ステーブルコインによって銀行を経由しない価値移転が広がれば、従来の国際送金ビジネスの一部が縮小する可能性があります。
特に単純な送金では、速さや手数料の比較が容易になります。
数日かかる銀行送金と短時間で完了するデジタル送金が並べば、利用者はより便利な方法を選ぶようになります。
ステーブルコインにも弱点がある
ただし、ステーブルコインが銀行預金より全面的に優れているわけではありません。
まず、ステーブルコインを受け取っても、それだけでは通常の銀行口座にあるドルや円と同じように使えない場合があります。
最終的に銀行預金や現金へ交換する必要があれば、その入口と出口では金融機関との接続が必要になります。
また、誰が発行しているのか、どのような裏付け資産を持っているのかも重要です。
発行主体や制度によって信用リスクは異なります。
銀行預金と同じ預金保険制度で守られるとは限りません。
銀行には信用と顧客基盤がある
銀行には長年築いてきた強みがあります。
預金を受け入れ、企業や個人へ融資し、外国為替や資金管理など幅広い金融サービスを提供しています。
本人確認やマネーロンダリング対策などの体制も持っています。
企業にとって国際送金は、単にお金を海外へ送れば終わるものではありません。
貿易金融や為替リスク管理、資金調達などと組み合わせることがあります。
こうした総合的な金融サービスでは、銀行が引き続き大きな役割を持つと考えられます。
銀行がトークン化預金を急ぐ理由
銀行がステーブルコインに対抗する方法の1つがトークン化預金です。
銀行預金そのものをブロックチェーンなどのデジタル基盤上で移転できるようにします。
これによって、銀行預金という既存の仕組みを維持しながら、ステーブルコインの強みである高速送金や24時間365日の取引に近づくことができます。
Swiftが世界の大手銀行とトークン化預金の接続実験を進めている背景にも、国際決済のデジタル化があります。
銀行が現在の仕組みのままでは、デジタルマネーとの競争で不利になる可能性があるからです。
競争は送金手段だけではない
銀行とステーブルコインの競争は、単にどちらの送金速度が速いかという問題ではありません。
企業がどの形でお金を保有するのかという問題にもつながります。
企業が決済のために銀行預金を持つのか。
ステーブルコインを保有するのか。
あるいは必要なときに両者を交換するのか。
デジタルマネーが普及すれば、企業の資金管理方法そのものが変わる可能性があります。
これは銀行にとって預金ビジネスにも関係する重要な問題です。
競争しながら共存する可能性
将来、銀行預金かステーブルコインのどちらか一方だけが残るとは限りません。
企業が通常の資金管理には銀行預金を使い、特定の国際決済ではステーブルコインを利用することも考えられます。
銀行自身がステーブルコインとの交換サービスを提供する可能性もあります。
トークン化預金とステーブルコインを相互に交換できるインフラが整えば、両者の境界はさらに小さくなるかもしれません。
競争すると同時に、相互接続して利用される可能性があるのです。
結論
ステーブルコインは、国際送金の分野では銀行の有力なライバルになる可能性があります。
ブロックチェーンを利用して24時間365日価値を移転できるため、従来の銀行送金が抱えてきた時間やコストの問題を改善できる可能性があるからです。
一方、銀行には預金制度への信用、幅広い顧客基盤、融資や外国為替などを含めた総合的な金融サービスという強みがあります。
そこで銀行側も、預金をトークン化することで24時間365日のデジタル決済へ対応しようとしています。
これからの国際送金では、銀行対ステーブルコインという単純な構図だけを見るのでは十分ではありません。
トークン化預金、ステーブルコイン、既存の銀行システムが競争しながら接続され、利用者が目的に応じて使い分ける世界へ向かう可能性があります。
国際送金を巡る競争は、私たちが将来どのような形でお金を持ち、どのように世界へ動かすのかを決める競争でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 トークン化預金、国際送金即時に