ステーブルコインで住宅を買えるのか 数千万円の不動産決済に使う仕組み編

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住宅を購入するときには、数千万円という大きなお金が動きます。

現在の不動産取引では、銀行振り込みなどによって売買代金を決済するのが一般的です。

しかし今後、5000万円の住宅なら5000万円相当の円建てステーブルコインを買主から売主へ移転して代金を支払うという仕組みが登場する可能性があります。

金融庁が信託型ステーブルコインに関する税務手続きの簡略化を求めている背景にも、自動車や住宅など100万円を大きく超える高額決済への利用があります。

不動産とステーブルコインの組み合わせで重要なのは、単に5000万円をデジタル送金できることだけではありません。

将来的には、売買代金の決済と不動産の所有権移転を連動させる可能性もあります。

住宅売買では数千万円の決済が必要になる

例えば5000万円の中古マンションを購入するとします。

住宅ローンを利用しない現金購入であれば、買主は売買契約に従って5000万円の代金を支払います。

実際には手付金を先に支払い、残りを決済日に支払うケースが一般的です。

例えば、

売買価格5000万円

手付金500万円

残代金4500万円

という取引を考えることができます。

現在なら手付金や残代金を銀行振り込みなどで支払います。

ステーブルコインが利用できるようになれば、この資金移動の一部または全部を円建てステーブルコインで行う仕組みが考えられます。

手付金をステーブルコインで支払う

住宅売買では、売買契約の締結時などに手付金を支払うことがあります。

5000万円の住宅で500万円の手付金を設定したとします。

買主が500万円相当の円建てステーブルコインを保有していれば、売主側が指定するウォレットなどへ500万コインを移転する方法が考えられます。

売主側はステーブルコインの受領を確認します。

これによって手付金の支払いを確認できれば、銀行振り込みとは異なる方法で売買契約に伴う資金決済を行える可能性があります。

もっとも、不動産取引では金額が大きく、契約上の意味も重要です。

単にコインを送っただけではなく、その送金がどの契約に基づく何の支払いなのかを明確に管理する仕組みも必要になります。

残代金4500万円を決済する

住宅売買で最も大きなお金が動くのが残代金の決済です。

先ほどの例なら5000万円の売買価格から500万円の手付金を差し引き、4500万円を支払います。

現在は決済日に金融機関などで関係者が手続きを進め、買主から売主へ残代金を支払う形が一般的です。

ステーブルコインを利用するなら、買主から売主へ4500万円相当のステーブルコインを移転します。

1コインが1円相当なら4500万コインです。

売主側で4500万コインの受領を確認できれば、残代金の支払いが完了したと判断する仕組みが考えられます。

数千万円という大きな金額をデジタル上で直接移転することになります。

100万円の壁を大きく超える

ここで重要になるのが100万円という金額です。

一般的な第二種資金移動業では、1件当たり100万円相当額以下の資金移動を取り扱います。

4500万円の残代金は100万円の45倍です。

そのため、日常的な小口決済を想定した仕組みでは住宅購入代金を一度に処理することは困難です。

そこで高額決済への利用で注目されるのが信託型ステーブルコインです。

信託型には、第二種資金移動業と同じ1件100万円相当額以下という上限がそのまま設けられているわけではありません。

そのため制度や実務環境が整えば、数千万円規模の住宅代金をステーブルコインで決済できる可能性があります。

不動産では代金だけ動かせばよいわけではない

ただし、不動産取引は家電や日用品の購入とは大きく異なります。

5000万円を売主へ支払えば、それだけで取引が終わるわけではありません。

不動産の所有権を買主へ移転する必要があります。

住宅ローンが残っていれば、売主側の抵当権を抹消する手続きが必要になる場合もあります。

買主が住宅ローンを利用するなら、金融機関による融資の実行や抵当権設定も関係します。

つまり不動産取引では、

売買契約

売買代金の支払い

所有権移転

抵当権の抹消

新たな抵当権の設定

物件の引き渡し

など複数の手続きが関係します。

そのため、決済手段だけをステーブルコインへ変更しても、不動産取引全体が直ちにデジタル化するわけではありません。

所有権移転と決済のタイミングが重要になる

不動産取引では、売主と買主の双方にリスクがあります。

買主から見ると、5000万円を支払ったのに不動産の所有権を取得できなければ困ります。

売主から見ると、不動産の所有権を移転したのに5000万円を受け取れなければ困ります。

そのため現在の不動産取引では、代金決済と所有権移転登記に必要な手続きをできるだけ同時に進めることが重要になります。

司法書士が登記関係書類を確認し、決済後に所有権移転登記などを申請するのも、この安全性を確保するためです。

ステーブルコインを不動産取引へ利用する場合にも、この問題は変わりません。

むしろデジタル決済だからこそ、代金の移転と所有権移転をどのように連動させるのかが重要になります。

お金と不動産を同時に交換できるのか

将来的には、ステーブルコインを利用して資金と資産の移転を連動させる仕組みが考えられます。

例えば、

買主が5000万円相当のステーブルコインを用意する

売主が不動産を移転するための条件を満たす

必要な確認が完了する

条件が成立した段階で売主へ代金を移転する

という仕組みです。

これが実現すれば、買主だけが先に代金を支払ったり、売主だけが先に資産を渡したりするリスクを減らせる可能性があります。

金融取引では、お金と資産を同時に交換する考え方があります。

ステーブルコインとデジタル化された資産を組み合わせることで、こうした仕組みを不動産などへ応用できる可能性があります。

登記そのものがステーブルコインになるわけではない

ここは誤解しやすい点です。

ステーブルコインで住宅代金を支払えるようになっても、日本の不動産登記制度が自動的にブロックチェーンへ置き換わるわけではありません。

不動産の所有権については法務局の登記制度があります。

ステーブルコインは基本的に代金決済側の仕組みです。

したがって当面は、

決済はステーブルコイン

所有権移転は既存の不動産登記

という組み合わせも考えられます。

将来的にデジタル技術によって両者の手続きがより密接に連動する可能性はありますが、決済と登記は法律上別の仕組みであることを理解しておく必要があります。

住宅ローンを利用する場合はさらに複雑になる

住宅購入では、全額を自己資金で支払う人ばかりではありません。

多くの場合、住宅ローンを利用します。

例えば5000万円の住宅について、

自己資金1000万円

住宅ローン4000万円

で購入するとします。

現在なら金融機関が決済日に融資を実行し、その資金を売買代金の支払いに充てます。

ステーブルコインを利用する場合、銀行が融資した4000万円をどのようにステーブルコインへ変換するのかという問題が生じます。

銀行自身が円建てステーブルコインの仕組みに関与するようになれば、融資とステーブルコイン決済を連動させる可能性も考えられます。

3メガバンクが信託型ステーブルコインの共同発行を検討していることは、こうした将来の金融サービスを考えるうえでも注目されます。

売主は受け取った5000万円をどうするのか

売主が5000万円相当のステーブルコインを受け取った場合、その後の使い方も重要です。

そのままステーブルコインとして保有することも考えられます。

次の住宅購入や別の支払いでステーブルコインを利用できれば、そのまま資金を移転することもできます。

一方、現在の経済活動は銀行預金を中心に動いています。

そのため売主が5000万円相当のステーブルコインを円へ償還し、銀行口座へ移すケースも考えられます。

高額な不動産決済でステーブルコインを普及させるためには、送金だけでなく、受け取った後に円へ戻す償還の仕組みも重要になります。

不動産会社にも対応が必要になる

住宅購入にステーブルコインを利用するには、買主と売主だけでなく、不動産会社などの関係者も対応する必要があります。

どのステーブルコインを利用できるのか。

どのウォレットへ送金するのか。

いつ入金完了と判断するのか。

誤送金した場合にどう対応するのか。

本人確認をどう行うのか。

マネーロンダリング対策をどうするのか。

売買契約書に決済方法をどう記載するのか。

こうした実務上のルールを整える必要があります。

5000万円という高額資金を扱う以上、スマートフォンで簡単に送れるという利便性だけで制度を設計することはできません。

不動産取引とステーブルコインは相性がよい可能性がある

それでも不動産は、ステーブルコインの特徴を生かせる分野の一つと考えられます。

理由は取引金額が大きく、多くの手続きが関係するからです。

現在の不動産取引では、契約、本人確認、銀行融資、代金決済、登記、引き渡しなどがそれぞれ別の仕組みで動いています。

ステーブルコインなどのデジタル決済と電子契約、デジタル本人確認などを組み合わせることで、これらをより効率的につなげられる可能性があります。

特に将来的に不動産の権利や受益権などがデジタル化されれば、デジタル資産とデジタル通貨を同じネットワーク上で交換するという考え方も広がる可能性があります。

ステーブルコインの本当の意味は、紙幣をデジタル化することだけではなく、資産取引そのものをデジタル化するところにあるのかもしれません。

税務手続きの簡略化が入口になる

信託型ステーブルコインには高額決済への可能性がありますが、これまで税務上の書類提出が普及の障害となっていました。

ステーブルコインの所有者が変更される場合などに、その都度、所有者の氏名や価格などを記載した書類の提出が必要になる仕組みでは、不動産決済への利用は現実的ではありません。

そこで金融庁は、相続税法や所得税法に関する書類提出を一律で不要とすることを求めています。

制度改正が実現しても、翌日から住宅をステーブルコインで購入できるわけではありません。

しかし高額決済を実用化するための制度上の障害が一つ取り除かれることになります。

結論

ステーブルコインで住宅を購入するとは、数千万円の売買代金を銀行口座から銀行口座へ振り込む代わりに、円建てステーブルコインを買主から売主へ移転して決済することです。

例えば5000万円の住宅なら、500万円の手付金と4500万円の残代金をステーブルコインで支払う仕組みが考えられます。

一般的な第二種資金移動業の1件100万円相当額以下という枠組みでは、このような高額決済への対応は難しくなります。

そこで100万円を超える高額取引に利用できる可能性を持つ信託型ステーブルコインが注目されています。

ただし、不動産取引では代金を送れば終わりではありません。

所有権移転登記、抵当権、住宅ローン、本人確認、物件の引き渡しなど多くの手続きが関係します。

そのためステーブルコインの大きな可能性は、単に5000万円を速く送れることではありません。

将来的に代金決済と資産の移転をデジタル上で連動させられれば、不動産取引そのものを効率化できる可能性があります。

住宅をステーブルコインで買える時代とは、支払い方法だけが変わる時代ではありません。

契約、決済、登記、資産移転という不動産取引全体のデジタル化へ向かう入口になる可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 家・車もステーブルコイン

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