シナリオプランニングとは何か 未来を予測できなくても経営戦略を作れる仕組み編

経営

企業が中長期の経営戦略を考えるとき、必ずぶつかる問題があります。

未来が分からないという問題です。

人工知能がどこまで普及するのか、米中対立がどうなるのか、脱炭素政策がどこまで進むのか、人口減少によって国内市場がどこまで縮小するのかを正確に予測することはできません。

それでも企業は工場を建設し、人材を採用し、研究開発を行い、新しい事業へ投資しなければなりません。

そこで使われる考え方がシナリオプランニングです。

未来を一つに決めて予測するのではなく、起こり得る複数の未来をあらかじめ想定し、それぞれに対応できる経営戦略を考える方法です。

シナリオプランニングの基本

シナリオプランニングとは、将来起こり得る複数の環境を描き、それぞれの場合に企業がどのような経営判断をすべきかを考える手法です。

重要なのは、最も可能性の高い未来を一つ選ぶことではありません。

たとえば2050年の世界について考えてみます。

人工知能が爆発的に普及して世界経済の生産性が大幅に上昇する未来が考えられます。

一方で、米中対立などによって世界経済が分断され、自由貿易が縮小する未来も考えられます。

さらに、脱炭素が急速に進み、エネルギーや産業構造そのものが変化する可能性もあります。

どの未来が実現するのかは現時点では分かりません。

そこで、それぞれの未来について自社の売上、コスト、設備、人材、サプライチェーンなどにどのような影響が出るのかを考えます。

これがシナリオプランニングの基本です。

予測とは何が違うのか

一般的な経営計画では予測が使われます。

たとえば、現在の売上が1000億円で毎年3パーセント成長すると仮定すれば、数年後の売上を計算できます。

市場規模、人口、為替、金利などについて一定の前提を置き、その延長線上に将来を描きます。

これはフォーキャストと呼ばれる考え方です。

比較的短期間で、経営環境が大きく変わらない場合には有効です。

しかし、10年後や20年後になると状況は違います。

人工知能のような新技術が産業構造そのものを変える可能性があります。

戦争や経済制裁によってサプライチェーンが突然分断されることもあります。

環境規制によって、現在は利益を生んでいる事業が成立しなくなることも考えられます。

こうした大きな変化は、現在の数字を延長するだけでは捉えにくいのです。

予測が最も可能性の高い未来を考える方法だとすれば、シナリオプランニングは複数の可能性を考える方法だといえます。

なぜ複数の未来を設定するのか

未来を一つだけ想定すると、その前提が外れたときに経営戦略全体が崩れる危険があります。

たとえば、今後も世界の自由貿易が拡大すると考え、特定の国に生産拠点を集中させた企業を考えてみます。

自由貿易が続けば非常に効率的な経営ができます。

ところが国際対立によって輸出規制や関税が強化されれば、その生産体制が大きな弱点になります。

反対に、最初から世界経済が分断される可能性も考えていれば、生産拠点や調達先を複数の国に分散するという選択肢を持てます。

もちろん、その分だけ平時のコストは高くなるかもしれません。

しかし、危機が起きた場合には事業を継続しやすくなります。

シナリオプランニングは未来を当てるためではなく、想定外を減らすために行うものなのです。

経営判断にどう利用するのか

シナリオプランニングは、実際の経営判断にも利用できます。

分かりやすいのが設備投資です。

新しい工場を建設すると、その工場を20年、30年と使用することがあります。

現在の需要だけを基準に投資を決めると、将来の規制や技術革新によって設備が使えなくなる可能性があります。

そこで複数のシナリオで投資を検証します。

人工知能が急速に普及した場合でも、この工場は競争力を持てるのか。

脱炭素規制が強化された場合でも採算が取れるのか。

世界経済が分断された場合でも原材料を調達できるのか。

こうした問いを投資前に考えます。

同じことは新規事業にも当てはまります。

現在の市場規模だけではなく、複数の未来で需要が残る事業なのかを検討します。

人材戦略にも利用できる

シナリオプランニングは設備や事業だけの話ではありません。

人材戦略にも利用できます。

人工知能が急速に普及すれば、現在人間が担当している仕事の一部が自動化される可能性があります。

その場合、企業が必要とする人材も変わります。

単純に現在必要な人数を採用するのではなく、10年後にどのような能力が必要になるのかを考えなければなりません。

デジタル技術を使える人材。

人工知能を使って業務を設計できる人材。

海外の規制や地政学を理解できる人材。

新しい事業を生み出せる人材。

複数の未来を考えることで、現在から育成すべき人材も見えてきます。

どの未来でも必要な投資を見つける

シナリオプランニングを行うと、興味深いことが分かります。

未来によって必要な戦略が違う一方、どの未来になっても重要になるものもあります。

たとえばデジタル化です。

世界経済が成長しても、低成長になっても、生産性向上の重要性は変わりません。

人材育成も同じです。

技術革新が進めば新しい能力が必要になりますし、経済が分断されれば複雑な経営環境に対応できる人材が必要になります。

サプライチェーンの可視化も、多くのシナリオで役立ちます。

このように、どの未来になっても無駄になりにくい投資を見つけることもシナリオプランニングの重要な目的です。

シナリオは一度作って終わりではない

未来のシナリオは固定されたものではありません。

技術や国際情勢が変化すれば、シナリオも修正する必要があります。

たとえば人工知能の能力が予想以上の速度で向上すれば、AIが社会を大きく変えるシナリオの可能性が高まります。

反対に、各国が強い規制を導入すれば普及速度が遅くなる可能性があります。

地政学についても同じです。

米中関係、戦争、貿易規制、経済制裁などを継続的に確認する必要があります。

企業はこうした変化を観察しながら、どのシナリオに現実が近づいているのかを判断します。

そして必要に応じて投資や事業戦略を修正します。

シナリオプランニングは長期計画を固定する仕組みではなく、変化に対応し続けるための仕組みなのです。

結論

シナリオプランニングとは、未来を正確に予測する方法ではありません。

人工知能が急速に普及する世界、世界経済が分断される世界、脱炭素が進む世界など、起こり得る複数の未来を想定し、それぞれの場合に企業がどう対応するかを考える方法です。

未来を一つに決めてしまうと、その前提が外れたときに経営戦略全体が崩れる危険があります。

複数の未来を考えておけば、設備投資、新規事業、人材育成、サプライチェーンなどについて選択肢を持つことができます。

重要なのは未来を当てることではありません。

未来が外れても会社が生き残れるように準備することです。

不確実性が大きくなるほど、精密な予測を作る能力以上に、複数の未来を想定して柔軟に戦略を変えられる能力が企業経営では重要になっていくのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 企業経営は2050年見据えて

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