多国籍企業は世界各国で事業を行っています。
その一方で、国によって法人税率や税制が異なるため、企業グループの利益が税負担の低い国や地域に集まることが国際的な課題となってきました。
そこで導入が進められているのがグローバルミニマム課税です。
日本でも制度への対応が本格化しており、2026年9月末には多くの対象法人が所得合算ルールであるIIRについて初めての申告期限を迎えます。
国税庁は法令解釈通達やQアンドAを公表し、説明会なども実施しています。
そもそも、なぜ世界共通の最低税率という考え方が必要になったのでしょうか。
多国籍企業は複数の国で利益を得る
国内だけで事業を行う企業であれば、どの国で法人税を負担するのかは比較的分かりやすいでしょう。
しかし、世界各国に子会社を持つ多国籍企業では事情が複雑になります。
例えば日本に親会社があり、アジア、欧州、米国などに多数の子会社を持つ企業グループでは、それぞれの国や地域で利益が発生します。
各国にはそれぞれ異なる法人税制度があります。
そのため、企業グループ全体を見ると、どこでどれだけ利益を計上し、どの程度の税金を負担しているのかという問題が生じます。
法人税率の低い国へ利益が移る問題
各国の法人税率が大きく異なると、企業には税負担の低い国や地域を利用する誘因が生まれます。
実際の事業活動がどこで行われているのかとは別に、利益を低税率国へ移転することができれば、企業グループ全体の税負担を軽くできる可能性があります。
もちろん、海外に子会社を設立すること自体が問題なのではありません。
企業にはさまざまな事業上の理由があります。
問題となるのは、国際的な税制の違いを利用して、企業グループの税負担が極端に低くなるケースです。
こうした問題に一国だけで対応することには限界があります。
各国の法人税引下げ競争にもつながる
もう一つの問題が、国同士の税率引下げ競争です。
企業が法人税率の低い国へ投資や利益を移すのであれば、各国には企業を呼び込むため法人税率を引き下げようとする圧力が生じます。
ある国が税率を下げれば、別の国も対抗して下げる。
この動きが続けば、各国が必要な税収を確保することが難しくなる可能性があります。
そこで、どの国で事業を行っても一定水準以上の税負担を求めるという考え方が生まれました。
それがグローバルミニマム課税です。
世界共通の最低税率を設ける
グローバルミニマム課税では、一定規模以上の多国籍企業グループについて、国ごとの実効税率が最低税率である15%を下回る場合に追加的な税負担を求める仕組みが基本になります。
例えば、ある国で企業グループの実効税率が極端に低くなっていたとします。
その場合でも、一定のルールによって最低水準まで税負担を補うことができれば、単純に低税率国へ利益を移すことによる税負担軽減の効果を小さくできます。
重要なのは、世界中の法人税率を15%に統一する制度ではないということです。
各国はそれぞれの法人税制度を持ちながら、一定規模以上の多国籍企業について最低限の税負担を確保する考え方です。
IIRとは何か
グローバルミニマム課税の中心的な仕組みの一つがIIRです。
IIRは所得合算ルールと呼ばれます。
大まかにいえば、海外子会社などの所在国における税負担が一定の最低水準を下回っている場合に、親会社側で追加的な税負担を求める仕組みです。
低税率国に子会社を置くだけで、企業グループ全体の税負担を大幅に減らすことを難しくする役割があります。
日本でも対象となる企業にとって、制度への対応が実務上の大きな課題になっています。
2026年9月末に初めての申告期限を迎える
青木孝徳国税庁長官によると、2026年9月末には多くの対象法人がIIRについて初めての申告期限を迎えます。
新しい国際課税制度であるため、企業側には制度の理解だけでなく、実際の申告に必要な情報収集や計算などの対応が求められます。
海外に多数の子会社を持つ企業では、各国の税負担に関する情報を集めなければなりません。
国内の法人税申告だけを考えればよかった企業実務とは大きく異なります。
グループ全体の情報管理が重要になります。
国税庁もQアンドAや説明会で対応する
制度が複雑であるほど、納税者が正しく申告できる環境を整えることも重要です。
国税庁は、グローバルミニマム課税について法令解釈通達やQアンドAを公表しています。
さらに説明会なども実施しています。
国際課税では、制度が複雑だからこそ、税務当局がルールを示し、企業側が予測可能性を持って対応できることが重要になります。
適正な課税を実現するには、税務調査を強化するだけでなく、企業が正しく申告できる環境を作ることも必要なのです。
公平な競争条件をつくる意味もある
グローバルミニマム課税には、税収確保だけでなく企業間の公平性という意味もあります。
国内だけで事業を行う企業と、世界各国に拠点を持つ巨大な多国籍企業では、利用できる国際的な税務戦略の幅が異なります。
国際的な企業グループだけが低税率国を利用して税負担を大幅に抑えられるのであれば、企業間の競争条件にも影響します。
最低限の税負担について国際的な共通ルールを設けることは、企業がどこで事業を行うかを税率だけで決める誘因を弱めることにもつながります。
国際課税は一国だけでは完結しない
グローバルミニマム課税が象徴しているのは、税務行政そのものが国境を越えていることです。
企業活動や資金移動が国際化すれば、一国の税務当局が国内の情報だけを見ていても取引の全体像を把握できません。
国税庁は租税条約などに基づく情報交換も活用し、海外取引や国際的な租税回避への対応を進めています。
企業活動がグローバル化するほど、課税ルールや税務当局の連携も国際化する必要があるのです。
結論
グローバルミニマム課税とは、一定規模以上の多国籍企業グループについて、国ごとの実効税率が最低税率15%を下回る場合に追加的な税負担を求める国際的な仕組みです。
目的の一つは、低税率国への利益移転によって企業グループ全体の税負担を極端に小さくすることを難しくすることです。
同時に、企業を呼び込むために各国が法人税率を引き下げ続ける競争に歯止めをかける意味もあります。
日本では2026年9月末に、多くの対象法人がIIRについて初めての申告期限を迎えます。
企業には海外子会社を含めたグループ全体の情報を把握し、新しい国際課税ルールに対応することが求められます。
企業活動が国境を越える時代には、税制も一国だけで完結できません。
グローバルミニマム課税は、世界中の法人税率を同じにする制度ではなく、国際的に活動する企業に最低限の税負担を求めることで、各国の税収と企業間の公平な競争条件を守ろうとする仕組みなのです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 青木新長官にインタビュー、KSK2導入で納税者の利便性向上へ