デジタル化は、私たちの暮らしを大きく変えています。
行政手続きはオンライン化が進み、銀行取引や買い物、病院の予約までスマートフォン一つで済む時代になりました。東京都が進める東京アプリのように、行政サービスを一つのアプリに集約する取り組みも始まっています。
一方で、「スマートフォンの操作が分からない」「アプリの登録方法が難しい」と感じる人も少なくありません。
こうした「デジタル技術を利用できる人」と「利用しにくい人」の間に生じる格差を「デジタルデバイド(情報格差)」と呼びます。
日本は世界有数の高齢社会です。デジタル化が進めば進むほど、この格差への対応は重要な課題となります。
今回は、デジタルデバイドの現状と、その解消に向けた取り組みについて考えてみます。
デジタルデバイドとは何か
デジタルデバイドとは、インターネットやスマートフォンなどのデジタル技術を利用できる人と、利用できない人との間に生じる格差のことです。
この格差は、単に機器を持っているかどうかではありません。
例えば、
・スマートフォンを持っていてもアプリを利用できない
・オンライン申請の方法が分からない
・セキュリティへの不安から利用を避けている
・困ったときに相談できる人がいない
といった状況もデジタルデバイドに含まれます。
つまり、「使える環境」と「安心して使える環境」の両方が整って初めて、デジタル化の恩恵を受けられるのです。
高齢社会では格差が生活に直結する
高齢者にとって、行政サービスや医療、金融などは日常生活に欠かせません。
もし行政手続きがオンライン中心になり、それを利用できなければ、本来受けられる支援を見逃してしまう可能性があります。
また、銀行窓口の縮小やキャッシュレス決済の普及が進めば、日常生活にも影響が及びます。
デジタルデバイドは、単なる技術の問題ではなく、生活の質や社会参加に関わる問題へと変わっているのです。
そのため、高齢社会におけるデジタル化は、「便利な人だけが便利になる仕組み」であってはなりません。
東京アプリが対面サポートを始める意味
東京都は東京アプリの機能拡充と合わせて、登録や本人確認、ポイント申請などを支援する対面サポートを実施する予定です。
これは非常に重要な取り組みです。
デジタルサービスは、一度使い方を理解すると便利さを実感できます。
しかし、最初の一歩でつまずいてしまう人も少なくありません。
その最初の壁を乗り越えるために、対面で丁寧に支援することには大きな意味があります。
「自分には無理だ」と感じていた人が、一度成功体験を得ることで、その後は自信を持って利用できるようになるケースも多くあります。
デジタル化を進めるうえでは、システムの整備だけでなく、人による支援も欠かせないのです。
デジタル格差は情報格差にもつながる
デジタルデバイドが深刻なのは、情報格差を生み出す点です。
行政からのお知らせや防災情報、子育て支援、健康に関する案内などは、デジタル化によって迅速に提供できるようになります。
しかし、それを受け取れない人は、必要な情報そのものを知らないままになる可能性があります。
また、インターネットを活用できれば、多様な情報源から比較・検討できますが、利用できない場合は情報を得る機会が限られてしまいます。
デジタル格差は、やがて情報格差となり、それが生活格差へとつながる恐れがあるのです。
安心して利用できる環境づくりが重要
高齢者の中には、「操作を間違えたらどうしよう」「個人情報が漏れたら困る」と不安を感じる人もいます。
そのため、使い方を教えるだけでは十分ではありません。
詐欺への対策やパスワード管理、本人確認の仕組みなど、安全に利用するための知識も併せて伝える必要があります。
また、アプリやウェブサイトも、高齢者にとって分かりやすい画面設計や文字の見やすさ、操作のしやすさを意識することが重要です。
利用者に「安心して使える」と感じてもらうことが、デジタル化を進めるうえで欠かせない条件になります。
地域全体で支える仕組みが必要
デジタルデバイドの解消は、行政だけの役割ではありません。
地域の自治会や公民館、図書館、携帯電話会社、金融機関などが連携し、相談できる場を増やすことも大切です。
また、家族や地域住民が高齢者を支援する機会も増えるでしょう。
デジタル機器の操作を一方的に代行するのではなく、一緒に操作しながら使い方を覚えてもらうことが、自立した利用につながります。
デジタル社会は、技術だけで成り立つものではありません。
人と人との支え合いがあってこそ、その恩恵を広く共有できます。
誰一人取り残さないデジタル社会へ
デジタル化の目的は、行政や企業の効率化だけではありません。
本来は、一人ひとりの暮らしをより便利で豊かなものにすることです。
そのためには、「利用できる人だけが恩恵を受ける社会」ではなく、「誰もが利用できる社会」を目指さなければなりません。
高齢者、障害のある人、日本語を母語としない人など、多様な人々が安心して利用できる仕組みを整えることが重要です。
東京アプリの対面サポートは、その考え方を具体化した取り組みの一つといえるでしょう。
技術の進歩と人への支援、この両輪がそろって初めて、本当の意味でのデジタル社会が実現します。
結論
デジタルデバイドは、単なるITの問題ではなく、高齢社会における生活や社会参加のあり方に深く関わる課題です。
行政サービスがデジタル化するほど、その恩恵を誰もが受けられる環境づくりが重要になります。
東京アプリのような新しい取り組みと、対面サポートや地域での支援を組み合わせることで、「誰一人取り残さないデジタル社会」に近づくことができます。便利な仕組みを整えるだけでなく、それを安心して利用できる環境を築くことこそが、これからの行政や地域社会に求められる役割ではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年7月17日 朝刊
東京アプリを「都民証」に 都、利便性向上へ機能拡充 施設入館や使用予約/給付を一括申請・確認
総務省 情報通信白書
デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画
総務省 自治体DX推進計画