就職活動の一環として、多くの大学生が企業のインターンシップに参加しています。実際の職場を経験し、仕事内容や企業文化を理解できることは、学生にとって貴重な機会です。企業にとっても、学生の能力や適性を確認し、採用後のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。
しかし、インターンシップという名称のもとで、学生に社員と同じような業務を担当させながら、賃金を支払わない事例が問題となっています。
学生側には、就職活動で不利になりたくないという心理があります。そのため、長時間の拘束や無給での業務を求められても、企業に異議を唱えにくい構造があります。
重要なのは、インターンシップという名称だけで、労働基準法や最低賃金法の適用が除外されるわけではないという点です。
学生であっても、実態として労働者に該当すれば、企業には賃金の支払義務が生じます。
インターンシップの位置付けと4つの類型
2022年4月、産学協議会は学生のキャリア形成支援活動を4つの類型に整理しました。
タイプ1:オープン・カンパニー
企業説明会や業界研究イベントなどが該当します。企業や業界について理解を深めることが中心で、通常は実際の労働を伴いません。
タイプ2:キャリア教育
大学の授業や企業による教育プログラムなどが該当します。職業観の形成やキャリアについての学習が目的です。
タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
学生が職場で実務を体験するプログラムです。企業の業務に接する機会が多く、教育と実務の境界が問題になりやすい類型です。
タイプ4:高度専門型インターンシップ
大学院生などを中心に、高度な専門知識を活用して実務に取り組むものです。報酬を伴うことが基本となる類型です。
この分類では、タイプ3とタイプ4がインターンシップに位置付けられています。
ただし、この4類型はキャリア形成支援活動の分類であり、労働法上の労働者性を直接決定するものではありません。
実際に労働者に該当するかどうかは、プログラムの名称や分類ではなく、具体的な活動内容によって判断されます。
無給でも問題がない場合と違法になる場合
インターンシップが無給であること自体が、直ちに違法となるわけではありません。
例えば、社員の仕事を見学したり、模擬的な課題に取り組んだりするだけであれば、教育活動として無給で実施できる場合があります。
一方、企業の指揮命令を受けながら、実際の商品販売、営業活動、資料作成、システム開発などを担当し、企業の事業活動に労働力を提供している場合には、労働者と判断される可能性があります。
労働基準法9条では、労働者について、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者と定めています。
判断に当たっては、特に次のような事情が重要になります。
- 企業から具体的な業務指示を受けているか
- 勤務時間や勤務場所が指定されているか
- 業務の依頼を自由に断れるか
- 社員と同様の業務を継続的に担当しているか
- 企業の事業活動に実質的な労働力を提供しているか
これらは個別に判断するのではなく、活動全体の実態から総合的に判断されます。
例えば、毎日決められた時間に出勤し、社員の指示に従って顧客対応や営業資料の作成を担当している学生については、無給の教育活動と説明することが難しくなる場合があります。
最低賃金は学生にも適用される
インターンシップに参加する学生が労働者に該当する場合、最低賃金法が適用されます。
最低賃金は、学生であることや就業経験が少ないことを理由に、自由に引き下げられるものではありません。
例えば、東京都の最低賃金が時間額1,280円である場合、1日8時間、月20日働けば、最低賃金を基準とする月額賃金は次のようになります。
1,280円×8時間×20日=204,800円
これは通常の労働時間に対する単純計算であり、時間外労働などがあれば別途検討が必要です。
仮に企業が月額5万円の謝礼を支払っていたとしても、それだけで適法になるわけではありません。
労働者に該当する場合には、対象となる賃金と労働時間を確認し、最低賃金を満たしているか判断する必要があります。
なお、最低賃金は地域や改定時期によって異なるため、実際の勤務場所に適用される金額を確認することが重要です。
長時間拘束と残業代の問題
賃金だけでなく、労働時間も重要な論点です。
労働者に該当する学生には、原則として1日8時間、週40時間という法定労働時間の規制が適用されます。
また、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩が必要です。
法定労働時間を超える時間外労働については、原則として25%以上の割増賃金が必要になります。午後10時から午前5時までの深夜労働にも、原則として25%以上の割増賃金が適用されます。
例えば、学生が午前9時から午後10時まで拘束され、途中の休憩が1時間であれば、実労働時間は12時間になります。
この場合、法定労働時間を超える4時間について、時間外労働の規制と割増賃金の問題が生じます。
午後10時以降も働く場合には、深夜割増についても確認が必要です。
企業がインターンシップを教育活動と説明していても、実態が労働であれば、通常の労働者と同様の法的保護が及びます。
企業が学生を無給で働かせる経営上のリスク
無給インターンシップの問題は、学生の権利保護だけにとどまりません。
企業にとっても、労務管理や企業統治に関わる重要な問題です。
学生が労働者に該当するにもかかわらず賃金を支払っていなければ、未払い賃金の請求を受ける可能性があります。
最低賃金法や労働基準法に違反する場合には、行政による指導や法令に基づく責任が問題になることもあります。
また、学生を低廉な労働力として利用しているとの評価が広がれば、企業の採用活動や社会的信用にも悪影響が及びます。
特に現在は、学生が企業の労働環境についてSNSなどで情報を共有することも珍しくありません。
採用活動のために実施したインターンシップが、結果として企業の評判を損なうことも考えられます。
企業には、教育目的と実際の労働を明確に区別した制度設計が求められます。
学生が確認しておきたい5つの事項
インターンシップに参加する学生は、開始前に次の事項を確認しておくことが重要です。
1.活動内容
見学や研修が中心なのか、実際の業務を担当するのかを確認します。
2.参加日数と拘束時間
開始時刻、終了時刻、休憩時間、休日の取り扱いを確認します。
3.報酬の有無と計算方法
無給なのか、有給なのか、有給の場合は時間額や支払方法がどうなっているのかを確認します。
4.指揮命令と業務上の責任
誰から指示を受けるのか、業務を断ることができるのか、成果物が実際の事業に利用されるのかを確認します。
5.相談窓口
大学のキャリアセンターや企業の担当部署など、問題が生じた場合の相談先を把握します。
これらの事項を事前に確認することで、参加後のトラブルを防ぎやすくなります。
無給インターンシップで問題が生じた場合の対応
既に無給で働いている学生については、まず実際の活動状況を整理することが重要です。
参加した日付、開始・終了時刻、休憩時間、担当業務、指示を出した担当者などを記録しておきます。
メールやチャットでの業務指示、勤務予定表、提出した成果物なども、実態を確認するための資料になります。
そのうえで、大学のキャリアセンターや都道府県労働局の総合労働相談コーナー、労働基準監督署などに相談する方法があります。
労働者に該当すると判断される場合には、未払い賃金を請求できる可能性があります。
ただし、実際の請求には労働者性や労働時間、賃金額などの確認が必要です。
また、学生が企業との関係悪化を心配することも考えられます。その場合には、いきなり企業と対立するのではなく、大学や公的相談窓口を通じて対応方法を検討することも有効です。
就職活動における企業選びの重要性
学生にとって、インターンシップは就職活動を有利に進めるための機会でもあります。
しかし、企業から内定を得ることだけが目的になってしまうと、不適切な労働環境を受け入れてしまうおそれがあります。
むしろ、インターンシップは企業の実態を確認する機会と考えることができます。
学生に対する説明が丁寧か、勤務時間が適切に管理されているか、社員が学生を尊重しているかといった点は、入社後の働き方を考えるうえでも参考になります。
無給で長時間働くことを当然とする企業であれば、入社後の労務管理についても慎重に確認する必要があります。
企業の知名度や採用実績だけでなく、働く人をどのように扱っているかという視点が欠かせません。
結論
インターンシップは、学生が社会や企業を理解し、自分の将来を考えるための重要な制度です。
しかし、その教育的な意義を理由として、企業が学生を無給で働かせてよいわけではありません。
判断の基本となるのは、名称ではなく活動の実態です。
企業の指揮命令下で労働力を提供している場合には、学生であっても労働者として保護され、最低賃金以上の賃金や適切な労働時間管理が必要になります。
企業は、学生の成長を支援する教育活動と、事業のための労働を明確に区別する必要があります。
学生や保護者も、就職活動だから仕方がないと考えるのではなく、労働法の基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。
人生100年時代には、若い世代が安心して働き始められる環境を整えることが、長期的な職業生活の基盤になります。
インターンシップの適正化は、学生の権利を守るだけでなく、企業の健全な人材育成と持続的な成長にもつながる課題です。
参考
日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「インターン、無給が当然? 『労働』なら最低賃金以上の支払いが必要」
厚生労働省「インターンシップにおける学生の労働者性に関する考え方」
厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
労働基準法第9条、第32条、第34条、第37条
最低賃金法第4条
採用と大学教育の未来に関する産学協議会「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」