介護人材不足を考えるとき、「現在何人足りないのか」だけを見ていては十分ではありません。
これから介護を必要とする高齢者が増えれば、必要な介護職員数も増えていきます。
一方で、介護の担い手となる現役世代は減少していきます。
必要な人は増えるのに、働き手を確保できる母数は小さくなる。
この需要と供給の差が「需給ギャップ」です。
参考記事では、厚生労働省の推計として、必要となる介護職員数は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人とされています。
単純に現在の人手不足を解消すれば終わりではありません。
将来さらに増える介護需要を、減少する働き手でどう支えるのかという構造的な問題があります。
今回は、介護人材の需給ギャップとは何かを整理します。
需給ギャップとは何か
需給とは「需要」と「供給」を合わせた言葉です。
介護人材で考える場合、需要は介護サービスを提供するために必要な職員数です。
供給は実際に介護現場で働くことのできる人材です。
必要な職員数と確保できる職員数が一致していれば、大きな不足はありません。
しかし、
必要な職員数が250万人
確保できる職員数が230万人
だったとすれば、20万人分の差が生じます。
これが介護人材の需給ギャップです。
需要が増えるだけでもギャップは広がります。
供給が減るだけでも広がります。
介護では、この二つが同時に進む可能性があることが大きな問題です。
なぜ介護需要が増えるのか
介護人材の需要を左右する大きな要因が高齢化です。
高齢者が増えれば、介護サービスを必要とする人も増える可能性があります。
特に年齢が高くなるほど、日常生活で何らかの支援が必要になる人が増えていきます。
介護施設だけではありません。
訪問介護があります。
通所介護があります。
高齢者住宅などで提供される介護もあります。
様々な場所で介護人材が必要になります。
介護需要が増えれば、同じサービス提供体制を維持するためにも、より多くの働き手が必要になります。
2040年度には約272万人が必要になる
参考記事では、厚生労働省の推計として、介護職員は2026年度に約240万人が必要になるとされています。
さらに2040年度には約272万人が必要になるとされています。
2026年度から2040年度までで考えると、必要人数は約32万人増える計算です。
これは現在の不足を埋めれば終わるという話ではないことを示しています。
仮に2026年度に必要な人材をすべて確保できたとしても、その後の介護需要の増加に合わせて、さらに人材を確保していかなければなりません。
介護人材政策には、将来を見据えた継続的な対応が必要なのです。
一方で現役世代は減っていく
介護需要が増える一方で、働き手を確保する環境は厳しくなります。
少子化によって若い世代が減っていくからです。
これは介護業界だけの問題ではありません。
製造業でも人が必要です。
物流でも必要です。
建設でも必要です。
小売りや外食でも人材不足が起きます。
医療や保育などでも働き手が必要です。
介護業界は、こうした他の産業と限られた労働力を取り合うことになります。
「介護需要が増えたから、その分だけ介護職員を増やせばよい」と簡単にはいかないのです。
若者だけで必要人数を確保するのは難しい
介護人材を増やす方法として、新しく学校を卒業する若者に介護業界へ入ってもらうことは重要です。
しかし、若年人口そのものが減っていけば、新卒採用だけで必要人数を増やし続けることは難しくなります。
例えば、介護業界が採用を増やそうとしても、他の業界も同じように若者を求めています。
賃金や勤務条件、仕事の魅力などを比較して就職先が選ばれます。
そのため、介護人材政策では「新しい若者を何人採用するか」だけではなく、もっと広い人材層を見る必要があります。
一度介護職を離れた人。
短時間なら働ける人。
高齢者。
外国人材。
介護資格を持っていない補助人材。
様々な働き手を組み合わせる必要があります。
潜在介護福祉士が重要になる理由
そこで注目されるのが潜在介護福祉士です。
介護福祉士の資格を持っているにもかかわらず、現在は介護の仕事をしていない人たちです。
参考記事では、資格を持つ人のうち介護職として働いている割合は約6割とされています。
すでに資格や経験を持つ人が介護現場の外にいるのであれば、新しい人をゼロから育成するだけでなく、その人たちに戻ってもらうことも人材確保策になります。
ただし、「人手不足だから戻ってください」と呼びかけるだけでは十分ではありません。
なぜ辞めたのか。
どのような条件なら戻れるのか。
ここまで考える必要があります。
外国人材だけでも解決できない
介護人材不足への対応では、外国人材の活用も重要です。
日本人の現役世代が減少するなかで、海外から介護分野へ人材を受け入れることは供給を増やす方法の一つです。
しかし、外国人材だけですべての不足を埋めるという考え方にも限界があります。
介護では日本語によるコミュニケーションが重要です。
利用者との信頼関係も必要です。
教育や生活支援、長く働いてもらうための環境整備も欠かせません。
さらに、人材不足は日本だけの問題ではありません。
海外でも高齢化が進めば介護人材が必要になります。
外国人材は重要な柱ですが、他の対策と組み合わせる必要があります。
人数を増やすだけでなく生産性も高める
働き手が減るなかでは、人材の人数だけで需給ギャップを埋めることが難しくなります。
そこで必要になるのが、限られた人材の時間を有効に使うことです。
これまで取り上げた業務切り分けやタスクシフトがその例です。
介護福祉士が清掃や配膳、備品整理などに多くの時間を使っているのであれば、介護助手などへ移します。
スポットワーカーを周辺業務に活用する方法もあります。
ICTや介護機器によって業務負担を減らすことも考えられます。
専門職1人が無理をして多くの利用者を担当するという意味ではありません。
専門職でなくてもできる仕事を整理し、専門職の時間を専門的なケアへ振り向けるという意味での生産性向上です。
離職を減らすことも供給を増やす
人材供給を増やすというと、新規採用ばかりに目が向きます。
しかし、現在働いている人が辞めなければ、それも人材供給を維持することになります。
例えば、毎年10万人を採用して10万人が辞める場合、人数は増えません。
一方、採用が8万人でも離職を4万人に抑えられれば、4万人増えます。
数字を単純化した例ですが、人材確保では離職を減らす効果が大きいことが分かります。
賃金改善。
身体的負担の軽減。
柔軟なシフト。
短時間正社員。
職場環境の改善。
こうした定着策も需給ギャップを縮める重要な方法です。
一つの対策では埋められない
介護人材の需給ギャップが難しいのは、単独の政策では解決しにくいことです。
賃金を上げるだけでも足りません。
外国人材だけでも足りません。
新卒採用だけでも足りません。
潜在介護福祉士の復職だけでも足りません。
必要なのは複数の対策を組み合わせることです。
新しい人材を育成する。
現在働いている人の離職を防ぐ。
離職した有資格者に戻ってもらう。
外国人材を受け入れる。
短時間勤務などで働ける人を増やす。
介護助手やスポットワーカーを活用する。
業務切り分けやタスクシフトを進める。
こうした対策を同時に進めることで、需要と供給の差を縮めていく必要があります。
結論
介護人材の需給ギャップとは、介護サービスを提供するために必要な職員数と、実際に確保できる職員数との差です。
介護分野では、この差が広がりやすい構造があります。
高齢化によって介護を必要とする人が増え、必要な介護職員数も増える一方で、少子化によって働き手となる現役世代は減っていくからです。
参考記事によれば、必要な介護職員数は2026年度の約240万人から、2040年度には約272万人へ増えるとされています。
だからこそ、現在の不足人数だけを埋めればよいわけではありません。
新卒者を採用する。
潜在介護福祉士に戻ってもらう。
外国人材を受け入れる。
現在働いている人の離職を防ぐ。
短時間でも働ける仕組みをつくる。
介護助手やスポットワーカーへ仕事を分ける。
こうした対策を組み合わせる必要があります。
介護人材不足は、「求人を増やせば解決する」という単純な問題ではありません。
必要な人材が増える一方で、働き手そのものが減っていく。
この二つの流れを同時に考え、人を増やす政策と限られた人材を生かす政策を組み合わせることが、介護人材の需給ギャップを縮める鍵になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 離職した介護人材の復職
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 介護、スポットワーク拡大 人手不足補う