2027年1月から始まる「こどもNISA」は、0歳から長期、積み立て、分散投資を始められる制度です。
子どもにとって18年間という長い時間を資産形成に利用できることは、大きな特徴です。
一方、考えなければならない問題もあります。
すべての家庭が同じ金額を投資できるわけではないことです。
年間投資上限は60万円ですが、毎年60万円を投資できる家庭もあれば、毎月数千円でも難しい家庭があります。
さらに祖父母から資金援助を受けられる家庭もあります。
0歳から始まる資産形成だからこそ、家庭の経済力の違いが長期間の運用を通じて子どもの資産格差につながる可能性があります。
こどもNISAは投資資金を給付する制度ではない
まず確認しておきたいのは、こどもNISAを利用すれば国から投資資金がもらえるわけではないということです。
制度が提供するのは、一定の投資によって生じた利益などを非課税にする仕組みです。
実際に投資するお金は、それぞれの家庭が用意する必要があります。
年間投資上限60万円は、60万円を国が支給するという意味ではありません。
年間60万円まで制度を利用して投資できるという上限です。
そのため、家計に余裕があるほど制度を活用しやすくなる面があります。
0歳から毎年60万円を投資できる家庭もある
例えば0歳から毎年60万円を投資できる家庭を考えてみます。
年間60万円なら毎月5万円です。
こどもNISAの非課税保有限度額は600万円であるため、年間60万円ずつなら10年間で投資元本600万円に達します。
その後も保有資産の運用が続けば、価格変動はあるものの、18歳になるまで長期間運用できます。
一方、投資資金を用意できない家庭では、同じ制度が存在していても資産形成を始めることができません。
制度へのアクセスが同じでも、実際に利用できる程度は家庭によって異なるのです。
祖父母の資産によっても差が生じる
こどもNISAでは、親だけでなく祖父母が投資資金を提供することも考えられます。
日本の家計金融資産の6割超を60歳以上が保有しています。
金融資産に余裕のある祖父母であれば、孫へ毎年資金を贈与し、こどもNISAによる資産形成を支援できる可能性があります。
一方、祖父母自身の生活に余裕がなければ、そのような支援は難しくなります。
つまり、子どもの資産形成に親の所得や資産だけでなく、祖父母の資産状況まで影響する可能性があります。
家族が持つ資産の差が、次の世代へ引き継がれることになります。
長期投資では時間が格差を広げる可能性もある
長期投資では、時間を味方につけることが重要だといわれます。
これは資産形成にとってメリットですが、格差という視点では別の側面もあります。
0歳から投資を始められる子どもと、18歳になってから初めて投資を始める人では、運用できる期間が異なります。
さらに、投資元本が大きければ、同じ運用成績でも金額としての差は大きくなります。
長期間にわたって運用益が再投資されれば、その差が積み重なっていく可能性があります。
時間は資産形成の味方であると同時に、最初の資産額の違いを長期間引き継ぐ要因にもなり得ます。
インフレは資産を持つ家庭と持たない家庭に異なる影響を与える
物価上昇が続く環境では、資産を保有しているかどうかも重要になります。
株式などの金融資産は、経済や企業業績などによって価格が変動します。
必ず物価上昇を上回るわけではありません。
しかし、現金だけを保有していれば、物価上昇によって購買力が低下する可能性があります。
投資できる家庭では、資産の一部をさまざまな金融商品へ分散できます。
一方、毎月の生活費で精いっぱいの家庭では、投資に回す余裕資金そのものがありません。
インフレ時代には、所得格差だけでなく資産を持つかどうかという違いも家計に大きく影響します。
教育格差と資産格差が重なる可能性がある
家庭の経済力は、子どもの金融資産だけに影響するわけではありません。
教育にも影響します。
塾。
私立学校。
大学。
留学。
資格取得。
こうした教育機会には費用が必要になることがあります。
経済的に余裕のある家庭では、教育に資金を使いながら、同時にこどもNISAで将来の資産形成を進めることもできます。
一方、教育費を確保するだけで精いっぱいの家庭では、投資まで手が回らない場合があります。
教育への投資と金融資産への投資の両方で差が生じれば、その影響が成人後まで続く可能性があります。
少額でも利用できることには意味がある
ただし、年間60万円を投資できなければ、こどもNISAを利用する意味がないわけではありません。
年間60万円は上限です。
毎月5万円を必ず積み立てる必要はありません。
毎月1万円なら年間12万円です。
毎月5,000円なら年間6万円です。
少額でも長期間続ければ、資産形成の経験を積むことができます。
さらに子どもと一緒に投資について学ぶことで、金融教育にもつながります。
上限を使い切ることを目標にするのではなく、それぞれの家庭が無理のない範囲で利用することが重要です。
NISAだけでは子どもの格差問題を解決できない
こどもNISAは資産形成を支援する制度ですが、子どもの経済格差そのものを解決する制度ではありません。
投資する余裕がない家庭に対して、非課税枠だけを用意しても十分な支援にならない場合があります。
そのため、子育て支援や教育支援、社会保障などとは別に考える必要があります。
家庭の所得にかかわらず教育を受けられる環境をどう整えるのか。
子育てにかかる負担をどう軽減するのか。
若い世代の所得をどう増やすのか。
こうした政策と資産形成支援は役割が異なります。
こどもNISAだけですべてを解決しようとするのではなく、複数の制度を組み合わせて考える必要があります。
金融教育の機会は広く提供できる
投資できる金額には家庭差がありますが、金融教育についてはできるだけ家庭環境に左右されない仕組みが重要です。
預金と投資の違い。
金利とは何か。
インフレとは何か。
分散投資とは何か。
投資には損失があること。
こうした知識は、資産の多い家庭の子どもだけが学べばよいものではありません。
学校教育などを通じて、家庭の資産状況にかかわらず金融知識を身につけられる環境を整えることが重要です。
将来自分で収入を得るようになったとき、正しい知識があれば少額からでも資産形成を始めることができます。
結論
こどもNISAは、0歳から長期的な資産形成を始められる制度です。
一方、投資する資金は家庭が用意するため、利用できる程度には差が生じます。
毎年60万円を投資できる家庭。
少額なら投資できる家庭。
投資する余裕がない家庭。
さらに祖父母から資金援助を受けられるかどうかによっても違いが生まれます。
長期投資では時間が資産形成の力になります。
そのため、0歳時点からの投資額の違いが、長期間を経て大きな資産差につながる可能性もあります。
だからこそ、こどもNISAによる資産形成支援と、子育て支援、教育支援、社会保障を分けて考える必要があります。
こどもNISAを利用できる家庭の資産形成を後押しすると同時に、投資する余裕のない家庭の子どもにも教育や金融知識の機会を確保することが重要です。
こどもNISAの普及を考えることは、子どもに投資をさせるかどうかだけの問題ではありません。
家庭の資産格差を次の世代へどのように引き継がせないかという問題についても考えるきっかけになるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に