REITの成長というと、新しい不動産を次々に購入して資産規模を拡大する姿をイメージしがちです。
しかし、金利が上昇し、不動産価格も高い環境では、物件を買い続けるだけでは十分な収益を確保できないことがあります。
そこで重要になるのが物件の入れ替えです。
収益力や将来性の低い不動産を売却し、その資金をより収益性の高い物件の取得や借入金の返済に使うことで、REIT全体の質を高める戦略です。
特に金利上昇局面では、資産規模を増やすことよりも、既に持っている資産をどのように組み替えるかが重要になります。
今回は、REITが行う物件入れ替えの目的と含み益の実現、売却資金の活用について見ていきます。
物件入れ替えとは
REITの物件入れ替えとは、保有している不動産を売却し、その一方で新しい不動産を取得する資産運用戦略です。
資産入れ替えやポートフォリオの入れ替えと呼ばれることもあります。
例えば、REITが築年数の古いオフィスビルを100億円で売却し、その資金を利用して新しい物流施設を取得するとします。
保有資産の総額が大きく変わらなくても、中身は変わります。
重要なのは単純に物件数を増やすことではありません。
収益性や将来性の低い資産から、より魅力的な資産へ資金を移すことが目的です。
なぜ保有物件を売却するのか
不動産は長期間保有できる資産ですが、すべての物件を永久に持ち続けることが最適とは限りません。
建物は時間の経過とともに老朽化します。
築年数が進めば大規模修繕が必要になり、維持管理費が増える可能性があります。
周辺地域の競争環境が変化することもあります。
新しいオフィスビルや商業施設が周辺に建設されれば、既存物件の競争力が低下することがあります。
また、購入した当時と比較して不動産価格が大幅に上昇していれば、高値で売却できる場合もあります。
アセットマネージャーは、保有を続けた場合に得られる将来収益と、現在売却した場合に得られる資金を比較して判断します。
資産規模より資産の質が重要
低金利時代のREITでは、借入金を利用しながら新しい不動産を取得し、資産規模を拡大する戦略が取りやすい環境にありました。
資産規模が大きくなれば、賃料収入の増加も期待できます。
しかし、金利が上昇すると借入コストも増えます。
例えば物件利回りが4%でも、資金調達コストが大きく上昇すれば、新しい物件を取得するメリットは小さくなります。
そのような環境では、無理に資産総額を増やすよりも、既存資産の中から収益性の低い物件を売却する方が合理的な場合があります。
量から質への転換です。
含み益とは
物件売却を理解するうえで重要なのが含み益です。
含み益とは、保有している不動産の現在価値が帳簿上の価格を上回っている状態を意味します。
例えば、REITが過去に100億円で取得した不動産について考えます。
その後、不動産価格が上昇し、現在150億円で売却できるとします。
単純化すると50億円の価値上昇が生じています。
しかし、物件を保有しているだけでは、この利益は確定していません。
これが含み益です。
実際に150億円で売却すれば、含み益を実現することができます。
含み益を分配金に活用できる場合もある
REITが物件を売却して利益を計上すると、その売却益が分配金の原資になることがあります。
例えば、賃料収入の伸びが鈍化していても、含み益の大きな物件を売却することで利益を確保できます。
これにより分配金を一定程度維持できる可能性があります。
ただし、注意も必要です。
不動産売却益は毎年継続して発生する収益ではありません。
賃料収入は物件を保有している限り継続的に得られる可能性がありますが、売却益は基本的に一度限りです。
したがって、売却益によって分配金が増えた場合には、それが継続的な収益力の向上によるものなのかを確認する必要があります。
売却すると賃料収入は失われる
含み益のある物件を売れば利益を得られますが、メリットばかりではありません。
売却した物件から得ていた賃料収入は、その後なくなります。
例えば年間5億円のNOIを生み出していた物件を売却すれば、REIT全体の収益はその分減少します。
売却資金で新しい物件を取得し、同等以上の収益を得られれば問題は小さくなります。
しかし、不動産価格が高く、新規物件を十分な利回りで取得できない場合には、売却後の収益力が低下する可能性があります。
そのため物件売却では、売却価格だけでなく、失われる将来収益も考える必要があります。
売却資金で新しい物件を取得する
物件売却によって得た資金の代表的な使い道が、新しい不動産の取得です。
例えば老朽化したオフィスビルを売却し、成長が期待できる物流施設や住宅へ投資する方法があります。
これによってREITのポートフォリオ構成を変えることができます。
人口動態、働き方、電子商取引、観光需要など、不動産を取り巻く環境は長期的に変化します。
市場環境の変化に合わせて資産を組み替えることは、REITの競争力を維持するうえで重要です。
借入金の返済にも使える
金利上昇局面で特に重要になるのが、売却資金による借入金の返済です。
例えば100億円で物件を売却し、その資金を借入金返済に充てれば、有利子負債を減らせます。
借入金が減れば、将来支払う利息も減少します。
LTVを引き下げる効果も期待できます。
金利が低い時代には、借入金を利用して資産を拡大することが合理的でした。
しかし借入金利が上昇すれば、借金を減らすこと自体が収益改善策になる場合があります。
資産を売って負債を減らすという財務戦略が、以前より重要になるのです。
投資口の取得という選択肢もある
上場REITでは、状況によって自己投資口の取得が検討されることもあります。
市場価格が保有不動産の価値に比べて大幅に割安になっている場合、新しい不動産を購入するより、自らの投資口を取得する方が投資効率が高いと判断されることがあります。
物件を売却して得た資金をどこへ振り向けるかという資本配分は、REITの運用力を見る重要なポイントです。
新規物件取得だけが成長投資ではありません。
借入金返済や自己投資口取得を含め、最も投資主価値を高める方法を選ぶ必要があります。
金利上昇で物件の選別が進む
金利上昇は不動産市場にも影響します。
不動産投資家が求める利回りが上昇すれば、物件価格には下落圧力がかかります。
特に収益力の低い物件や将来多額の修繕費が必要な物件は、評価が厳しくなる可能性があります。
一方、立地が良く、賃料上昇が期待できる優良物件には資金が集まりやすくなります。
その結果、不動産市場では物件間の価格差が広がることも考えられます。
REITにとっても、どの物件を残し、どの物件を売却するのかという選別が重要になります。
私募REITでも物件売却が増える可能性
私募REITでも資産入れ替えの重要性が高まっています。
私募REITは投資口が証券取引所で自由に売買されないため、投資家から資金回収の要請があった場合、対応できる資金を確保する必要があります。
新たな投資家から十分な資金を集められなければ、保有物件を売却して資金を確保する場合もあります。
実際、金利上昇によって私募REITの投資環境が厳しくなれば、物件売却が増える可能性があります。
その物件を上場REITや他の不動産ファンドが取得すれば、REIT市場全体で資産の入れ替えが進むことになります。
売却そのものではなく売却後を見る
REITが大型物件の売却を発表すると、売却益の金額に注目が集まりがちです。
しかし、本当に重要なのはその後です。
売却資金を新しい物件へ投資するのか。
借入金を返済するのか。
分配金として投資家へ還元するのか。
複数の用途へ振り分けるのか。
同じ100億円の物件売却でも、その資金の使い方によって将来の収益力は大きく変わります。
物件売却はゴールではなく、資産配分を見直すための手段として考える必要があります。
結論
REITの物件入れ替えとは、収益力や将来性を考えながら既存不動産を売却し、新しい資産への投資や借入金返済などへ資金を振り向ける戦略です。
不動産価格が上昇している場合には、物件売却によって含み益を実現し、売却益を分配金などに活用することもできます。
一方、物件を売却すれば、それまで得ていた賃料収入も失われます。
そのため重要なのは、いくらで売れたかだけではなく、売却後の資金をどのように使うかです。
金利上昇によって借入金を利用した資産拡大が難しくなるほど、REITには保有資産を選別する力が求められます。
これからのREIT市場では、資産総額をどれだけ増やしたかだけでなく、どの物件を売り、どこへ資金を再配分したのかを見ることが、運用力を判断する重要な視点になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私募REIT曲がり角 国内初の解散、調達コスト増 金利上昇が再編促す