日本では「何歳まで働くのか」という問いに対する答えが、ここ数年で大きく変わりつつあります。
かつては「60歳定年」が一般的でしたが、その後「65歳までの雇用確保」が制度化され、現在はさらにその先を見据える議論が進んでいます。
日本経済新聞社の世論調査によると、「70歳以降も働くつもり」と回答した人が初めて4割を超えました。
平均回答年齢は68歳を超えています。
これは単なる意識の変化ではなく、日本社会の構造変化を映し出す現象でもあります。
本稿では、この調査結果を手がかりに、高齢期就労の現実とその背景を整理していきます。
高齢期就労の意識はどこまで高まっているのか
日本経済新聞社の郵送世論調査では、何歳まで働くつもりかを自由回答で尋ねています。
その結果は次のようなものでした。
- 平均回答年齢:68.3歳
- 65〜69歳:27%
- 70〜74歳:23%
- 75歳以上:19%
70歳以降の就労を希望する人は合計で42%となり、調査開始以来初めて4割を超えました。
また、年齢別の傾向を見ると興味深い特徴があります。
- 20代:平均63.4歳
- 30代:平均64.8歳
- 40〜50代:平均67.2歳
- 60代:70歳以降就労希望58%
つまり、年齢が高くなるほど長く働く意向が強くなるという結果になっています。
若い世代ほど早く引退したいと考える一方で、実際に高齢期に近づくと「もう少し働きたい」と感じる人が増える傾向があることがわかります。
なぜ高齢期まで働こうと考える人が増えているのか
70歳以降の就労意向が高まっている背景には、いくつかの要因があります。
①老後不安の高さ
同調査では、老後に不安を感じている人は75%に達しました。
調査開始以来、この割合はほぼ変わっていません。
年金制度への不安、物価上昇、医療費の増加などが背景にあります。
老後の生活を考えたとき、
- 年金だけでは足りない
- できるだけ働き続けたい
と考える人が増えているとみられます。
②平均寿命の延び
日本人の平均寿命はすでに80歳を超えています。
さらに重要なのは「健康寿命」です。
多くの人が70歳前後まで比較的健康に生活できるようになり、
- まだ働ける
- 社会との接点を持ちたい
という意識が強まっています。
「60歳で完全引退」というモデルは、すでに現実と合わなくなりつつあります。
③制度が追いつき始めている
政府も高齢期就労を前提とした制度へと移行しています。
高年齢者雇用安定法では、
- 65歳までの雇用確保は義務
- 70歳までの就業機会確保は努力義務
とされています。
具体的には、
- 定年延長
- 継続雇用制度
- 業務委託契約
- 起業支援
など、企業が高齢者の就業機会を確保する仕組みが求められています。
つまり、日本の制度自体が「70歳就労社会」に向けて動き始めているのです。
一方で進まない「学び直し」
興味深いのは、再就職の準備状況です。
老後に備えて
- 学び直し(リスキリング)
をしている人は**わずか4%**でした。
つまり、
- 働き続けたい人は多い
- しかし準備している人は少ない
という状態です。
この点は日本の大きな課題と言えるでしょう。
欧米では中高年の教育投資が比較的盛んですが、日本では企業内教育に依存する構造が強く、個人主導の学び直しが広がりにくい傾向があります。
高齢期就労は「選択」から「前提」へ
かつて高齢期就労は
「元気な人が続けるもの」
という位置づけでした。
しかし現在は、
- 人手不足
- 長寿化
- 年金財政
などを背景に、
社会全体の前提条件
に変わりつつあります。
企業も
- 定年延長
- シニア人材活用
- 副業制度
などを進め始めています。
働く期間が長くなることは、キャリアのあり方そのものを変える可能性があります。
結論
70歳以降も働く意向を持つ人が4割を超えたという調査結果は、日本社会の大きな転換点を示しています。
- 人生100年時代
- 高齢期就労の常態化
- 年金と働き方の再設計
こうした変化の中で、働く期間は確実に長くなっています。
一方で、学び直しなどの準備はまだ十分とは言えません。
高齢期まで働く社会では、
- スキルの更新
- キャリアの再設計
- 健康管理
といった要素がこれまで以上に重要になります。
70歳まで働く社会は、すでに現実になりつつあります。
問題は「働くかどうか」ではなく、どのように働き続けるのかという点に移りつつあると言えるでしょう。
参考
日本経済新聞「70歳以降も働く」初の4割 郵政世論調査(2026年3月12日朝刊)

