人生100年時代の事業承継で最大の壁は非上場株式評価なのか 相続税対策編

経営

企業オーナーにとって、事業承継は人生最大の経営課題の一つです。後継者選びや経営権の移転だけでなく、相続税や贈与税の負担も大きなテーマになります。

その中でも、多くの中小企業経営者を悩ませているのが「非上場株式の評価」です。株式市場で売買されていない会社の株価をどのように評価するのかは非常に難しく、実際の経営感覚と税務上の評価額が大きく異なるケースも少なくありません。

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」において、日本税理士会連合会(日税連)が評価制度の見直しについて具体的な提案を行いました。今回は、この議論から見えてくる事業承継の課題と今後の方向性について考えてみます。

非上場株式評価が難しい理由

上場企業であれば株価は市場が決めてくれます。しかし中小企業の株式には市場価格がありません。

そのため税務上は、

・類似業種比準価額方式

・純資産価額方式

などを用いて評価します。

ところが、この評価方法が実際の企業価値と大きく異なる場合があります。

例えば業績が低迷し会社規模が縮小しているにもかかわらず、評価額が上昇するケースがあります。

経営者から見れば、

「会社の価値は下がっているのに税金計算上の株価は上がる」

という現象が起きるため、納税者の理解を得にくい状況が生じています。

税務上の理論と経営現場の実感にズレがあることが大きな問題なのです。

評価計算の複雑さが事業承継を難しくする

非上場株式評価は専門家でも苦労するほど複雑です。

類似業種比準価額を計算するためには、

・配当金額

・利益金額

・純資産価額

など多くのデータを収集しなければなりません。

さらに会社規模区分や特定会社判定なども必要になります。

企業オーナーにとっては、

「なぜこの金額になるのか」

が理解しづらく、税理士による説明にも限界があります。

人生100年時代において事業承継はますます増加しますが、制度が複雑なままでは円滑な承継の妨げになる可能性があります。

特定会社判定が生む不公平感

日税連が問題提起した論点の一つに「特定の評価会社」があります。

一定の条件に該当すると、評価方法が突然変更される場合があります。

その結果、

・同じような会社なのに評価額が大きく異なる

・株価が急上昇する

・相続税負担が大幅に増える

といった事態が起こります。

経営者から見れば、わずかな違いで税額が大きく変わるため不公平感を抱きやすい制度です。

税制の公平性と納税者の納得感を高めるためには、評価ルールの簡素化と透明化が求められます。

事業承継税制との一体的な見直しが必要

現在の事業承継税制には納税猶予制度があります。

一定の条件を満たせば相続税や贈与税の納税を猶予できますが、

・手続きが複雑

・継続要件が厳しい

・制度利用後の制約が多い

という課題があります。

もし株価評価制度だけを見直しても、事業承継税制との整合性が取れなければ根本的な解決にはなりません。

日税連が提案した「事業承継税制との一体的議論」は極めて重要な視点だと思います。

株価評価と納税制度は切り離せない関係にあるからです。

企業価値は帳簿だけでは測れない時代へ

近年の企業価値は大きく変化しています。

昔は土地や建物などの有形資産が中心でした。

しかし現在は、

・ブランド

・顧客基盤

・ノウハウ

・データ

・人的資本

といった無形資産が企業価値の大部分を占めるケースも増えています。

一方で税務上の評価は依然として資産中心の考え方が色濃く残っています。

今後は単なる時価純資産だけでなく、継続企業としての価値や事業の持続可能性も考慮した評価の在り方が求められるかもしれません。

非上場株式評価は単なる税務問題ではなく、日本企業の事業承継を支える重要なインフラなのです。

人生100年時代のオーナー経営者が準備すべきこと

今回の議論を見ていると、制度改正の方向性はまだ流動的です。

しかし経営者が今からできることはあります。

まず、自社株評価を定期的に把握することです。

相続発生時に初めて株価を知るのでは遅すぎます。

次に、事業承継税制の適用可能性を早めに検討することです。

さらに、株価だけでなく後継者育成や経営体制整備を進めることも重要です。

税金対策だけでは事業承継は成功しません。

企業価値を高め続けることこそ最大の相続対策になります。

結論

人生100年時代の事業承継において、最大の壁の一つは非上場株式評価であると言えます。

現行制度は公平性を重視する一方で、複雑さや納得感の不足という課題を抱えています。今回の日税連の提案は、単なる評価方法の見直しではなく、中小企業の円滑な事業承継を実現するための問題提起でもあります。

今後の制度改正の行方に注目しながら、経営者自身も早い段階から自社株評価と事業承継対策に取り組むことが重要です。企業を次世代へ引き継ぐためには、税務と経営の両面から準備を進める必要があるのです。

参考

税のしるべ
2026年6月12日
「非上場株式評価制度の見直し論点と税理士会の提言」

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