確定給付企業年金と確定拠出年金の違い――DB・企業型DC・iDeCoをどう選ぶか

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老後資金を準備するための企業年金制度には、さまざまな仕組みがあります。

代表的なものが、確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、個人型確定拠出年金(iDeCo)です。

いずれも公的年金を補完し、老後の所得を充実させるための制度ですが、掛け金の負担方法や運用責任、将来の給付額、税制上の取扱いなどが異なります。

特に近年は、給与の一部を企業年金の掛け金に振り替える「選択制企業年金」が広がっています。

選択制企業年金では、現在の社会保険料が軽減される場合がある一方、将来の厚生年金や社会保険給付が減少する可能性があります。

厚生労働省は、選択制の確定給付企業年金について、こうした不利益を従業員に説明するよう事業主に求める方針です。

企業年金を選ぶ際には、単に税金や社会保険料の軽減額を比較するだけでなく、制度ごとの特徴とリスクを理解することが重要です。

企業年金は公的年金を補完する制度

日本の年金制度は、国民年金と厚生年金を中心とする公的年金制度と、企業年金や個人年金などの私的年金制度によって構成されています。

国民年金は、原則として20歳以上60歳未満の人が加入する制度です。

会社員や公務員などは、国民年金に加えて厚生年金にも加入します。

企業年金は、こうした公的年金に上乗せして老後所得を確保するための制度です。

公的年金は、原則として生涯にわたって支給される所得保障の仕組みです。

一方、企業年金は、企業や従業員が掛け金を積み立て、制度の規約に従って将来の給付を受け取ります。

企業年金には、確定給付型と確定拠出型という大きな違いがあります。

この違いを理解することが、制度選択の出発点となります。

確定給付企業年金は給付額を約束する制度

確定給付企業年金(DB)は、企業が従業員に対して将来の給付を約束する制度です。

給付額は、加入期間や給与、制度の規約などに基づいて計算されます。

企業は、将来の給付に必要な資金を積み立て、運用します。

運用が予定どおりに進まなかった場合には、原則として企業が不足分を補う責任を負います。

そのため、従業員にとっては将来の給付内容を見通しやすいことが特徴です。

ただし、すべての確定給付企業年金で受取額が完全に固定されているわけではありません。

制度の設計によっては、一定の指標に応じて給付額が変動する仕組みもあります。

また、企業の財政状態や制度変更などによる影響にも注意が必要です。

確定給付企業年金の大きな特徴は、従業員自身が個別の運用商品を選択し、運用成果の責任を直接負う仕組みではないことです。

企業型確定拠出年金は従業員が運用する制度

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が拠出する掛け金を、従業員自身が運用する制度です。

掛け金の額や拠出方法は制度の規約などによって定められます。

従業員は、用意された投資信託や預貯金などの運用商品の中から、自分で商品を選択します。

将来受け取る金額は、掛け金の累計と運用成果によって決まります。

運用が順調であれば資産が増加する可能性がありますが、運用商品によっては元本割れが生じる可能性もあります。

確定給付企業年金と異なり、企業が一定の給付額を保証する仕組みではありません。

そのため、従業員には資産運用に関する知識が求められます。

企業側には、従業員に対する投資教育などを適切に実施することが求められます。

企業型DCは、企業にとって将来の給付債務を一定の範囲で管理しやすい制度ですが、従業員にとっては運用成果によって老後資金が変動する点が重要です。

iDeCoは個人が主体となる年金制度

個人型確定拠出年金(iDeCo)は、個人が自ら掛け金を拠出し、運用する制度です。

企業型DCと同様に、将来の受取額は掛け金と運用成果によって決まります。

iDeCoの大きな特徴は、掛け金が原則として全額所得控除の対象になることです。

所得税や住民税を負担している人にとって、掛け金の拠出による税負担の軽減が期待できます。

また、運用期間中の運用益は非課税となります。

受給時にも、受取方法などに応じて退職所得控除や公的年金等控除の対象となる場合があります。

ただし、iDeCoは原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。

また、加入期間などによっては、60歳になっても直ちに受給できない場合があります。

生活費や住宅購入資金など、途中で使う可能性がある資金をすべてiDeCoに振り向けることは適切ではありません。

DB・企業型DC・iDeCoの主な違い

3つの制度を比較する際には、掛け金の負担者、運用責任、給付額の決まり方に注目する必要があります。

確定給付企業年金では、原則として企業が掛け金を負担し、将来の給付を約束します。

規約に基づいて従業員が掛け金を負担する仕組みもあります。

企業型DCでは、企業が掛け金を拠出し、従業員自身が運用します。

規約で定めることにより、従業員が掛け金を上乗せするマッチング拠出を利用できる場合もあります。

iDeCoでは、原則として個人が掛け金を負担し、自分で運用します。

給付額の安定性を重視する場合には、確定給付企業年金が選択肢となります。

一方、自分で運用商品を選び、長期的な資産形成を目指す場合には、企業型DCやiDeCoが選択肢となります。

ただし、実際には勤務先が導入している制度や加入資格、拠出限度額などによって利用できる制度が異なります。

従業員が自由に3つの制度から選択できるとは限りません。

選択制企業年金と通常の企業年金の違い

ここで注意したいのが、「選択制」という仕組みです。

選択制企業年金は、確定給付企業年金や企業型DCとは別の年金制度を意味するものではありません。

給与の一部を企業年金の掛け金に振り替えるかどうかを従業員が選択する仕組みを指します。

例えば、毎月の給与40万円のうち3万円を企業年金の掛け金に振り替える場合、給与として受け取る金額は37万円となります。

この3万円が社会保険上の報酬に該当しない場合、標準報酬月額が下がる可能性があります。

その結果、社会保険料が軽減される一方、将来の厚生年金や傷病手当金などが減少する場合があります。

一方、企業が従来の給与とは別に掛け金を負担する通常の企業年金では、掛け金の拠出によって従業員の給与が減るわけではありません。

したがって、企業年金に加入すれば必ず社会保険料が下がるという理解は誤りです。

制度の名称だけでなく、給与と掛け金の関係を確認する必要があります。

社会保険料への影響は制度によって異なる

DB、企業型DC、iDeCoを比較する際、社会保険料への影響は重要な判断材料です。

通常のiDeCoでは、本人が給与などから掛け金を拠出します。

掛け金は所得控除の対象となりますが、その拠出によって標準報酬月額が下がるわけではありません。

したがって、通常のiDeCoの掛け金拠出は、将来の厚生年金を減少させる仕組みではありません。

企業型DCのマッチング拠出についても、従業員が負担する掛け金は、原則として標準報酬月額を減らすものではありません。

一方、給与を減額して企業の掛け金に振り替える選択制のDBや企業型DCでは、標準報酬月額が低下する場合があります。

つまり、社会保険料への影響を決めるのは、DBかDCかという制度の種類だけではありません。

掛け金がどのような仕組みで拠出されるかが重要です。

掛け金の上限と制度上の制約

企業型DCやiDeCoには、法令上の拠出限度額があります。

限度額は、勤務先の企業年金制度の有無や加入者の区分などによって異なります。

また、制度改正によって限度額や加入条件が変更されることがあります。

2026年12月には、iDeCoの拠出限度額などの大幅な見直しが予定されています。

そのため、加入を検討する際には、適用時点の制度を確認する必要があります。

一方、確定給付企業年金には、企業型DCと同じ形式の一律の掛け金上限はありません。

ただし、給付設計や掛け金の設定には、法令上・財政上の制約があります。

掛け金に一律の上限がないからといって、給与の大部分を自由に企業年金へ振り替えられるわけではありません。

労働条件や制度の規約、社会保険上の取扱いなども確認する必要があります。

受給時の税金と退職金との関係

企業年金の有利不利を判断する際には、掛け金を拠出するときだけでなく、受け取るときの税金も重要です。

確定給付企業年金や確定拠出年金を一時金として受け取る場合には、一定の要件の下で退職所得として課税されます。

退職所得には退職所得控除が設けられており、税負担が軽減される仕組みがあります。

一方、年金として受け取る場合には、公的年金等に係る雑所得として課税されることがあります。

また、企業から支給される退職金と企業年金の一時金を受け取る場合には、受給時期や加入期間などによって退職所得控除の調整が必要になることがあります。

特に、iDeCoの老齢一時金と会社の退職金を異なる年に受け取る場合には、受給順序や間隔が税負担に影響する可能性があります。

したがって、拠出時の節税額だけでなく、受給時の税負担まで含めて比較することが重要です。

年代によって異なる制度の選び方

企業年金の評価は、従業員の年齢やライフプランによって異なります。

30代や40代では、老後までの運用期間を長く確保できることが特徴です。

企業型DCやiDeCoで長期積立を行う場合には、運用成果の変動を踏まえながら資産形成を進めることができます。

一方、50代や60代では、退職までの期間が短くなります。

この年代では、運用リスクだけでなく、受給開始時期や退職金との税務上の関係が重要になります。

また、住宅ローンや教育費などの支出が多い世帯では、資金を途中で引き出せるかどうかも重要です。

企業年金やiDeCoには、原則として一定の年齢まで資金を引き出せない制約があります。

そのため、生活防衛資金や近い将来に必要な資金を確保した上で、老後資金を積み立てることが望まれます。

企業が制度を導入する際の判断基準

中小企業が企業年金制度を導入する場合には、従業員の老後所得の安定という目的を明確にする必要があります。

確定給付企業年金では、将来の給付債務や財政運営の管理が重要です。

企業型DCでは、掛け金の負担に加えて、従業員への投資教育や運用商品の選定などが重要になります。

選択制企業年金では、給与制度の変更や社会保険給付への影響について、十分な説明が必要です。

社会保険料の削減効果だけを理由に制度を導入すると、従業員との認識の違いや労務上の問題につながる可能性があります。

企業年金は、従業員の将来の生活を支える福利厚生制度です。

企業側の費用削減だけでなく、従業員の利益を中心に制度を設計することが重要です。

税理士・FPの視点から考える最適な組み合わせ

税理士・FPの視点から重要なのは、特定の年金制度だけで老後資金形成を完結させようとしないことです。

公的年金には、生涯にわたる所得保障という特徴があります。

確定給付企業年金には、制度の規約に基づく給付を受けられる特徴があります。

企業型DCやiDeCoには、税制優遇を活用しながら資産運用できる特徴があります。

また、NISAには運用益の非課税というメリットがあり、企業年金やiDeCoとは異なり、必要に応じて資産を売却して資金化できます。

これらの制度は、必ずしも競合するものではありません。

公的年金を生活保障の基礎とし、企業年金やiDeCoで老後資金を補完し、NISAなどで流動性のある金融資産を形成するという考え方もあります。

重要なのは、税制優遇の大きさだけでなく、資金の使いやすさ、運用リスク、受給時期、社会保険への影響を総合的に判断することです。

結論

確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(企業型DC)、iDeCoは、いずれも老後資金形成を支える重要な制度です。

しかし、掛け金の負担方法、運用責任、給付額の決まり方、税制上の取扱いなどには違いがあります。

特に、給与の一部を企業年金の掛け金に振り替える選択制企業年金では、社会保険料が軽減される一方、将来の厚生年金や社会保険給付が減少する可能性があります。

一方、通常のiDeCoや企業型DCのマッチング拠出では、掛け金を拠出すること自体によって標準報酬月額が下がるわけではありません。

制度を選ぶ際には、企業年金の名称だけでなく、給与と掛け金の関係を正確に理解することが重要です。

また、拠出時の税制優遇だけでなく、受給時の課税や退職金との関係も確認する必要があります。

人生100年時代の老後資金形成では、公的年金による生涯の所得保障を基礎とし、企業年金やiDeCoなどを適切に組み合わせることが重要です。

税金や社会保険料の軽減だけを目的とするのではなく、自分の年齢、家族構成、所得水準、退職時期に合った制度を選択することが、長期的な生活の安定につながります。

参考

日本経済新聞 2026年11月2日 朝刊

「給与削る確定給付年金、厚労省『社員に説明』要請へ 公的年金減る恐れ」

厚生労働省「確定給付企業年金制度」

厚生労働省「確定拠出年金制度」

厚生労働省「社会保障審議会企業年金・個人年金部会」

国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」

国税庁「退職所得となるもの」

国税庁「公的年金等の課税関係」

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