後期高齢者医療の保険料に金融所得を反映へ――2029年8月から変わる高齢者の医療費負担

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後期高齢者医療制度において、株式の配当金や売却益などの金融所得を、保険料の算定や医療機関での窓口負担割合の判定に反映させる制度改正が具体化しています。

厚生労働省は2026年10月16日、社会保障審議会医療保険部会で、2029年1月までに必要な仕組みを整備し、同年8月から段階的に反映させる案を提示しました。

今回の見直しは、金融所得について確定申告をするかどうかによって、医療保険料や窓口負担に差が生じる現行制度の不公平を是正するものです。

一方、株式や投資信託を保有する高齢者にとっては、金融資産の運用方法や売却時期が医療費負担にも影響する可能性があります。

人生100年時代の資産形成と老後の生活設計を考えるうえで、重要な制度改正です。

金融所得と医療保険料の関係

現在、後期高齢者医療制度の保険料は、所得割額と均等割額を基本として算定されています。

所得割額は、前年の所得を基礎として計算されるため、年金収入だけでなく、一定の金融所得も影響します。

ただし、上場株式の配当金や売却益については、確定申告の有無によって取り扱いが異なります。

例えば、源泉徴収ありの特定口座で株式を売却し、利益が発生した場合を考えます。

この利益について確定申告をしなければ、原則として後期高齢者医療制度の保険料算定に反映されません。

一方、確定申告をすると、その所得が保険料算定や窓口負担割合の判定に影響する場合があります。

同じ金額の金融所得を得ていても、申告方法によって医療費負担が変わることになります。

今回の制度改正は、この違いを解消することを目的としています。

2029年8月から段階的に反映

厚生労働省が示した案では、金融所得の反映は2029年8月から始まります。

ただし、すべての金融所得が同時に反映されるわけではありません。

金融機関が税務署に提出する法定調書の種類や提出時期によって、反映開始時期が異なります。

まず、特定口座年間取引報告書や利子等の支払調書など、翌年1月末が提出期限となる法定調書については、2028年分の金融所得が2029年8月からの保険料や窓口負担に反映される予定です。

一方、配当等の支払調書やオープン型証券投資信託収益の分配の支払調書など、原則として支払後1カ月以内に提出する法定調書については、2029年分の金融所得が2030年8月から反映される予定です。

このため、2030年8月以降に、対象となるすべての法定調書の金融所得が反映される仕組みとなります。

重要なのは、制度が始まる2029年の金融所得だけでなく、2028年中の取引も影響する可能性があることです。

金融機関から保険者への情報提供

今回の制度改正では、金融所得を把握するための情報連携の仕組みも整備されます。

金融機関等が所得税法などに基づいて税務署長に提出する法定調書について、後期高齢者医療広域連合にもオンラインで提出する仕組みが導入されます。

これにより、本人が確定申告をしていない金融所得についても、保険者が把握できるようになります。

従来は、税務上の源泉徴収によって課税関係が終了する金融所得について、医療保険制度側では十分に把握できない場合がありました。

新制度では、確定申告の有無だけに左右されず、対象となる金融所得を公平に反映することが目指されています。

ただし、金融機関から報告されるすべての金額が、そのまま保険料算定上の所得になるわけではありません。

取得費や譲渡損失などをどのように扱うか、具体的な所得計算や情報連携の方法については、今後の制度設計や運用内容を確認する必要があります。

窓口負担割合への影響

後期高齢者医療制度では、医療機関での窓口負担割合が所得に応じて決まります。

原則として1割負担ですが、一定以上の所得がある場合は2割負担となり、現役並み所得者は3割負担となります。

今回の改正によって金融所得が判定に反映されると、これまで1割負担だった人が2割負担になる可能性があります。

また、所得状況によっては3割負担の判定に影響することも考えられます。

例えば、公的年金収入を中心に生活している高齢者が、保有株式を売却してまとまった利益を得た場合です。

これまでは源泉徴収ありの特定口座で確定申告をしなければ、原則として医療保険の所得判定に反映されませんでした。

しかし、新制度では対象となる金融所得が把握されるため、売却益によって負担割合が変わる可能性があります。

医療機関を頻繁に利用する人にとっては、窓口負担割合の変更が家計に与える影響も小さくありません。

もっとも、実際の自己負担額については、高額療養費制度なども含めて考える必要があります。

NISA口座と課税口座の違い

金融所得の反映を考えるうえで、重要になるのがNISA口座と課税口座の違いです。

NISA口座内で生じた対象商品の売却益や配当・分配金は、一定の要件のもとで非課税となります。

今回の金融所得反映制度でも、NISA口座内の非課税所得は対象外とされています。

一方、特定口座や一般口座などの課税口座で生じた金融所得は、新たな反映の対象となる可能性があります。

この違いは、老後の資産運用を考えるうえで重要です。

例えば、同じ投資信託を保有していても、NISA口座と課税口座では、売却益が医療保険料等に与える影響が異なることになります。

ただし、NISA口座への移管を考える場合にも注意が必要です。

課税口座で保有している株式や投資信託を、そのままNISA口座に移すことはできません。

原則として、課税口座で売却したうえで、NISA口座で新たに購入する必要があります。

その際に発生する売却益は、課税口座での金融所得となります。

したがって、NISAへの資産移行を検討する場合には、税負担だけでなく、売却する年と医療保険料への反映時期も考慮することが重要です。

国民健康保険と介護保険は今回の対象外

今回の制度改正で対象となるのは、後期高齢者医療制度です。

国民健康保険制度や介護保険制度については、今回の法改正による金融所得の新たな反映の対象外とされています。

ただし、これらの制度でも、確定申告した金融所得が保険料や利用者負担に影響する場合があります。

今回の改正によって、申告していない金融所得まで新たに把握する仕組みが導入されるわけではないという違いです。

また、後期高齢者医療制度は原則として75歳以上が対象ですが、一定の障害がある65歳以上75歳未満の人が加入する場合もあります。

制度改正の影響を確認する際には、年齢だけでなく、実際に加入している医療保険制度を確認する必要があります。

高齢者の資産売却計画への影響

今回の見直しによって、高齢者の資産売却計画にも新たな視点が必要になります。

老後には、住宅の修繕費、医療費、介護費、生活費の補填など、まとまった資金が必要になる場面があります。

その際、株式や投資信託を売却して資金を確保することも一般的です。

しかし、課税口座で大きな売却益が発生すると、その後の医療保険料や窓口負担割合に影響する可能性があります。

例えば、複数年に分けて資産を売却する方法と、1年間にまとめて売却する方法では、所得判定に与える影響が異なる場合があります。

ただし、売却時期を分散すれば必ず負担が軽減されるとは限りません。

金融所得の金額、他の所得、世帯構成、保険料の上限、窓口負担割合の判定基準などによって結果が変わるためです。

また、金融商品の価格変動リスクもあります。

医療保険料の負担軽減だけを目的として売却を先送りすると、相場下落によって資産価値が減少する可能性もあります。

資産売却の判断では、税金、社会保険料、生活資金、運用リスクを総合的に考える必要があります。

税理士・FPの視点から考える制度改正

今回の改正は、税制と社会保障制度の関係が一段と密接になることを示しています。

従来、金融所得については、所得税や住民税の負担を中心に検討することが一般的でした。

しかし、今後は税引後の運用成果だけでなく、医療保険料や窓口負担への影響も考慮する必要があります。

特に、75歳前後の人や、課税口座に多額の含み益を抱える人は、制度改正の影響を早めに確認することが重要です。

また、配偶者の所得や世帯構成によって窓口負担割合の判定が変わる場合もあるため、本人だけでなく世帯全体の状況を把握する必要があります。

一方、制度の詳細については、今後の政省令や実務上の取り扱いによって明らかになる部分もあります。

現段階で将来の保険料増加額を断定するのではなく、制度の確定内容を確認しながら資産管理方針を検討する姿勢が大切です。

結論

後期高齢者医療制度に金融所得を反映する仕組みは、2029年8月から段階的に始まり、2030年8月以降に対象となるすべての法定調書の金融所得が反映される予定です。

今回の制度改正の目的は、金融所得について確定申告の有無によって医療費負担に差が生じる不公平を是正することです。

一方、課税口座で株式や投資信託を保有する高齢者にとっては、金融所得が保険料や窓口負担割合に影響する可能性が高まります。

特に重要なのは、2028年分の金融所得から反映対象となるものがある点です。

老後の資産運用では、運用利回りや税負担だけでなく、社会保険料や医療費負担も含めた総合的な判断が求められます。

人生100年時代には、資産を増やすことだけでなく、必要な時期に、必要な金額を、どの口座から取り崩すかという視点が一層重要になります。

制度改正をきっかけとして、NISA口座と課税口座の使い分け、資産売却時期、老後の生活資金計画を改めて確認することが大切です。

参考

税のしるべ 2026年10月26日「後期高齢者医療制度の保険料算定等で金融所得を反映させるのは令和11年8月から、厚労省が医療保険部会で提示」

厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会 2026年10月16日資料

2026年成立の改正健康保険法に関する制度改正資料

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