飲食料品の消費税率引下げと企業実務への影響
政府は2026年9月15日、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定しました。
これを受け、飲食料品に係る消費税率を2027年4月1日から2年間、現行の8%から1%に引き下げる法案が国会に提出されています。
今回の税率引下げは、家計負担の軽減を目的としていますが、企業の経理・税務実務にも大きな影響を及ぼします。
特に重要なのが、適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度への対応です。
飲食料品を販売する事業者だけでなく、飲食料品を仕入れる小売業者、飲食店、食品製造業者などにおいても、請求書の発行方法や会計システムの設定変更が必要になります。
国税庁は今回の税率引下げに関するQ&Aを公表し、インボイスや帳簿への記載事項について具体的な取扱いを示しています。
なお、以下では法案が原案どおり成立することを前提に、制度の内容と実務上の留意点を整理します。
インボイスの基本的な記載事項は変わらない
今回の税率引下げにおいて、まず押さえておきたいのは、インボイスの基本的な記載事項そのものは変更されないという点です。
現行のインボイス制度では、原則として次の事項を記載する必要があります。
- 発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
これらの記載事項は、飲食料品の税率が1%になっても基本的に維持されます。
変更されるのは、主として適用税率と、その税率に基づいて計算される消費税額等です。
例えば、税抜価格10,000円の飲食料品を販売した場合、現行の8%では消費税額等が800円ですが、税率1%では100円になります。
したがって、税率引下げ後のインボイスでは、適用税率を1%と表示し、消費税額等を100円と記載することになります。
税率の変更に対応した正確な計算と表示が必要ですが、インボイスの様式全体を新たに作り直す必要があるわけではありません。
「軽減税率の対象品目である旨」の記載は継続できる
今回のQ&Aで特に注目されるのが、取引内容の記載方法です。
現行制度では、飲食料品などの軽減税率対象商品について、インボイスに「軽減税率の対象品目である旨」を記載する必要があります。
実務上は、商品名の横に「※」などの記号を付し、請求書の欄外に「※は軽減税率対象商品」と表示する方法が広く利用されています。
今回、飲食料品の税率が1%に引き下げられることから、「税率1%の対象品目である旨」という新しい表示が必要になるのではないかという疑問が生じます。
しかし、国税庁のQ&Aでは、従来の「軽減税率の対象品目である旨」という記載を引き続き使用できることが示されています。
これは、税率1%の対象となる飲食料品が、従来の軽減税率の対象品目に該当するためです。
したがって、現在使用している「※は軽減税率対象商品」という表示を、必ずしも「※は税率1%対象商品」に変更する必要はありません。
事業者にとっては、請求書様式の変更負担を軽減できる取扱いといえます。
ただし、取引に適用する税率そのものは正しく1%と表示しなければなりません。
商品区分の表示を継続できることと、適用税率の表示を変更しなくてよいことは別の問題です。
税率8%と1%が混在する請求書への対応
実務上、特に注意が必要なのが、2027年4月1日の税率変更日をまたぐ取引です。
例えば、飲食料品の卸売業者が毎月15日締めで取引先に請求書を発行している場合を考えます。
2027年4月分の請求対象期間は、3月16日から4月15日までとなります。
この期間には、3月31日までの税率8%の取引と、4月1日以後の税率1%の取引が混在することになります。
国税庁のQ&Aでは、このような場合の請求書の作成方法として、主に2つの対応が示されています。
1つ目は、2027年3月までの取引と4月以後の取引について、請求書を分けて発行する方法です。
この方法では、それぞれの請求書に対応する税率を明確にできるため、取引先にとっても内容を確認しやすくなります。
2つ目は、同一の請求書の中で、3月までの取引と4月以後の取引を区分して記載する方法です。
この場合には、税率8%と1%の取引を明確に区分し、それぞれの税率に対応する対価の額と消費税額等を記載する必要があります。
例えば、3月分の税抜売上高が100,000円、4月分の税抜売上高が100,000円であれば、消費税額等はそれぞれ8,000円と1,000円になります。
同じ飲食料品であっても、取引時期によって税率が異なるため、単純に合計して1つの税率で計算することはできません。
税率変更の判断は請求日ではなく取引時期が基本
税率変更時に誤りが生じやすいのが、請求書の発行日と取引日を混同するケースです。
例えば、2027年3月に販売した飲食料品について、4月に請求書を発行する場合があります。
この場合、請求書の発行日が4月だからといって、当然に税率1%が適用されるわけではありません。
原則として、資産の譲渡等が行われた時点に適用される税率によって判断します。
したがって、3月中に行われた飲食料品の譲渡については、4月に請求書を発行しても、原則として税率8%が適用されます。
反対に、4月1日以後に行われた対象取引については、原則として税率1%が適用されます。
もっとも、実際の取引では、商品の引渡時期、売上計上基準、返品、値引きなどによって判断が複雑になる場合があります。
税率変更日をまたぐ取引については、請求日だけでなく、取引の実態と適用される税法上の取扱いを確認することが重要です。
帳簿の記載事項も基本的には変更されない
インボイス制度において、仕入税額控除を適用するためには、原則として一定の事項を記載した帳簿とインボイス等の保存が必要です。
帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名または名称、取引年月日、取引内容、支払対価の額などを記載します。
軽減税率の対象となる取引については、その旨の記載も必要です。
今回の税率引下げによっても、帳簿の基本的な記載事項は変更されません。
従来どおり、軽減税率の対象となる飲食料品である旨を記載する方法を継続できます。
ただし、会計処理においては、税率8%と1%を正確に区分する必要があります。
特に、税率変更前後の仕入れが混在する場合には、仕入税額控除の計算を誤らないよう注意しなければなりません。
帳簿の記載様式を大幅に変更する必要がなくても、会計ソフトの税区分や消費税集計機能については対応が求められます。
会計システムと販売管理システムの事前準備
今回の税率引下げで企業が取り組むべき課題は、請求書の表示変更だけではありません。
販売管理システム、会計システム、レジシステム、電子請求書システムなど、複数の業務システムに影響が及びます。
例えば、現在のシステムが税率10%と8%を前提に設計されている場合、新たに1%の税区分を設定する必要があります。
また、2027年4月以後も、税率8%が適用される過去の取引に関する返品や値引きが発生する可能性があります。
そのため、単純に税率8%を1%に置き換えるのではなく、旧税率と新税率を並行して処理できる仕組みが重要です。
さらに、商品マスターの税区分、請求書の表示、売上データの連携、仕入税額控除の集計などについて、システム間の整合性を確認する必要があります。
経理部門だけで対応するのではなく、営業部門、購買部門、情報システム部門などが連携して準備を進めることが望まれます。
2年間の時限措置であることへの注意
今回の飲食料品に係る税率引下げは、恒久的な制度変更ではなく、2年間の臨時的な措置として予定されています。
法案が予定どおり成立した場合、2027年4月1日から2029年3月31日までが税率1%の適用期間となります。
その後の税率についても、成立する法律の規定や将来の税制改正を踏まえて対応する必要があります。
企業にとっては、税率引下げ時だけでなく、臨時措置の終了時にもシステム変更や取引先への周知が必要になる可能性があります。
特に、継続的な取引契約、長期契約、定期購入、前受金を伴う取引などでは、税率変更に伴う処理を事前に確認することが重要です。
短期間の税率変更であっても、準備不足による請求誤りや税額計算の誤りが生じれば、取引先との照合作業や修正請求などの負担が発生します。
制度の開始時と終了時の双方を見据えた対応が求められます。
結論
飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる法案が成立した場合、企業のインボイス実務では、適用税率と消費税額等の変更が必要になります。
一方で、インボイスや帳簿の基本的な記載事項は維持され、「軽減税率の対象品目である旨」という従来の表示も継続して使用できます。
今回の制度変更で特に重要なのは、税率変更日をまたぐ取引への対応です。
2027年3月までの税率8%の取引と、4月以後の税率1%の取引を正確に区分し、請求書の記載と会計処理に反映させる必要があります。
また、税率1%への対応は、インボイスの記載方法だけでなく、販売管理、会計処理、電子請求書、商品マスターなどの業務全体に関係します。
税率変更の負担を最小限に抑えるためには、制度の成立状況と国税庁の最新の取扱いを確認しながら、早い段階でシステムと業務手順の点検を進めることが重要です。
参考
税のしるべ 2026年10月26日「消費税率引下げに伴うインボイスの記載事項を確認、取引内容は『軽減税率の対象品目である旨』で可」
政府「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」
国税庁「飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げに関するQ&A」
消費税法および適格請求書等保存方式に関する関係法令