国税庁がどの分野を重視しているのかを知る方法の一つが、予算と定員要求を見ることです。
2027年度の国税庁の定員要求では730人の増員が求められています。
その中でも目立つのが、消費税の不正還付対策185人、租税回避スキームへの対応57人という増員要求です。
さらに飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応として、74人の時限定員も要求されています。
もちろん、増員要求だけから個々の納税者が税務調査を受けるかどうかを判断することはできません。
しかし、限られた人員をどの分野へ配置しようとしているのかを見ることで、税務行政が抱えている課題を読み取ることができます。
税務調査はすべての納税者に同じように行うわけではない
日本には多数の個人や法人の納税者がいます。
そのすべてを毎年詳しく調査することは現実的ではありません。
税務職員の人数には限りがあるからです。
そこで重要になるのが、限られた人員をどこへ投入するのかという考え方です。
申告内容や取引情報などを確認し、必要性の高い案件へ調査能力を振り向けることになります。
税務行政では、人員配置そのものが重点政策を示すことがあります。
最も大きいのが消費税不正還付対策
2027年度の増員要求の中で特に大きいのが、消費税の不正還付対策です。
185人の増員が要求されています。
消費税では、売上にかかる消費税額から仕入れなどにかかる消費税額を差し引いて納付税額を計算します。
一定の場合には差額が還付されます。
還付そのものは制度上予定されている正当な仕組みです。
問題になるのは、架空取引などによって本来受けられない還付を受けようとするケースです。
還付は国から実際に資金が支払われるため、不正を防止する必要性が高い分野となります。
還付額が大きいだけで不正とは限らない
ここで注意したいのは、消費税の還付を受けていることや還付額が大きいことだけで、不正と判断されるわけではないという点です。
輸出取引や大規模な設備投資などによって、正当に還付が発生することがあります。
重要なのは還付という結果ではなく、その根拠となる取引が実際に存在するかどうかです。
仕入れは本当に行われたのか。
請求書の内容は正しいのか。
商品は実際に移動したのか。
資金はどのように動いたのか。
税務当局には、適正な還付を速やかに行う一方、不正な還付を見抜くことが求められます。
租税回避スキームも重点分野になる
もう一つ注目されるのが租税回避スキームです。
国税庁はこの分野への対応として57人の増員を要求しています。
さらに国税庁課税部課税総括課に、租税回避対策企画官の新設も要求しています。
背景にあるのが、プロモーターなどが考案した租税回避スキームが商品化され、複数の納税者へ広がるケースです。
一件の申告だけを見るのではなく、同じような取引が各地で行われていないかを横断的に分析する必要があります。
個別の税務調査から、スキームそのものを分析する税務行政へと対応範囲が広がっていることが分かります。
特殊な取引ほど確認に時間がかかる
一般的な取引であれば、税務上の処理方法が比較的明確な場合があります。
一方、複数の法人や契約、金融商品などを組み合わせた取引では、全体像を理解するだけでも時間がかかります。
形式上はそれぞれ別の取引でも、実際には一連の仕組みとして設計されている場合も考えられます。
そのため、契約書や資金移動などを確認しながら取引全体を分析する必要があります。
複雑な案件ほど一件当たりに必要となる調査時間や専門性が大きくなるため、重点的な人員配置が必要になります。
データ分析で調査対象を絞り込む
限られた人員を有効に使うためには、データの活用も重要です。
電子申告などによって蓄積された情報を分析すれば、通常とは異なる動きを持つ申告を探すことができます。
過去と比べて数字が大きく変化している。
同業者と比較して特徴的な数字がある。
特定の取引が急増している。
こうした情報は、確認すべき案件を絞り込む材料になります。
ただし、データ上の特徴だけで不正と判断することはできません。
最終的には個別の事実確認が必要です。
税制改正も税務行政の重点を変える
税務行政の重点分野は、不正対策だけで決まるわけではありません。
大きな税制改正が行われれば、その制度を円滑に実施するためにも人員が必要になります。
2027年度には、飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応として74人の時限定員が要求されています。
個別相談。
説明会。
講師派遣。
増加が見込まれる還付申告への対応。
こうした業務を担当するためです。
税制改正そのものが、新しい行政需要を生み出すことが分かります。
730人増えても純増は178人
2027年度の増員要求は730人ですが、国税庁の職員がそのまま730人増えるという意味ではありません。
定員合理化として552人が減員対象となっています。
そのため、差し引きした純増要求は178人です。
730人から552人を差し引いて178人となります。
この数字から見えてくるのは、単純な組織拡大ではありません。
既存業務を効率化しながら、新しく重要性が高まった分野へ人員を移していくという構造です。
重点分野を見ると税務行政の変化が分かる
税務行政を見るとき、税務調査の件数だけを見ても全体像は分かりません。
どの分野で増員を要求しているのか。
どのような専門官を新設しようとしているのか。
どの業務をデジタル化しようとしているのか。
こうした情報を組み合わせる必要があります。
2027年度の要求からは、消費税不正還付と租税回避への対応が重要なテーマになっていることが読み取れます。
同時に、納税者相談やキャッシュレス納付などの利便性向上にも予算が要求されています。
税務行政には厳正な調査と納税者支援という二つの側面があります。
税務調査を考えるときに重要なこと
納税者の立場から重要なのは、重点分野を知って税務調査を避ける方法を考えることではありません。
取引の実態に沿って正しく処理することです。
契約内容を確認する。
帳簿を適切に作成する。
請求書などの証拠を保存する。
税務上の判断が難しい取引については、根拠を整理しておく。
取引が複雑になるほど、後から第三者が見ても説明できる状態にしておくことが重要になります。
税務行政がデータを活用する時代だからこそ、日常の記録や証拠の重要性はむしろ高まります。
結論
2027年度の国税庁の定員要求を見ると、税務行政の重点分野が見えてきます。
730人の増員要求のうち、消費税の不正還付対策には185人、租税回避スキームへの対応には57人が要求されています。
さらに飲食料品に係る消費税率の引下げへの対応として74人の時限定員も求められています。
一方で定員合理化552人があるため、純増要求は178人です。
つまり、すべての分野で一律に職員を増やすのではなく、限られた人員を重要性の高い分野へ重点的に配置しようとしていることが分かります。
さらにAIやデータ分析を活用すれば、大量の申告情報から確認の必要性が高い案件を絞り込み、人による調査を集中させることができます。
国税庁の予算と定員要求は、単なる役所の人数や支出の数字ではありません。
どの税務リスクに対応し、どの分野へ行政資源を投入しようとしているのか。
その方向性を読み取るための重要な情報なのです。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を