地方税収の偏在是正は誰のための改革なのか――2027年度税制改正の争点

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

東京都と地方の税収格差を是正するため、2027年度税制改正に向けた議論が重要な局面を迎えています。

東京都には大企業の本社や金融機関、人口、経済活動が集中し、法人関係税や固定資産税などの税収が集まりやすい構造があります。

一方、地方自治体では人口減少や高齢化が進み、行政サービスを維持するための財源確保が課題となっています。

2026年度の普通交付税算定結果では、東京都の財源超過額が初めて2兆円を超えました。

こうした財政力格差を背景に、政府は地方税収の偏在を是正する追加的な措置を検討しています。

しかし、東京都の小池百合子知事は、東京の税収を地方に再配分するだけでは、日本全体の成長にはつながらないと主張しています。

地方税収の偏在是正は、単に東京都と地方の間で税収を移転する問題ではありません。

地方自治の自主性、行政サービスの公平性、企業活動への影響、地域経済の成長を総合的に考える必要があります。

地方税収の偏在是正とは何か

地方税収の偏在是正とは、地域によって大きく異なる税収の分布を調整し、自治体間の財政力格差を縮小するための措置です。

地方自治体は、住民税、事業税、固定資産税などを財源として行政サービスを提供しています。

しかし、企業数、人口、所得水準、地価などは地域によって異なります。

特に、大企業の本社や金融機関が集中する東京都では、法人関係税などの税収が豊富です。

一方、人口減少が進む地域では、税収を増やすことが難しくなっています。

こうした税収格差を放置すれば、自治体によって提供できる行政サービスの水準に大きな差が生じる可能性があります。

そのため、国は地方交付税制度などを通じて財政力格差を調整しています。

さらに、法人関係税の一部を国税化し、地方に再配分する仕組みも設けられています。

地方税収の偏在是正は、こうした財政調整の仕組みを通じて、全国の自治体が必要な行政サービスを提供できるようにすることを目的としています。

東京都の財源超過額2兆円が示す問題

2026年度の普通交付税算定結果では、東京都の財源超過額が2兆1,895億円となりました。

財源超過額とは、地方交付税制度における基準財政収入額が基準財政需要額を上回る金額です。

東京都は、標準的な財政需要を上回る財政収入があると算定されています。

ただし、財源超過額は東京都の決算上の黒字や余剰資金を意味するものではありません。

地方交付税制度に基づく算定上の数値であり、実際の歳入歳出とは異なります。

東京都には、昼間人口の流入、首都機能の維持、防災対策、都市インフラの更新など、特有の行政需要があります。

小池知事は、こうした財政需要が地方交付税の算定に十分反映されていないと指摘しています。

一方、地方自治体からは、東京都の豊富な税収によって行政サービスの地域間格差が拡大しているとの声があります。

財源超過額をどのように評価するかは、税収の偏在是正を考えるうえで重要な論点です。

これまでの地方法人課税の偏在是正措置

国はこれまでも、地方法人課税の偏在是正を進めてきました。

代表的な制度の一つが、地方法人税です。

地方法人税は国税であり、法人税額を課税標準として計算されます。

その税収は地方交付税の財源に充てられます。

法人住民税法人税割の一部を国税化することで、特定の自治体に集中しやすい法人関係税収を全国に再配分する仕組みです。

また、特別法人事業税と特別法人事業譲与税も設けられています。

特別法人事業税は、法人事業税と併せて申告納付される国税です。

その税収は、特別法人事業譲与税として一定の基準に基づき都道府県に配分されます。

これらの制度は、企業活動が集中する地域と、それ以外の地域との税収格差を調整する役割を持っています。

一方、東京都は、こうした措置によって自主財源が減少していると主張しています。

地方税収の偏在是正には、全国的な財政調整を進める効果がある一方、税収が豊富な自治体の自主財源を減らす側面もあります。

2027年度税制改正で検討される方向性

2027年度税制改正では、地方法人課税などの偏在是正措置をさらに拡充するかどうかが焦点となっています。

検討課題には、法人事業税の資本割を特別法人事業税・譲与税の仕組みに組み込むことや、既存の再配分方法を見直すことなどがあります。

また、東京23区内の土地に係る固定資産税についても、税収の偏在を踏まえた議論が行われています。

ただし、具体的な制度内容や税収への影響は、今後の税制改正議論によって決まるため、現時点で確定したものとして扱うことはできません。

制度改革を考える際には、どの税目を対象とするかが重要です。

法人関係税は企業業績の影響を受けやすく、景気変動によって税収が大きく変化する場合があります。

一方、固定資産税は土地や建物などを課税対象とするため、比較的安定した税収が期待できます。

税目によって性質が異なるため、偏在是正の方法も慎重に検討する必要があります。

東京都が偏在是正に反対する理由

東京都が追加的な偏在是正に慎重な姿勢を示す理由の一つは、地方自治体の自主財源が減少することです。

地方税は、自治体が地域の行政サービスを提供するための重要な財源です。

東京都は、子育て支援、教育費負担の軽減、防災、都市インフラ整備など、さまざまな政策を実施しています。

税収の再配分が拡大すれば、こうした政策に活用できる財源が減少する可能性があります。

また、東京都は、地域経済の成長によって増加した税収を自治体が活用できることが、地方自治の基本だと主張しています。

小池知事は、税収を分け合うだけではなく、日本全体の経済規模を拡大する発想が必要だと訴えています。

ただし、東京都の税収が豊富である背景には、企業や人口の集積、国の行政機能の集中、交通網の整備など、長年にわたる社会的な基盤もあります。

税収のすべてが東京都独自の政策努力によって生み出されたものではありません。

自治体の自主性を尊重しながら、全国的な財政調整をどこまで行うべきかが重要な課題です。

地方自治体が偏在是正を求める理由

地方自治体が税収の偏在是正を求める背景には、行政サービスの地域間格差があります。

例えば、東京都では18歳以下の子どもを対象に月5,000円を支給する「018サポート」が実施されています。

また、高校授業料の実質無償化など、教育費負担を軽減する政策も進められています。

一方、地方自治体では、同じ水準の支援を実施するための財源を確保できない場合があります。

人口減少や高齢化が進む地域では、税収が伸びにくい一方、公共施設の維持や高齢者福祉などに必要な費用が増加しています。

こうした状況では、子育て支援や産業振興など、新しい政策に振り向ける財源を確保することが難しくなります。

地方自治体から見れば、税収の偏在是正は、住民に必要な行政サービスを提供するための財源確保策です。

ただし、財源が再配分されたからといって、必ずしも行政サービスの格差が解消するわけではありません。

各自治体が財源をどのように活用するかによって、政策効果は異なります。

税収の再配分だけで地方は成長するのか

税収の偏在是正によって地方自治体の財源が増加すれば、行政サービスを充実させる余地が生まれます。

しかし、財源を再配分するだけで、地域経済の成長力が高まるとは限りません。

地方の経済成長には、企業活動の活性化、雇用創出、人材育成、技術革新などが必要です。

例えば、企業誘致によって新しい事業所が立地すれば、地域の雇用や所得が増加する可能性があります。

また、地域の大学や研究機関と企業が連携することで、新しい産業が生まれる可能性もあります。

一方、人口減少が進む地域では、企業誘致だけでなく、既存企業の生産性向上や事業承継支援なども重要です。

税収の偏在是正によって確保した財源を、地域の将来の税収基盤を強化する投資に活用できれば、持続的な成長につながる可能性があります。

単なる財源移転ではなく、地域の自立を支える制度設計が求められます。

税制改革が企業経営に与える影響

地方法人課税の見直しは、企業経営にも関係します。

法人事業税や法人住民税などは、企業が事業活動を行う地域に応じて課税されます。

複数の都道府県に事務所や事業所を設けている企業では、従業者数などの分割基準によって課税標準が配分されます。

偏在是正措置の内容によっては、地方税と国税の構成や税収の帰属先が変わる可能性があります。

ただし、税収の再配分を目的とする制度改正が、必ずしも企業全体の税負担増加を意味するわけではありません。

企業の税負担にどのような影響が生じるかは、税率、課税標準、控除、経過措置などの具体的な制度設計によって異なります。

中小企業経営者は、税制改正による直接的な税負担だけでなく、自治体の産業振興策や企業支援制度への影響も確認する必要があります。

地方財政の安定は、地域企業の経営環境を支える重要な要素です。

家計にとっての税収偏在是正

税収の偏在是正は、家計にも間接的な影響を与えます。

自治体の財政力によって、子育て支援、教育費助成、医療・福祉、公共交通などの行政サービスに差が生じる場合があります。

地方自治体への財源配分が増加すれば、こうしたサービスを充実させる余地が広がります。

一方、東京都の財源が減少すれば、将来的に行政サービスや投資計画の見直しが必要になる可能性があります。

ただし、税収の再配分が直ちに住民の税負担や給付額の変更につながるわけではありません。

実際の影響は、制度改正の内容と各自治体の予算編成によって異なります。

FPの視点では、住宅購入や移住、子育て、老後の生活設計を考える際に、自治体の行政サービスと財政の持続可能性を確認することが重要です。

現在の支援制度だけでなく、人口動向や将来の財政需要も考慮する必要があります。

公平性と成長を両立する税制改革

地方税収の偏在是正では、公平性と成長の両立が求められます。

公平性の観点では、居住地によって必要な行政サービスを受けられない状況を避ける必要があります。

一方、成長の観点では、自治体が企業誘致や産業振興によって税収を増やした成果を、地域に還元できる仕組みが重要です。

財政力格差を調整するために税収を再配分することには合理性があります。

しかし、再配分を強めすぎれば、自治体の自主財源や成長へのインセンティブを弱める可能性があります。

逆に、自治体の自主財源を重視しすぎれば、税収の少ない地域で行政サービスを維持することが難しくなる可能性があります。

そのため、全国共通で保障する行政サービスの水準を明確にしながら、自治体独自の政策を認める仕組みが必要です。

また、地方交付税制度と地方法人課税の偏在是正措置を一体的に検討することも重要です。

結論

2027年度税制改正に向けた地方税収の偏在是正は、東京都と地方の財源配分を巡る重要な政策課題です。

東京都には豊富な税収がある一方、首都特有の行政需要や将来の投資負担があります。

地方自治体では、人口減少や高齢化によって税収基盤が弱まり、行政サービスの維持が難しくなる地域があります。

税収の偏在是正は、こうした財政力格差を調整するために必要な場合があります。

しかし、税収を再配分するだけでは、地方経済の成長や人口減少の問題を根本的に解決することはできません。

重要なのは、全国で一定水準の行政サービスを保障しながら、自治体が地域の強みを生かして成長できる制度を構築することです。

そのためには、地方交付税制度、地方法人課税、自治体の自主財源、地域産業の育成を総合的に検討する必要があります。

地方税収の偏在是正は、東京から地方へ税収を移すこと自体を目的とするのではなく、日本全体の行政サービスの公平性と経済成長を実現するための改革であるべきです。

2027年度税制改正では、短期的な財源調整だけでなく、地域経済の持続的な成長につながる制度設計が求められます。

参考

日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊「東京都と地方、共栄の税改革を 小池百合子都知事『地域の強み生かす』」

総務省「地方税制の概要」

総務省「地方交付税制度の概要」

総務省「令和8年度普通交付税の算定結果」

財務省「令和8年度税制改正の大綱」

地方税法

地方法人税法

特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律

タイトルとURLをコピーしました