中古パソコンも値上がりする時代へ AIブームが変える企業のIT投資と経費管理

効率化

企業が業務で使用するパソコンの調達環境に変化が生じています。新品パソコンの価格上昇を背景に、中古パソコンの需要が高まり、その取引価格まで上昇しています。

これまで中古パソコンは、時間の経過とともに価格が下がることが一般的でした。しかし、人工知能(AI)の普及に伴う半導体需要の拡大によって、従来の価格形成の仕組みが変わり始めています。

企業にとってパソコンは、日常業務に欠かせない設備です。特に中小企業では、社員数に応じたパソコンの調達費用が経営上の負担になることもあります。

今回の価格上昇は、単なるIT機器の値上がりではありません。AI投資の拡大が企業の設備投資、経費管理、さらには中古資産の活用方法にまで影響を及ぼしていることを示しています。

中古パソコンの価格が1年間で約1割上昇

日本経済新聞によると、法人向け中古パソコンの市場取引価格が上昇しています。

東京都内のITサービス会社が2026年1月から9月14日までに購入した中古パソコンの平均価格は、1台4万2,611円でした。

2025年の平均価格と比較すると9%上昇し、2023年と比較すると14%の上昇となっています。

一方、新品パソコンの価格上昇はさらに顕著です。

電子情報技術産業協会(JEITA)のメーカー出荷金額と出荷台数から算出したノートパソコンの平均単価は、2026年1〜8月に12万7,166円となり、前年同期から約20%上昇しました。

新品と中古品では製品の性能や構成、集計対象が異なるため、単純に価格差を比較することはできません。

それでも、新品パソコンの価格上昇によって、中古品を選択する企業が増えていることは重要な変化です。

従来であれば、新しい製品が発売されると旧型製品の価格は下がる傾向にありました。

しかし現在は、新品の値上がりが中古市場にも波及し、古い製品でも価格が下がりにくい状況が生まれています。

AIブームがパソコン価格を押し上げる仕組み

今回の価格上昇の背景には、AI関連投資の急拡大があります。

生成AIの普及によって、世界各国で大規模なデータセンターの建設が進んでいます。

AIの処理には大量の半導体が必要です。特に画像処理半導体(GPU)や高性能メモリーへの需要が拡大しています。

半導体メーカーは収益性の高いAI関連製品への生産配分を増やしており、一般的なパソコンに使用される半導体の供給にも影響が及んでいます。

代表的なものがDRAMと呼ばれるメモリーです。

DRAMはパソコンの処理速度に関わる重要な部品ですが、AI向け製品への生産シフトなどによって、パソコン向け汎用品の供給が逼迫しています。

また、データを保存するSSDの価格も上昇しています。

パソコンメーカーにとっては、主要部品の調達価格が上昇するため、製品価格への転嫁が必要になります。

その結果、新品パソコンの価格が上がり、価格の安い中古品への需要が増えるという連鎖が発生しています。

AIへの巨額投資が、一般企業のパソコン購入費用にまで影響する構造です。

企業が中古パソコンを選ぶ経済合理性

中古パソコンの活用には、一定の経済合理性があります。

企業で使用するパソコンのすべてに最新の高性能機種が必要なわけではありません。

メール、文書作成、表計算、オンライン会議、会計ソフトの利用などが中心であれば、数年前の製品でも十分な処理能力を備えている場合があります。

中古市場では、2019〜2021年製のパソコンが人気を集めています。

第10世代や第11世代のインテル製プロセッサーを搭載した製品が中心です。

ただし、CPUの世代だけで購入を判断することは適切ではありません。

メモリー容量、SSDの性能、バッテリーの劣化状況、メーカーのサポート期間などを確認する必要があります。

特に法人利用では、Windows 11への正式な対応状況や、業務ソフトの動作要件を確認することが重要です。

安価なパソコンを購入しても、短期間で故障したり、必要なソフトが利用できなかったりすれば、結果的に費用が増えることになります。

購入価格だけでなく、使用期間全体の費用を比較する視点が求められます。

中古パソコンのレンタル料金も上昇

価格上昇は中古パソコンの販売市場だけにとどまりません。

レンタル料金にも波及しています。

中古パソコンの販売・レンタルを手掛けるレンタルバスターズによると、2026年8月の短期契約における1台当たりの平均月額料金は7,626円でした。

前年同月比で19%上昇しています。

レンタル会社にとっても、中古パソコンの仕入価格が上がれば、貸出料金を引き上げる必要があります。

さらに、Microsoft 365などの業務ソフトに関する費用も、レンタル料金に影響する可能性があります。

企業がパソコンを調達する方法には、購入、レンタル、リースなどがあります。

購入は長期間使用する場合に有利になることがありますが、初期費用が必要です。

レンタルは短期間の利用や必要台数が変動する場合に適していますが、利用期間が長くなると総費用が高くなることがあります。

リースについても、契約期間や中途解約条件、保守費用などを確認する必要があります。

調達方法を選ぶ際には、月額料金の安さだけではなく、契約期間全体の支払額を比較することが大切です。

パソコン調達と減価償却の税務

企業がパソコンを購入する場合、税務上の取り扱いも重要です。

パソコンは原則として減価償却資産に該当します。

通常、パソコンの法定耐用年数は4年です。ただし、中古資産については一定の条件のもとで中古資産の耐用年数を適用できる場合があります。

また、取得価額によっては、購入時に費用処理できる制度もあります。

例えば、取得価額が10万円未満の減価償却資産については、原則として取得時に損金算入できます。

取得価額が10万円以上20万円未満の場合には、一括償却資産として3年間で均等に損金算入する方法があります。

さらに、一定の中小企業者等には、少額減価償却資産の取得価額を損金算入できる特例があります。

ただし、この特例については、対象となる取得価額の上限、年間合計額、適用期限、企業の要件などを取得時点の法令で確認する必要があります。

例えば、中古パソコンを1台5万円で10台購入した場合、購入費用は合計50万円になります。

通常の取得単位が1台であり、1台ごとの取得価額が10万円未満であれば、原則として少額資産としての費用処理が可能です。

ただし、消費税の経理方式や付随費用によって取得価額の判定が変わる場合があります。

また、会計上の処理と税務上の取り扱いが必ず一致するとは限りません。

パソコンの購入時には、税務処理まで含めた検討が必要です。

中小企業に求められるIT資産管理

中古パソコンの価格上昇は、企業のIT資産管理を見直す契機にもなります。

これまでパソコンは、一定年数が経過すると一律に更新する企業も少なくありませんでした。

しかし、価格が上昇する環境では、使用可能な機器を適切に維持し、更新時期を見極めることが重要になります。

例えば、社員100人の企業が1台12万円のパソコンを一斉に更新すると、購入費用は1,200万円になります。

これに対して、更新対象の一部を中古パソコンに切り替えれば、初期投資を抑えられる可能性があります。

ただし、古いパソコンを長期間使用すればよいというものではありません。

セキュリティ更新への対応、故障率、処理速度の低下、社員の作業効率などを考慮する必要があります。

特に経理部門では、会計システム、電子帳簿保存法に対応したシステム、インターネットバンキングなど、重要な情報を扱う業務が多くあります。

中古パソコンを導入する場合には、データ消去の信頼性、OSのライセンス、セキュリティ対策、保証内容などを確認することが不可欠です。

単に安く購入するのではなく、安全性と業務効率を維持しながら費用を抑えることが重要です。

AI時代のIT投資は総保有コストで判断

今後、企業のIT投資では、総保有コスト(TCO)の考え方が一段と重要になります。

総保有コストとは、機器の購入費用だけでなく、使用期間全体に発生する費用を合計したものです。

パソコンの場合、購入価格のほか、ソフトウェア利用料、保守費用、修理費用、電気代、管理費用、廃棄費用などが含まれます。

例えば、5万円の中古パソコンを3年間使用する場合、単純な購入費用は年間約1万6,667円です。

一方、12万円の新品パソコンを5年間使用する場合、単純な購入費用は年間2万4,000円です。

この比較では中古品が有利ですが、故障や修理、業務効率の低下などを含めると、結果が変わる可能性があります。

また、AIを活用する業務が増えることで、パソコンに求められる性能も変化していくと考えられます。

クラウド上のAIサービスを利用する業務では、必ずしも高性能なパソコンが必要とは限りません。

一方、端末上でAI処理を実行する業務では、高性能なCPUやGPU、AI処理に特化したNPUなどが重要になります。

企業は業務内容に応じて、必要な性能を見極める必要があります。

全社員に同じ高性能機種を配布するのではなく、業務に応じて機種を選択することも有効です。

結論

法人向け中古パソコンの価格上昇は、AIブームが一般企業の設備投資や経費管理にまで影響を及ぼしていることを示しています。

新品パソコンの価格上昇によって中古品への需要が高まり、中古品の販売価格やレンタル料金も上昇しています。

企業にとって重要なのは、新品か中古品かという単純な選択ではありません。

業務に必要な性能、使用予定期間、保守費用、セキュリティ、税務処理などを総合的に検討することです。

特に中小企業では、パソコンの調達方法を見直すことが、設備投資の抑制や資金繰りの改善につながる可能性があります。

一方、価格の安さだけを優先して業務効率や安全性を犠牲にすれば、かえって経営上の負担が増えることになります。

AI時代のIT投資では、最新機種を導入すること自体が目的ではありません。

限られた経営資源を有効に活用し、必要な業務を安全かつ効率的に遂行できる環境を整えることが重要です。

中古パソコンの価格上昇を契機として、企業にはIT資産の管理方法と設備投資の判断基準を見直すことが求められています。

参考

日本経済新聞 2026年10月29日 朝刊「法人向け中古パソコン1割高 AIブームで新モデル高騰、代替需要高まる」

タイトルとURLをコピーしました