相続税や贈与税の土地評価では、土地の面積や形状、路線価だけでなく、土地をどのような単位に区分して評価するかが重要です。
これを評価単位といいます。
評価単位の判定を誤ると、土地の評価額が大きく変わる可能性があります。
特に注意したいのが、複数の賃貸住宅が連続して建っている長屋の敷地です。
例えば、6戸の貸家が横一列につながっている場合、それぞれ独立した賃貸住宅であることから、土地も6つに分けて評価できると考えるかもしれません。
しかし、建物の構造によっては、6戸あっても土地の評価単位は1つになります。
さらに、各住戸の前にある共用通路についても、私道として評価減できるとは限りません。
今回は、2026年度の税理士研修資料で紹介された事例をもとに、長屋の敷地の評価単位と通路部分の評価方法を解説します。
土地の評価単位とは何か
相続税の土地評価では、財産評価基本通達に基づき、土地の利用状況などを踏まえて評価単位を判定します。
宅地については、原則として1画地の宅地を評価単位とします。
ここで重要なのは、登記上の土地の筆数と評価単位が必ずしも一致しないことです。
例えば、登記上は3筆に分かれていても、一体として利用されている宅地であれば、1つの評価単位となることがあります。
反対に、登記上は1筆の土地であっても、自宅敷地と貸家敷地として独立して利用されている場合には、複数の評価単位に分かれることがあります。
つまり、土地評価では登記上の区分だけでなく、実際の利用状況と権利関係を確認する必要があります。
さらに、貸家が建っている土地では、建物の構造や利用形態が評価単位の判定に影響します。
6戸の貸家がつながった土地の評価事例
今回の事例では、評価対象地に平屋建ての賃貸住宅が建っています。
建物には1号室から6号室までの6戸があり、それぞれ入居者に賃貸されています。
建物は横一列につながっており、各住戸の前には共用の通路があります。
この場合、次の2つが問題になります。
第一に、各住戸を独立した貸家と考え、土地を6つの評価単位に分けられるかという問題です。
第二に、建物の前にある通路部分を私道として評価できるかという問題です。
仮に6つの評価単位に分けることができれば、それぞれの土地について形状や接道状況などを踏まえた評価を行うことになります。
また、通路が私道として評価できれば、一定の条件のもとで通常の宅地より低い評価額になる可能性があります。
そのため、評価単位と私道の判定は、相続税評価額を左右する重要な論点になります。
長屋と独立した貸家では評価単位が異なる
研修資料では、この事例の建物は独立した6棟の貸家ではなく、1棟の長屋であると整理されています。
長屋とは、一般に複数の住戸が壁などを共有しながら連続している建築物です。
各住戸には独立した玄関や生活空間が設けられていますが、建物全体としては1棟の建築物となっています。
したがって、今回のように1棟の長屋が建っている敷地については、原則として1つの評価単位として取り扱うことになります。
6戸の入居者がいるからといって、土地の評価単位が自動的に6つになるわけではありません。
ここが実務上の重要なポイントです。
もっとも、長屋の各住戸について土地の所有関係が異なる場合や、区分所有などの権利関係がある場合には、別途検討が必要です。
今回の研修事例は、土地全体を一体として所有し、1棟の長屋の敷地として利用していることを前提とした判断です。
建物の前の通路は私道として評価できるのか
次に、共用通路の評価です。
相続税評価では、私道として利用されている土地について、一定の評価上の取扱いが設けられています。
特定の者が通行するための私道については、原則として自用地評価額の30%相当額で評価する取扱いがあります。
また、不特定多数の者の通行の用に供されている私道については、一定の要件のもとで評価しない場合があります。
このため、長屋の前にある通路についても、自用地評価額の30%で評価できないかと考えたくなります。
しかし、研修資料では、今回の通路は私道ではなく、長屋の敷地内通路と判断しています。
理由は、通路が1棟の建物の利用に供される敷地の一部だからです。
道路のように見える通路であっても、土地評価上、直ちに私道に該当するわけではありません。
建物の配置や利用状況を確認し、建物敷地の一部なのか、独立した私道として評価すべき部分なのかを判定する必要があります。
今回の事例では、通路部分を分離して30%評価するのではなく、長屋の敷地全体に含めて評価することになります。
独立した貸家が並ぶ場合は判断が変わる
それでは、同じ敷地に6棟の独立した貸家が並んでいる場合はどうでしょうか。
この場合は、1棟の長屋とは異なる判断が必要になります。
独立した貸家がそれぞれ別の建物として建築され、それぞれの敷地が独立して利用されている場合には、貸家の敷地ごとに評価単位を分けることが考えられます。
また、各貸家に出入りするために設けられた共用通路については、私道としての評価を検討する余地があります。
つまり、建物が1棟の長屋である場合と、複数の独立した貸家である場合とでは、土地評価の考え方が異なるのです。
外観上は似ている賃貸住宅であっても、建築物としての構造や独立性によって評価が変わります。
そのため、土地の形状だけで判断することは避けなければなりません。
テラスハウスとタウンハウスにも注意する
研修資料では、長屋に関連する建築形式として、テラスハウスとタウンハウスも紹介されています。
テラスハウスは、一般に複数の住戸が横につながり、それぞれ独立した玄関を持つ住宅形式です。
土地が住戸ごとに分筆され、それぞれ単独所有となっているケースもあります。
一方、タウンハウスでは、建物が区分所有され、土地が共有となっているケースもあります。
どちらも建築形式としては長屋に該当することがありますが、相続税評価では建物の形式だけで評価単位が確定するわけではありません。
土地の所有形態、共有関係、敷地権の有無、実際の利用状況などを確認する必要があります。
特に、住戸ごとに所有者が異なるテラスハウスについて、全体が長屋だからという理由だけで、所有者の異なる土地を一括して評価することはできません。
建築物としての一体性と、相続税評価における評価単位は、関連するものの必ずしも同じ概念ではないことに注意が必要です。
実務では建物の構造と権利関係を確認する
長屋の土地評価では、机上の資料だけで結論を出さないことが重要です。
まず、建物の登記事項証明書を確認し、建物が何棟として登記されているかを調べます。
次に、建築確認関係書類などで、建物が長屋として建築されているのか、共同住宅なのか、独立した貸家なのかを確認します。
現地調査では、住戸間の壁や屋根のつながり、共用部分の有無、各住戸への出入りの状況を確認します。
さらに、土地の登記状況、所有関係、賃貸借契約、敷地の利用状況も重要です。
例えば、賃貸借契約が6件存在するという事実だけでは、評価単位を6つに分ける根拠にはなりません。
建物が1棟なのか複数棟なのか、その敷地がどのように利用されているのかを総合的に判断する必要があります。
評価単位の判定が難しい場合には、不動産鑑定士などの専門家の意見を参考にすることも有効です。
評価単位を誤ると相続税評価額が変わる
評価単位の誤りは、単なる形式的な問題ではありません。
土地を1つの評価単位とする場合と、複数の評価単位に分ける場合とでは、奥行価格補正率や不整形地補正率などの適用関係が変わる可能性があります。
また、通路部分を私道として評価できるかどうかによっても、評価額に差が生じる場合があります。
仮に通路部分の自用地評価額が1,000万円だったとします。
その通路が特定の者の通行の用に供される私道として30%評価の対象になるのであれば、通路部分の評価額は300万円となります。
しかし、建物敷地の一部として評価すべき場合には、単純に300万円とすることはできません。
この違いは相続税の計算にも影響する可能性があります。
ただし、評価単位を複数に分ければ必ず評価額が低くなるわけではありません。
土地の形状や接道条件などによって結果は異なります。
重要なのは、評価額を下げるために評価単位を選択するのではなく、財産評価基本通達と土地の実際の利用状況に基づいて適切に判定することです。
結論
長屋の敷地を評価する際には、住戸数と土地の評価単位を混同しないことが重要です。
今回の研修事例では、6戸の賃貸住宅が1棟の長屋として建築されているため、土地全体を1つの評価単位とする判断が示されています。
また、各住戸の前にある通路についても、私道ではなく建物敷地の一部として取り扱います。
一方、独立した貸家が複数建っている場合には、評価単位や共用通路の取扱いが異なる可能性があります。
実務では、登記、建築確認関係書類、現地の建物構造、土地の所有関係、利用状況を確認することが欠かせません。
相続税の土地評価では、単に路線価と面積を掛け合わせるだけでは適正な評価額は算出できません。
その前提となる評価単位の判定こそが、適正な土地評価の出発点なのです。
参考
東京税理士会 2026年8月13日 令和8年度第16回会員研修会資料 相続・贈与の土地評価実務Q&A
国税庁 財産評価基本通達 宅地の評価単位
国税庁 財産評価基本通達 私道の用に供されている宅地の評価