2027年4月から予定されている飲食料品の消費税率引下げと、2029年度に導入を目指す本格的な給付制度について、最大の課題の一つが財源の確保です。
2026年10月12日付の税のしるべに掲載された片山さつき財務大臣と稲垣光隆大蔵財務協会理事長の特別対談では、財源確保に関する政府の基本的な考え方が示されました。
片山財務大臣は、臨時的な消費税率引下げや先行的な給付を含め、特例公債には頼らず、歳出と歳入を見直し、予算編成改革全体の中で対応する方針を説明しています。
一方、2029年度以降の恒久的な給付制度については、別途安定した財源を確保する必要があるとしています。
今回の税制改革は、家計負担を軽減する政策であると同時に、日本の財政運営の在り方を問い直す重要な機会でもあります。
今回は、消費税減税と給付制度に必要な財源をどのように確保するのか、その課題と今後の方向性について考えます。
消費税減税によって税収はどの程度減少するのか
消費税率を引き下げれば、基本的には国と地方の消費税収が減少します。
現在、飲食料品には原則として8%の軽減税率が適用されています。
仮に税率を1%に引き下げれば7ポイント、0%に引き下げれば8ポイントの減税となります。
例えば、年間の対象飲食料品の課税標準となる消費額を30兆円と仮定します。
税率を8%から1%に引き下げた場合、単純計算では年間2兆1,000億円の税収減となります。
0%に引き下げた場合には、年間2兆4,000億円の税収減となります。
ただし、これは説明のための仮定であり、政府の税収減少見込額を示すものではありません。
実際の税収減少額は、対象となる飲食料品の範囲、消費動向、仕入税額控除、事業者の申告方法などによって変わります。
また、国税である消費税と地方消費税の双方に影響が及ぶため、国と地方の財政負担をどのように調整するかも重要になります。
税率引下げの議論では、家計の負担軽減額だけでなく、国と地方の税収減少額を把握する必要があります。
臨時措置と恒久制度では財源の考え方が異なる
今回の税制改革には、財源の性質が異なる2つの政策があります。
一つは、2027年4月から予定されている臨時的な飲食料品の消費税率引下げです。
もう一つは、2029年度に導入を目指す本格的な給付制度です。
臨時的な消費税率引下げは、期間を限定した政策として位置付けられています。
そのため、必要な財源も一定期間に対応するものとなります。
一方、本格的な給付制度は恒久的な制度として構想されています。
恒久的な給付制度では、毎年度継続して財源を確保しなければなりません。
例えば、年間1兆円の給付制度を創設する場合、10年間では単純計算で10兆円の財源が必要になります。
実際には対象者数や給付額が変化する可能性がありますが、制度を継続する限り、財政負担も続きます。
したがって、一時的な税収増や臨時的な歳出削減だけで恒久制度を支えることには限界があります。
財源の安定性と制度の持続可能性を一体として考える必要があります。
特例公債に頼らないという方針の意味
片山財務大臣は、今回の政策について特例公債に頼らない方針を明確にしています。
特例公債とは、一般に、税収などで賄いきれない歳出を補うため、特例法に基づいて発行される国債を指します。
日本では、長年にわたって特例公債を活用した財政運営が続いてきました。
しかし、国債発行によって政策財源を確保する場合には、将来の利払い費や償還負担が発生します。
特に、金利が上昇する局面では、国債の借換えや新規発行に伴う利払い費が増加する可能性があります。
そのため、減税や給付を国債発行に依存して実施することには、財政の持続可能性という観点から課題があります。
今回の方針は、家計支援を行いながらも、財政規律を維持しようとする姿勢を示したものと考えられます。
ただし、特例公債に頼らないという方針だけで、財源問題が解決するわけではありません。
実際にどの歳出を削減し、どの歳入を確保するのかを具体的に示す必要があります。
歳出改革による財源確保
財源確保の方法として、まず考えられるのが歳出改革です。
歳出改革とは、国の支出を見直し、政策効果が小さい事業や非効率な支出を削減することです。
例えば、長年継続している補助金について、当初の政策目的が現在も妥当かどうかを検証することが考えられます。
また、同じような目的を持つ事業が複数の省庁で実施されている場合には、制度の統合や重複の解消によって効率化を図る余地があります。
行政事務のデジタル化も、長期的には歳出効率化につながる可能性があります。
ただし、歳出削減には慎重な検討が必要です。
例えば、補助金を削減した結果、企業の設備投資や地域経済に悪影響が及ぶ場合もあります。
また、社会保障関係費など、制度上必要な支出を短期間で大幅に削減することは容易ではありません。
重要なのは、支出額の削減そのものを目的とするのではなく、限られた財源でより高い政策効果を実現することです。
租税特別措置の見直しによる歳入確保
今回の対談では、租税特別措置の見直しについても議論されています。
租税特別措置とは、特定の政策目的を実現するため、通常の税制とは異なる優遇措置などを設ける仕組みです。
例えば、企業の設備投資や研究開発、賃上げなどを促進するための税額控除や特別償却があります。
こうした制度には、企業活動を後押しする政策的な意義があります。
一方で、制度を利用する企業が少ない場合や、政策効果が十分に確認できない場合には、見直しの対象となる可能性があります。
租税特別措置を廃止または縮小すれば、一定の条件の下で税収が増加することがあります。
ただし、租税特別措置の見直しによる増収額は、制度ごとの利用状況や企業行動によって異なります。
また、税制優遇を縮小した結果、企業の投資や賃上げが減少する可能性もあります。
そのため、単純に税収増加額だけで判断するのではなく、政策効果と経済への影響を総合的に検証する必要があります。
日本版DOGEと財政改革
片山財務大臣は、租税特別措置や補助金の見直しについて、日本版DOGEの考え方にも言及しています。
DOGEは、米国で行政の効率化や政府支出の見直しを掲げた取組みとして知られています。
日本でも、租税特別措置や補助金について、必要性や政策効果を検証する姿勢が強まっています。
今回の対談によると、国民から寄せられた意見は3万7,000件に達しました。
片山財務大臣は、個別の租税特別措置を名指しして見直しを求めるなど、専門的な意見が多かったと説明しています。
一方、省庁側から廃止を提案した措置は、実績がゼロまたは減収額が非常に少ないものなど3件にとどまったとしています。
この点は、財政改革の難しさを示しています。
各省庁には、それぞれ政策目的や関係する業界があります。
そのため、既存の補助金や税制優遇を自ら廃止することには、制度上も政治上も難しさがあります。
今後は、政府と与党税制調査会が、個別制度の政策効果をどこまで客観的に検証できるかが焦点になります。
財源確保と経済成長を両立できるのか
財源確保を進める際には、経済成長への影響も考える必要があります。
例えば、研究開発税制を縮小すれば、短期的には税収が増加する可能性があります。
しかし、その結果として企業の研究開発投資が減少すれば、中長期的な競争力や利益成長に影響することも考えられます。
同様に、設備投資に対する税制優遇を縮小すれば、企業の投資判断に影響が及ぶ可能性があります。
一方、政策効果が乏しい優遇措置を廃止し、より効果的な政策に財源を振り向けることができれば、経済全体の生産性向上につながる可能性があります。
つまり、租税特別措置の見直しは、単なる増税や財源確保の問題ではありません。
限られた財政資源を、どの政策分野に重点的に配分するかという問題でもあります。
財政規律と経済成長を両立させるには、税制優遇の政策効果を定量的に検証することが重要です。
地方財政への影響も見逃せない
飲食料品の消費税率引下げでは、地方財政への影響にも注意が必要です。
現在の消費税制度では、国税である消費税と地方消費税が組み合わされています。
そのため、飲食料品の税率引下げは、制度設計によって地方消費税収にも影響します。
地方自治体は、福祉、教育、消防、道路整備など、住民生活に密接に関係する行政サービスを提供しています。
地方税収が減少する場合には、行政サービスへの影響を抑えるための財源調整が必要になる可能性があります。
また、2029年度からの本格的な給付制度では、地方自治体が給付事務に関わることも考えられます。
その場合、給付財源だけでなく、システム整備費や事務処理費用についても検討が必要です。
国の財政負担だけを見て制度を設計すると、地方自治体に過大な負担が生じるおそれがあります。
国と地方を通じた財政負担の全体像を把握することが重要です。
企業経営への影響
財源確保に向けた租税特別措置や補助金の見直しは、企業経営にも直接影響する可能性があります。
例えば、設備投資を予定している企業が、特定の税額控除や特別償却を前提に投資計画を策定している場合です。
制度が縮小または廃止されれば、投資後の税負担や資金繰りが当初の想定と異なる可能性があります。
また、補助金の交付を見込んで設備投資を計画している企業では、制度変更によって自己資金や借入金の必要額が変わることもあります。
したがって、企業は税制優遇や補助金が将来も同じ条件で継続することを前提にしすぎないことが重要です。
投資判断では、優遇措置が利用できる場合と利用できない場合の双方について、収益性や資金繰りを試算しておくことが望まれます。
特に中長期の設備投資では、税制変更のリスクを織り込んだ経営判断が求められます。
税理士と経理部門が確認すべきこと
今回の税制改革では、税理士や企業の経理部門にも重要な役割があります。
まず、自社や顧問先が利用している租税特別措置を把握することが必要です。
法人税申告書の別表や税額控除の計算資料などを確認し、どの制度をどの程度利用しているかを整理します。
次に、制度が縮小または廃止された場合の税負担を試算します。
例えば、年間500万円の税額控除を受けている企業であれば、その控除が利用できなくなった場合、他の条件が同じであれば、法人税等の負担が増加する可能性があります。
ただし、実際の税負担は課税所得や他の税額控除などによって異なります。
また、税制優遇の変更が設備投資や賃上げ計画に与える影響も検討する必要があります。
税制改正の内容が確定してから対応するだけでなく、複数の制度変更を想定して経営計画を検証することが重要です。
財源論議で重要な政策効果の検証
財源確保の議論では、どの制度を廃止すればいくら財源が生まれるかという点に注目が集まりがちです。
しかし、重要なのは、その制度にどのような政策効果があるかという視点です。
例えば、年間1,000億円の税収減を伴う租税特別措置があるとします。
その制度によって、企業の設備投資や雇用が増加し、中長期的な税収増加につながっているのであれば、単純に廃止することが合理的とは限りません。
一方、利用実績が少なく、政策目的も達成されていない制度であれば、見直しの必要性は高くなります。
政策効果を検証する際には、制度利用企業の実績だけでなく、その制度が存在しなかった場合との比較が重要です。
税制優遇がなくても実施された投資に対して優遇を与えているだけであれば、追加的な政策効果は限定的になる可能性があります。
こうした分析を積み重ねることが、財政資源の効率的な配分につながります。
結論
2027年4月からの飲食料品の消費税率引下げと、2029年度からの本格的な給付制度を実現するためには、財源の確保が不可欠です。
片山財務大臣は、特例公債に頼らず、歳出と歳入の見直しによって対応する方針を示しています。
その実現に向けては、補助金や租税特別措置の見直し、行政支出の効率化、予算編成改革などが重要になります。
ただし、歳出削減や税制優遇の縮小には、企業活動や地域経済への影響もあります。
単純に支出を削減するのではなく、政策効果を検証し、限られた財源をより効果的な分野に配分することが求められます。
また、臨時的な減税と恒久的な給付制度では、財源に求められる安定性が異なります。
一時的な財源確保と恒久的な財源確保を区別し、制度全体の持続可能性を考える必要があります。
今回の税制改革は、家計負担を軽減するだけでなく、日本の財政運営と政策評価の在り方を見直す契機になる可能性があります。
今後は、政府が具体的にどの歳出を見直し、どのような歳入を確保するのか、その内容と規模を確認することが重要です。
企業にとっても、租税特別措置や補助金の見直しは経営判断に影響するため、税制改正の動向を継続的に把握し、制度変更に対応できる経営体制を整えることが求められます。
参考
税のしるべ 2026年10月12日 大蔵財務協会創立90周年記念・片山財務大臣と稲垣理事長の特別対談、飲食料品の消費税率引下げや租特の見直しなどを語る