企業の健康経営が人手不足を救う 従業員の運動習慣と生産性の関係

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日本企業では、人手不足が深刻な経営課題となっています。

少子高齢化によって生産年齢人口が減少する中、企業は限られた人材で生産性を高めることが求められています。

こうした状況で注目したいのが、従業員の健康維持を経営戦略として位置づける健康経営です。

スポーツ庁が2026年10月11日に公表した2025年度の体力・運動能力調査によると、成人男女のスポーツクラブ加入率は長期的に低下しています。

特に35歳から39歳の女性では、2001年度の30.3%から2025年度の10.1%へと減少しました。

また、2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の40代女性は93.6%、40代男性は98.8%となり、働く世代の体力低下も確認されています。

一方、60代から70代の男女では体力が向上しています。

働く世代の健康状態をどのように維持するかは、企業にとって重要な課題になっています。

スポーツ庁は2027年度から、従業員の運動習慣づくりに取り組む企業に対し、都道府県を通じて補助金を出すなどの支援を強化する方針です。

今回は、従業員の運動習慣と企業の生産性の関係を整理するとともに、人手不足対策、健康経営の投資効果、中小企業の実務対応、人生100年時代の働き方について考えてみます。

健康経営が企業の重要な経営戦略になる

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点から捉え、戦略的に実践する考え方です。

従来、従業員の健康管理は、健康診断や労働安全衛生対策など、法令への対応を中心に考えられることが少なくありませんでした。

しかし、近年は従業員の健康状態が、企業の生産性や人材確保、経営の持続可能性にも関係することが重視されています。

例えば、従業員が健康上の理由で欠勤すれば、業務の進行に影響する場合があります。

また、出勤していても、疲労や体調不良によって十分な能力を発揮できないことがあります。

こうした状態が続けば、業務効率の低下や、他の従業員への負担増加につながる可能性があります。

特に人手不足が深刻な企業では、従業員一人ひとりが安定して働けることの重要性が高まっています。

健康経営は、単なる福利厚生ではありません。

従業員が健康を維持し、能力を継続的に発揮できる環境を整えるための経営戦略と考えることができます。

ただし、健康経営を導入すれば必ず業績が改善するというわけではありません。

企業規模や業種、従業員の健康状態などによって効果は異なります。

重要なのは、自社の課題を把握したうえで、継続可能な取り組みを実施することです。

働く世代の体力低下が企業経営に与える影響

スポーツ庁の2025年度調査では、30代から40代の働く世代で体力低下が確認されました。

2001年度の体力合計点を100%とした場合、30代女性は96.3%、40代女性は93.6%、40代男性は98.8%となっています。

特に40代女性では6.4%の低下となりました。

一方、60代女性は118.2%、70代女性は114.7%と改善しています。

この結果は、働く世代の健康管理を考えるうえで重要です。

30代から40代は、企業の中核を担う人材が多い年代です。

管理職や専門職として責任のある仕事を担当する一方、家庭では育児や介護などの負担を抱える人もいます。

そのため、仕事と家庭生活の両立によって、運動や休養に使える時間が不足しやすくなります。

また、デスクワーク中心の職場では、長時間座り続ける生活になりがちです。

身体活動量が不足すれば、長期的には生活習慣病や身体機能の低下などのリスクが高まる可能性があります。

ただし、今回の体力調査だけで、働く世代の体力低下が企業の生産性を低下させていると断定することはできません。

それでも、従業員の健康状態を維持することは、企業が安定した事業運営を続けるための重要な条件です。

欠勤だけでなく出勤中の生産性低下にも注意が必要

健康経営を考える際に重要なのが、アブセンティーズムとプレゼンティーズムという考え方です。

アブセンティーズムとは、病気や体調不良によって仕事を休むことです。

一方、プレゼンティーズムとは、出勤していても心身の不調によって、本来の能力を十分に発揮できない状態を指します。

例えば、慢性的な睡眠不足や疲労によって集中力が低下している場合があります。

また、腰痛や肩こりなどの身体的不調によって、仕事の効率が低下することも考えられます。

企業では、欠勤日数は勤怠管理によって把握できます。

しかし、出勤中の生産性低下は、外部から見えにくいという特徴があります。

そのため、健康経営では欠勤率だけでなく、従業員の心身の状態や働きやすさにも目を向ける必要があります。

適切な運動習慣は、身体機能の維持や健康状態の改善に役立つ可能性があります。

ただし、すべての不調が運動によって改善するわけではありません。

医療的な対応や労働時間の見直し、職場環境の改善が必要な場合もあります。

運動習慣の促進は、健康経営を構成する施策の一つとして位置づけることが重要です。

人手不足の時代には従業員の健康維持が重要になる

日本では少子高齢化によって、生産年齢人口の減少が続いています。

特に中小企業では、人材の採用や定着が難しくなっている場合があります。

こうした状況では、既存の従業員が健康を維持し、長く働けることが重要になります。

例えば、従業員が体調不良によって長期間休職した場合、代替人員の確保が必要になることがあります。

人手不足の企業では、残された従業員が業務を分担することになり、負担が増える可能性があります。

その結果、他の従業員にも疲労やストレスが蓄積するという悪循環が生じる場合があります。

健康経営によって、従業員が無理なく働ける環境を整えることは、こうしたリスクへの対応にもつながります。

また、健康づくりを支援する企業であることは、採用活動や人材定着において評価される可能性があります。

ただし、健康経営だけで人手不足を解消できるわけではありません。

賃金水準、労働条件、職場の人間関係、仕事の内容なども、人材確保に大きく影響します。

健康経営は、人手不足対策を補完する重要な取り組みと考えるべきでしょう。

2027年度から企業の運動習慣づくりへの支援が強化される

スポーツ庁は、働く世代の運動習慣を改善するため、2027年度から企業への支援を強化する方針です。

報道によると、従業員の運動習慣づくりに取り組む企業に対し、都道府県を通じて補助金を出すことなどが検討されています。

背景には、働く世代のスポーツクラブ加入率の低下や体力低下があります。

従来のスポーツ振興政策では、スポーツ施設の整備や競技スポーツの振興などが重視されてきました。

しかし、施設を増やすだけでは、運動習慣の定着につながらないという課題があります。

特に仕事や家事で忙しい人にとって、スポーツクラブへ通う時間を確保することは容易ではありません。

そのため、職場を通じて運動する機会を増やすことには一定の意義があります。

ただし、2027年度の支援制度については、補助対象、補助率、申請要件などの詳細を確認する必要があります。

企業が制度の活用を検討する場合には、正式な制度内容が公表された段階で、対象経費や申請手続きなどを確認することが重要です。

補助金の有無にかかわらず、従業員の健康づくりを継続できる仕組みを整えることが望まれます。

中小企業でも取り組める健康経営の実務

健康経営というと、大企業が実施する大規模な福利厚生制度を思い浮かべるかもしれません。

しかし、中小企業でも取り組める方法はあります。

例えば、勤務時間中に短時間のストレッチを取り入れる方法です。

デスクワーク中心の職場では、一定時間ごとに立ち上がって身体を動かすことが考えられます。

また、昼休みにウォーキングを推奨したり、階段の利用を促進したりすることもできます。

こうした取り組みは、多額の設備投資を必要としない場合があります。

さらに、従業員の希望に応じて、地域のスポーツ施設やオンライン運動プログラムを利用できる仕組みを整える方法もあります。

重要なのは、最初から大規模な制度を導入することではありません。

自社の従業員がどのような健康課題を抱えているのかを把握し、実施しやすい施策から始めることです。

例えば、従業員数50人の企業であれば、健康診断の結果や従業員アンケートなどを参考に、職場全体の課題を整理することが考えられます。

ただし、健康情報は慎重に取り扱う必要があります。

個人の健康診断結果や疾病情報を、本人の同意や法令上の根拠なく社内で共有することは適切ではありません。

健康経営を進める際には、個人情報保護と従業員の自主性への配慮が欠かせません。

健康経営の投資効果をどのように評価するか

企業が健康経営に取り組む場合、費用対効果を確認することも重要です。

例えば、従業員向けの運動プログラムを導入する場合、講師への報酬や施設利用料などの費用が発生することがあります。

仮に従業員100人の企業が、年間100万円を健康づくり施策に支出した場合、従業員1人当たりの年間費用は1万円となります。

月額に換算すると、約833円です。

この支出によって、従業員の健康状態や働きやすさが改善するのであれば、企業にとって一定の価値があると考えられます。

ただし、健康経営の効果を正確に金額換算することは容易ではありません。

欠勤率や休職率が改善したとしても、それが運動プログラムだけの効果とは限らないためです。

また、生産性には景気動向、業務内容、人員配置など、さまざまな要因が影響します。

そのため、健康経営の評価では、複数の指標を組み合わせることが望まれます。

例えば、施策への参加状況、従業員満足度、欠勤日数、職場環境に関するアンケートなどが考えられます。

重要なのは、短期間で投資回収を求めるのではなく、中長期的な視点で従業員の健康状態と職場環境の変化を確認することです。

健康経営では運動の強制を避ける必要がある

健康経営を進める際には、従業員の自主性を尊重することが重要です。

例えば、企業が運動イベントを開催する場合、参加を事実上の義務としてしまうと、従業員に新たな負担を与える可能性があります。

運動が得意な人もいれば、苦手な人もいます。

また、疾病や障害などによって、特定の運動に参加することが難しい人もいます。

家庭の事情によって、勤務時間外の活動に参加できない場合もあります。

そのため、健康経営では一律の参加を求めるのではなく、複数の選択肢を用意することが望まれます。

例えば、ウォーキング、ストレッチ、軽い筋力トレーニングなど、身体状況に応じて選べる方法があります。

また、運動への参加状況を人事評価や昇進判断に結びつけることは避けるべきです。

健康経営の目的は、運動能力の高い従業員を評価することではありません。

従業員が健康を維持しながら安心して働ける環境を整えることです。

さらに、長時間労働が続く職場で運動だけを推奨しても、根本的な改善にはつながりません。

健康経営は、労働時間管理や休暇取得、職場環境の改善と一体的に進める必要があります。

高齢者雇用の拡大にも健康経営が必要になる

日本では、60歳以降も働く人が増えています。

高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。

また、70歳までの就業機会確保措置は努力義務となっています。

今後、企業が高齢者の知識や経験を活用するためには、健康状態に応じた働き方を整えることが重要になります。

スポーツ庁の2025年度調査では、60代から70代の男女の体力が長期的に向上していることが明らかになりました。

2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の60代男性は114.1%、女性は118.2%となっています。

70代でも男性109.8%、女性114.7%と改善しています。

この結果は、高齢者の就労継続を考えるうえで明るい材料です。

ただし、同じ年齢でも健康状態には大きな個人差があります。

そのため、企業は年齢だけで業務能力を判断するのではなく、本人の健康状態や希望に応じた勤務制度を整える必要があります。

例えば、短時間勤務や在宅勤務、業務内容の調整などが考えられます。

また、身体的な負担が大きい業務では、安全対策や作業環境の改善も重要です。

高齢者が長く働ける企業をつくるためには、健康経営と人事制度を組み合わせた取り組みが求められます。

健康経営は人的資本経営の重要な要素になる

近年、企業経営では人的資本という考え方が重視されています。

従業員を単なる労働力としてではなく、企業価値を生み出す重要な資本として捉える考え方です。

人的資本経営では、人材育成、能力開発、多様な働き方、従業員の働きがいなどが重要になります。

健康経営も、こうした人的資本経営を支える要素の一つです。

例えば、企業が従業員の教育研修に投資しても、健康状態の悪化によって能力を十分に発揮できなければ、投資効果は限定される可能性があります。

一方、健康状態を維持できれば、従業員が長期間にわたって知識や経験を活用しやすくなります。

特に専門人材の確保が難しい企業では、既存の従業員が健康を維持して働き続けることに大きな意味があります。

また、健康経営への取り組みは、企業の人材戦略を社外に説明する際にも重要な情報となり得ます。

ただし、健康経営を形式的な認定取得や対外的な評価だけを目的として実施することは望ましくありません。

重要なのは、従業員の健康状態や職場環境が実際に改善しているかどうかです。

人的資本経営の観点からも、健康経営の実効性が問われる時代になっているといえるでしょう。

結論

日本では少子高齢化によって人手不足が深刻化しており、企業には限られた人材で生産性を高めることが求められています。

こうした中、従業員の健康維持を経営戦略として位置づける健康経営の重要性が高まっています。

スポーツ庁の2025年度調査では、働く世代のスポーツクラブ加入率の低下や体力低下が確認されました。

特に30代から40代の女性では、仕事や家事、育児などによる時間的制約が運動習慣の形成を難しくしている可能性があります。

スポーツ庁は2027年度から、企業の運動習慣づくりに対する支援を強化する方針です。

企業にとって、従業員の健康管理は福利厚生だけの問題ではありません。

欠勤や出勤中の生産性低下への対応、人材定着、高齢者雇用、人的資本経営など、さまざまな経営課題と関係しています。

ただし、健康経営だけで人手不足や生産性の問題を解決できるわけではありません。

賃金、労働時間、職場環境、人材育成などと組み合わせて取り組むことが必要です。

また、健康経営では従業員に運動を強制するのではなく、誰もが無理なく健康づくりに取り組める環境を整えることが重要です。

人生100年時代では、60歳以降も働く人が増え、健康状態を維持することの重要性が一層高まっています。

企業が従業員の健康に投資することは、従業員本人の生活の質を高めるだけでなく、企業の持続的な成長を支える可能性があります。

これからの企業経営では、設備や技術への投資だけでなく、従業員が健康に働き続けられる環境への投資も重要になるでしょう。

人手不足の時代だからこそ、健康経営を単なる福利厚生ではなく、企業の競争力を支える経営戦略として位置づける必要があるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月12日朝刊 進むスポーツクラブ離れ、休みは運動よりスマホ 働く世代の女性顕著

スポーツ庁 2025年度体力・運動能力調査

経済産業省 健康経営の推進に関する資料

厚生労働省 2024年 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

厚生労働省 高年齢者雇用安定法に関する制度資料

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