2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度は、高齢者や年金生活者の家計に新たな影響を与える可能性があります。
今回の制度では、市販薬と成分や効能が似ている医療用医薬品について、薬剤費の25%を保険外の追加負担とし、残りの75%について従来の自己負担割合を適用する仕組みが予定されています。
対象となるのは、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、皮膚保湿剤、便秘薬など77成分、1,042品目です。
厚生労働省は、この制度によって年間約900億円の医療費削減効果を見込んでいます。
しかし、患者の立場から見ると、特に注意が必要なのは、従来の自己負担割合が低い人ほど薬代の負担増加率が大きくなることです。
例えば、自己負担割合が3割の患者では、対象薬剤費の自己負担額が約1.58倍になります。
一方、自己負担割合が1割の患者では、従来の3.25倍になる計算です。
高齢者のなかには、慢性的な疾患によって複数の医薬品を継続して使用している人もいます。
また、年金を主な収入源として生活している世帯では、毎月の医療費の増加が家計に影響する可能性があります。
今回は、OTC類似薬の追加負担制度が高齢者の薬代に与える影響について、自己負担割合、年間医療費、年金生活者の家計、高額療養費制度との関係から詳しく解説します。
高齢者の医療費自己負担割合はどのように決まるのか
公的医療保険制度では、患者の年齢や所得に応じて医療費の自己負担割合が異なります。
原則として、70歳未満の人は3割負担です。
70歳から74歳までの人は、一般的には2割負担となりますが、現役並み所得者は3割負担です。
75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得に応じて1割、2割、3割の自己負担割合が設定されています。
一定以上の所得がある人は2割負担となり、現役並み所得者は3割負担となります。
このように、高齢者であっても、すべての人が1割負担というわけではありません。
所得水準によって負担割合が異なります。
今回のOTC類似薬制度では、この従来の自己負担割合の違いが、追加負担の影響を大きく左右します。
特に、1割負担の高齢者では、対象薬剤費に係る負担増加率が大きくなる点に注意が必要です。
自己負担1割の高齢者は薬代が3.25倍になる
まず、75歳以上の高齢者などに適用される自己負担割合1割の場合を考えます。
薬剤費が1,000円であれば、従来の自己負担額は100円でした。
新制度では、薬剤費の25%に当たる250円が保険外の追加負担となります。
残り750円については、従来どおり1割負担となるため、75円を支払います。
したがって、患者の負担額は合計325円です。
従来の100円から325円となり、負担額は3.25倍になります。
増加額は225円です。
薬剤費が3,000円の場合には、従来300円だった負担額が975円になります。
薬剤費が5,000円の場合には、従来500円だった負担額が1,625円になります。
このように、従来の自己負担割合が1割の患者では、薬剤費に係る負担額が大きく増加します。
ただし、これは対象薬剤費だけを取り出した単純計算です。
診察料や調剤料などは含んでいません。
また、追加負担部分が消費税非課税となることを前提としており、実際の制度では医療上の必要性などによる例外措置の確認も必要です。
自己負担2割の高齢者も薬代が2倍になる
次に、自己負担割合2割の高齢者について考えます。
薬剤費が1,000円の場合、従来の自己負担額は200円でした。
新制度では、250円の追加負担に加えて、残り750円の2割に当たる150円を支払います。
合計負担額は400円です。
従来の200円から400円となり、負担額は2倍になります。
薬剤費が3,000円の場合には、従来600円だった負担額が1,200円になります。
薬剤費が5,000円の場合には、従来1,000円だった負担額が2,000円になります。
自己負担2割の患者でも、対象薬剤費に係る負担額が大きく増加することになります。
特に、70歳以上の高齢者では、複数の医療機関を受診し、継続的に医薬品を使用している場合があります。
そのため、個々の薬剤費の増加額が比較的小さくても、年間では一定の負担になる可能性があります。
高齢者の医療費負担を考える際には、1回の処方だけでなく、年間を通じた負担額を確認することが重要です。
自己負担3割の高齢者との違い
高齢者のなかには、現役並み所得者として3割負担が適用される人もいます。
自己負担割合3割の場合、薬剤費1,000円に対する従来の負担額は300円です。
新制度では、250円の追加負担と、残り750円の3割に当たる225円を支払います。
合計負担額は475円です。
従来の300円から475円となり、175円増加します。
負担増加率は約58.3%です。
自己負担割合1割の患者では225%の増加、2割の患者では100%の増加となるため、3割負担の患者は相対的に増加率が小さくなります。
ここで注目したいのは、従来の自己負担割合が低い患者ほど、追加負担による増加額も大きくなることです。
薬剤費1,000円の場合、1割負担の患者は225円増加しますが、3割負担の患者は175円の増加です。
これは、従来の保険給付割合が高い患者ほど、保険給付の対象から外れる25%の影響が大きくなるためです。
高齢者の負担能力を考えるうえでは、単純な負担割合だけでなく、実際の所得や生活費との関係も重要になります。
年金生活者の年間薬代はどの程度増えるのか
年金生活者への影響を考えるため、対象となるOTC類似薬を毎月使用する場合を想定します。
例えば、薬剤費が毎月3,000円で、1年間継続して使用する場合です。
自己負担割合1割の患者では、従来の年間負担額は3,600円でした。
新制度では年間11,700円となり、8,100円増加します。
自己負担割合2割の患者では、従来の年間負担額7,200円が14,400円となり、7,200円増加します。
自己負担割合3割の患者では、従来の年間負担額10,800円が17,100円となり、6,300円増加します。
さらに、薬剤費が毎月5,000円の場合には、1割負担の患者で年間13,500円の負担増加となります。
毎月の増加額は比較的小さく見えても、年間では一定の金額になります。
特に、年金収入が限られている世帯では、医療費の増加によって食費や生活費などを見直さなければならない場合も考えられます。
また、夫婦ともに継続的な服薬が必要な場合には、世帯全体の負担増加にも注意が必要です。
高齢者の医療費負担は、個人単位だけでなく、世帯全体で考えることが重要です。
複数の医薬品を使用する高齢者への影響
高齢者では、複数の慢性疾患を抱え、複数の医薬品を使用している場合があります。
例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの治療薬に加えて、便秘薬や皮膚保湿剤、抗アレルギー薬などを使用するケースです。
今回のOTC類似薬制度では、すべての医薬品が追加負担の対象になるわけではありません。
対象となるのは、指定された77成分、1,042品目のうち、制度上の条件に該当する医薬品です。
しかし、複数の対象薬剤を継続して使用している場合には、追加負担が積み重なる可能性があります。
例えば、対象となる便秘薬と皮膚保湿剤を毎月使用している場合、それぞれの薬剤費について追加負担が発生する可能性があります。
また、高齢者では、医薬品の種類が増えることで副作用や飲み合わせの問題が生じる場合があります。
薬代の負担を抑えるために自己判断で服薬を中止したり、市販薬に切り替えたりすることは、健康上のリスクにつながるおそれがあります。
特に、腎機能や肝機能が低下している患者では、医薬品の選択や用量の調整が重要です。
医療費の負担増加に対応する場合でも、医師や薬剤師に相談しながら適切な治療を継続する必要があります。
高額療養費制度で追加負担は軽減されるのか
高齢者の医療費負担を考えるうえで重要なのが、高額療養費制度です。
高額療養費制度は、医療機関や薬局で支払った保険診療の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限額を超えた場合に、超過部分を支給する制度です。
特に高齢者では、所得区分によって自己負担限度額が異なります。
しかし、今回のOTC類似薬制度では、薬剤費の25%が保険外の追加負担となる予定です。
そのため、この追加負担部分については、通常の保険診療に係る自己負担とは区別して考える必要があります。
保険外の追加負担部分が高額療養費制度の算定対象外となる場合には、患者が負担する金額は、従来の自己負担限度額だけでは抑えられません。
例えば、高額療養費制度によって保険診療部分の負担が一定額に抑えられていても、OTC類似薬の追加負担が別途発生する可能性があります。
特に、毎月の医療費が高額になりやすい慢性疾患患者では、この違いが重要になります。
なお、追加負担部分と高額療養費制度との具体的な関係については、正式な制度内容を確認する必要があります。
制度開始後の実際の負担額を考える際には、保険診療部分と保険外負担部分を分けて把握することが重要です。
高齢者の受診控えや服薬中断が懸念される
患者の自己負担が増えることで懸念されるのが、受診控えや服薬中断です。
高齢者のなかには、年金収入を中心に生活している人も多く、医療費の増加が家計に影響する場合があります。
例えば、慢性的な皮膚疾患で保湿剤を使用している患者が、薬代の増加を理由に使用量を減らすことが考えられます。
また、便秘薬や抗アレルギー薬などについて、自己判断で服用を中止するケースも想定されます。
しかし、必要な医薬品の使用を控えることで、症状が悪化する可能性があります。
症状が悪化すれば、追加の診察や治療が必要となり、結果として医療費が増える場合もあります。
今回の制度は、公的医療保険の給付費用を抑制することを目的としています。
しかし、短期的な給付費削減が、必ずしも中長期的な医療費削減につながるとは限りません。
特に高齢者については、健康状態の悪化が日常生活の自立度や介護の必要性にも影響する可能性があります。
したがって、制度導入後には、医療費の削減効果だけでなく、高齢者の健康状態や受診行動への影響を検証することが重要です。
市販薬への切り替えは高齢者にとって有利なのか
今回の制度改正によって、市販薬への切り替えを検討する高齢者が増える可能性があります。
しかし、市販薬に切り替えれば必ず経済的に有利になるとは限りません。
医療用医薬品には公定価格である薬価が設定されています。
一方、市販薬の販売価格は、メーカーや販売店などによって異なります。
また、医療用医薬品と市販薬では、成分が同じでも含有量や用法、用量、効能などが異なる場合があります。
高齢者では、複数の医薬品を使用していることも多く、市販薬との飲み合わせにも注意が必要です。
例えば、解熱鎮痛薬のなかには、腎機能や胃腸への影響に注意が必要なものがあります。
また、便秘薬についても、患者の状態によって適切な種類や使用量が異なります。
そのため、薬代だけを比較して市販薬に切り替えることは適切ではありません。
市販薬の利用を検討する場合には、医師や薬剤師に相談し、治療上の安全性を確認する必要があります。
セルフメディケーションの推進は重要ですが、高齢者については特に慎重な対応が求められます。
年金生活者の家計管理では医療費の年間予算が重要になる
今回の制度改正を機に、高齢者世帯では医療費を年間単位で管理することが重要になります。
年金生活では、毎月の収入が比較的安定している一方、医療費や介護費用などの支出が変動する場合があります。
特に、慢性疾患によって継続的に医薬品を使用している場合には、毎月の薬代を把握しておくことが重要です。
例えば、現在使用している医薬品のうち、OTC類似薬の対象となるものがあるかを確認します。
次に、現在の薬剤費と新制度による追加負担額を比較します。
さらに、年間の負担増加額を計算し、家計への影響を確認します。
ただし、対象成分に該当しても、効能や医療上の必要性などによって追加負担の対象外となる場合があります。
そのため、正式な制度内容が確定した段階で、医療機関や薬局に確認することが重要です。
また、医療費控除やセルフメディケーション税制など、税制上の負担軽減措置についても理解しておくことが役立ちます。
ただし、これらの制度には適用要件があり、すべての医薬品購入費用が対象になるわけではありません。
医療費の年間予算を立てる際には、税制上の取扱いも含めて確認することが望まれます。
高齢者の負担能力を踏まえた制度設計が必要になる
今回のOTC類似薬制度には、公的医療保険の給付費用を抑制し、現役世代の社会保険料負担の増加を緩和する目的があります。
高齢化が進む日本では、医療保険制度の持続可能性を確保することが重要な政策課題です。
そのため、医療保険の給付範囲や患者負担の在り方を見直す議論は必要です。
しかし、患者負担の公平性を考える際には、単純に同じ割合の追加負担を求めることだけでは不十分です。
高齢者のなかでも、所得や資産、健康状態、医療費負担には大きな違いがあります。
例えば、十分な所得や資産を持つ高齢者と、限られた年金収入で生活する高齢者では、同じ金額の負担増加でも家計への影響が異なります。
また、一時的に医薬品を使用する患者と、慢性疾患によって長期間使用する患者では、年間負担額が異なります。
したがって、制度設計では、医療上の必要性や経済的な負担能力を考慮することが重要です。
必要な医療へのアクセスを維持しながら、公的医療保険の給付を効率化する仕組みが求められます。
結論
2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度は、高齢者や年金生活者の医療費負担に影響する可能性があります。
対象薬剤費の25%が新たな保険外負担となることで、従来の自己負担割合によって薬代の増加率が異なります。
単純計算では、3割負担の患者は約1.58倍、2割負担の患者は2倍、1割負担の患者は3.25倍になります。
特に、自己負担割合1割の高齢者では、従来の薬剤費負担と比較して大きな増加率となります。
また、慢性疾患などで継続的に医薬品を使用している場合には、年間の負担増加が家計に影響する可能性があります。
一方、今回の制度改正には、公的医療保険の給付費用を抑制し、現役世代の社会保険料負担の増加を緩和するという目的があります。
医療保険制度を将来にわたって維持するためには、限られた財源を効率的に活用する必要があります。
しかし、患者負担の増加によって必要な受診や服薬が控えられるようになれば、健康状態の悪化や将来の医療費増加につながるおそれがあります。
重要なのは、医療保険財政の改善と、高齢者が必要な医療を安心して受けられる環境を両立させることです。
特に年金生活者については、年間の医療費負担を把握し、家計への影響を確認することが重要になります。
今回のOTC類似薬制度は、高齢者の医療費負担の在り方を改めて考える機会となります。
医療費の削減という財政上の目標だけでなく、所得や健康状態による負担格差を踏まえた公平な制度設計が求められるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月9日朝刊「OTC類似薬の新たな負担は非課税に 厚労省要望、似た制度とは矛盾」
厚生労働省 OTC類似薬に係る患者負担の見直しに関する資料
厚生労働省 後期高齢者医療制度に関する資料
厚生労働省 高額療養費制度に関する資料
厚生労働省 国民医療費の概況