相続税や贈与税の節税手段として急成長してきた不動産小口化商品が、大きな転換点を迎えています。
2027年1月から評価方法が見直され、市場価格をより反映した評価へ変更される方向だからです。
これまで商品の購入理由として大きかった評価圧縮効果が縮小すれば、当然ながら需要は減少します。
しかし、不動産小口化商品そのものに価値がなくなるわけではありません。
むしろ、節税という大きなメリットがなくなった後こそ、この商品が本当に投資対象として魅力的なのかが問われることになります。
不動産小口化商品の本来の目的
不動産小口化商品の本来の特徴は、高額な不動産へ比較的少額から投資できることです。
例えば都心の大型オフィスビルを個人が1棟購入しようとすれば、数十億円規模の資金が必要になることがあります。
通常の個人投資家には簡単に購入できません。
そこで不動産を小口化し、500万円や1,000万円などの単位で販売します。
投資家は、その不動産から得られる賃料収入などを原資として分配を受けます。
これだけを見れば、不動産小口化商品は高額な不動産への投資機会を個人にも広げる仕組みといえます。
節税効果が商品の魅力を隠していた
ところが、近年は本来の投資機能よりも相続税や贈与税の節税効果が注目されるようになりました。
国税庁が示した事例では、3,000万円で購入した不動産小口化商品の贈与税評価額が484万円になりました。
購入価格の約16%です。
これだけ評価額が圧縮されるのであれば、多少利回りが低くても購入する人が出てきます。
投資による収益ではなく、税負担の軽減によって商品の経済的メリットを得られるからです。
その結果、物件そのものの投資価値より「どれだけ評価額を下げられるか」が商品選びの重要な基準になっていました。
2027年から評価方法が変われば、この前提が崩れます。
最初に見るべきは実質利回り
節税効果を除いて考えるなら、最初に確認したいのは利回りです。
ただし、表面上の分配率だけを見てはいけません。
不動産から得られる賃料収入が多くても、管理費や修繕費などの負担が大きければ、実際に投資家へ残る収益は少なくなります。
重要なのは、必要な費用を差し引いた後の実質的な収益です。
例えば1,000万円を投資して年間30万円の利益を受け取るのであれば、単純な利回りは3%です。
この3%という収益が、その商品のリスクに見合っているのかを考える必要があります。
預金や国債など他の資産から得られる利回りとの比較も欠かせません。
金利が上昇すれば、安全性の高い金融商品から得られる利回りも上がります。
その場合、不動産投資にはそれを上回る魅力が求められます。
立地は小口化されても変わらない
不動産投資で最も基本的な要素の1つが立地です。
小口化されたからといって、不動産そのもののリスクが消えるわけではありません。
駅からどの程度離れているのか。
周辺地域にオフィス需要があるのか。
人口や企業の集積は今後どうなるのか。
競合する新しいビルが建設される予定はないのか。
こうした条件によって将来の賃料や資産価値は変わります。
都心の一等地という言葉だけで判断するのではなく、その不動産が長期間にわたって利用される場所にあるのかを見る必要があります。
誰が借りているのかも重要
オフィスビルの場合、テナントの状況も収益を左右します。
現在満室だから安心とは限りません。
特定の企業が賃料収入の大部分を占めていれば、その企業が退去したときに収益が急減する可能性があります。
テナントの契約期間や更新時期も重要です。
現在の賃料が周辺相場より高ければ、契約更新時に賃料が下がる可能性もあります。
反対に周辺相場より低ければ、将来的な賃料上昇余地があるかもしれません。
不動産小口化商品でも、最終的には建物を誰が、いくらで借りているのかが収益の源泉です。
建物は必ず古くなる
不動産投資では、時間の経過による建物の劣化も避けられません。
築年数が進めば修繕が必要になります。
空調設備やエレベーターなどの更新には大きな費用がかかる場合があります。
将来、大規模修繕が予定されているのであれば、その費用を誰が負担するのか確認する必要があります。
購入時の利回りだけを見ていると、この将来負担を見落とすことがあります。
10年間保有するのであれば、購入時点ではなく10年後の建物の状態まで考えることが必要です。
出口でいくらになるか
不動産投資では、保有期間中の収益だけでなく売却価格も重要です。
例えば年間3%の収益を10年間受け取ったとしても、売却時に購入価格より30%値下がりしていれば、投資全体の成果は大きく変わります。
そこで重要になるのが出口戦略です。
誰に売却するのか。
途中で換金できるのか。
売却価格はどのように決まるのか。
売却手数料はいくら必要なのか。
こうした点を購入前に確認しておく必要があります。
上場株式のように市場でいつでも売却できるとは限らないことも、不動産小口化商品では重要なポイントです。
事業者の信用力も投資判断になる
不動産小口化商品では、商品を組成し管理する事業者の存在も重要です。
物件選定。
テナント管理。
建物管理。
分配金の計算。
最終的な売却。
こうした業務の多くを事業者が担います。
したがって、投資家は不動産だけでなく事業者も選んでいることになります。
過去にどのような物件を扱ってきたのか。
運用実績はどうなのか。
想定していた収益と実績にどの程度差があったのか。
財務内容は安定しているのか。
税制改正後の商品選びでは、こうした情報の重要性がさらに高まります。
小口化ならではのメリットも残る
節税効果が縮小しても、小口化ならではのメリットはあります。
例えば5,000万円を不動産へ投資するとします。
1棟の物件に5,000万円を集中投資すれば、その物件が空室になった場合の影響は大きくなります。
一方、1,000万円ずつ異なる5つの商品へ投資できれば、物件や地域を分散できる可能性があります。
また、自分でテナント募集や建物管理をする必要がないこともメリットです。
現物不動産を直接所有するより管理の負担を抑えながら、不動産へ投資できる仕組みには一定の需要が残るでしょう。
税制改正は商品選別を進める
節税需要が減ることは、事業者にとって厳しい環境です。
一方、投資家にとっては商品の質を見極めやすくなる可能性があります。
これまでは節税効果が大きければ、利回りが多少低くても販売できたかもしれません。
しかし、節税効果が縮小すれば、それでは購入者を集められません。
立地がよい。
賃料収入が安定している。
適切な価格で取得している。
管理コストが合理的である。
将来の売却が期待できる。
こうした本来の不動産価値で競争する必要があります。
税制改正によって市場が縮小するとしても、その過程で質の高い商品とそうでない商品が選別されていく可能性があります。
結論
2027年から相続税や贈与税の評価方法が見直されれば、不動産小口化商品を節税目的だけで購入する魅力は大幅に低下します。
しかし、それは不動産小口化商品そのものに投資価値がなくなることを意味しません。
むしろ、これからが本当の評価の始まりです。
節税効果がゼロでも、この利回りなら投資したいと思えるのか。
この立地なら長期間保有したいと思えるのか。
将来、適正な価格で売却できるのか。
その事業者に資産の管理を任せられるのか。
こうした問いに答えられる商品であれば、税制が変わっても一定の価値は残ります。
これまでの不動産小口化商品では「いくら評価額を下げられるか」が注目されてきました。
これからは「その不動産はいくら稼ぎ、将来いくらで売れるのか」が重要になります。
節税商品から投資商品へ。
2027年の制度改正は、不動産小口化市場を本来の不動産投資へ戻す大きな転換点になるのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換