法人税はなぜ累進課税ではないのか 所得税との違いから考える

税理士
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個人が所得を得れば所得税がかかり、会社が利益を上げれば法人税がかかります。

どちらも所得に対する税金ですが、税率の仕組みには大きな違いがあります。

所得税では、所得が増えるほど高い税率が適用される累進課税が採用されています。一方、法人税は基本的に一定の税率を適用する比例課税です。

なぜ個人と法人では仕組みが違うのでしょうか。

この違いを理解すると、法人税に累進課税を導入するという議論の難しさも見えてきます。

所得税は所得が増えるほど税率が高くなる

個人の所得税には超過累進税率が採用されています。

課税所得が一定の金額を超えるごとに、その超えた部分に対してより高い税率が適用されます。

背景にあるのが応能負担という考え方です。

所得が多い人ほど税を負担する能力も大きいため、より高い割合で税を負担してもらうという考え方です。

同時に所得税には、所得再分配という重要な役割があります。

高所得者からより多くの税を徴収し、社会保障や教育、公共サービスなどを通じて社会全体へ再配分します。

税収を確保するだけでなく、所得格差を調整する機能を持っているわけです。

法人税は基本的に比例課税

これに対して法人税では、基本的に所得金額に対して一定の税率を適用します。

もっとも、すべての法人に完全に同じ税率が適用されているわけではありません。

一定の中小法人については、所得のうち一定額以下の部分に軽減税率が設けられています。

その意味では、すでに企業規模や所得水準に一定の配慮が行われています。

しかし、個人所得税のように所得が増えるにつれて税率が何段階にも上昇する本格的な累進税率ではありません。

法人税では、利益の大きさそのものより、企業活動に対してできるだけ中立的な課税を行うことが重視されてきました。

法人には寿命がない

個人と法人の大きな違いの1つが、所得を得る主体の性質です。

個人には生活があります。

所得から住宅費や食費、教育費などを負担しなければなりません。

また、所得が一定額を超えれば生活に必要な支出を上回る余裕も大きくなるため、所得の増加に応じて負担能力が高まるという考え方が成り立ちやすくなります。

一方、法人は事業を継続するための存在です。

今年1億円の利益を上げたとしても、その1億円を自由に消費できるわけではありません。

翌年の設備投資や研究開発、借入金の返済、運転資金などに使う可能性があります。

法人の利益が大きいからといって、そのすべてを個人の高所得と同じように考えることは難しいのです。

利益が大きい企業ほど担税力が高いのか

それでも、利益が1,000万円の会社と100億円の会社では税を負担する能力が違うのではないかという疑問があります。

これが法人税累進課税論の出発点になります。

高い利益を継続的に上げる企業には、それだけ大きな経済力があります。

市場で強い競争力を持ち、多額の利益を蓄積している企業により大きな負担を求めることには、一定の合理性があります。

特に大企業の利益が増える一方で、家計への所得分配が十分に増えていないのであれば、法人課税を通じた再分配を求める議論も出てきます。

しかし、ここには個人所得税にはない難しい問題があります。

法人税率は企業の投資判断に影響する

企業は利益を増やすために活動しています。

利益が増えるほど税率まで上昇する制度になれば、企業の投資判断に影響を与える可能性があります。

例えば、日本国内で追加投資をして利益を拡大すると法人税率が上昇するのであれば、企業が国内投資をためらう可能性があります。

海外で事業を行った方が税負担を抑えられるのであれば、海外投資を優先する企業も出てくるでしょう。

個人よりも法人の方が所得の発生場所を国境を越えて移動させやすいという特徴があります。

法人税制では、税負担の公平性だけでなく、企業活動への影響まで考える必要があるのです。

法人税には国際競争がある

各国は企業から税金を取りたい一方で、自国への投資も呼び込みたいと考えています。

そのため法人税率は国際的な企業誘致競争とも深く関係します。

ある国だけ法人税負担が著しく高くなれば、企業は工場や研究開発拠点などを別の国に設けることを検討します。

多国籍企業では、知的財産やグループ会社間取引などを通じて、利益がどの国に帰属するかも重要な問題になります。

法人税を考える場合には国内だけを見て制度を設計することが難しくなっています。

累進課税を導入する場合にも、高利益企業ならどこまでも税率を上げられるわけではありません。

株主への課税との関係もある

法人の利益は最終的には株主にも帰属します。

会社が利益を上げれば、配当として株主に分配したり、企業価値の上昇を通じて株主に利益をもたらしたりします。

法人段階で法人税が課され、さらに個人株主が受け取る配当などにも課税されます。

したがって、法人税の負担だけを取り出して公平性を判断するのではなく、株主段階の課税まで含めて考える必要があります。

法人は最終的な税負担者なのか、それとも株主や従業員、消費者などが法人税を間接的に負担しているのかという問題もあります。

法人税が複雑なのは、このためです。

中小企業にはすでに軽減税率がある

日本の法人税制でも、企業の負担能力の違いが全く考慮されていないわけではありません。

一定の中小法人については、所得の一定部分に軽減税率が設けられています。

つまり、小規模な法人と大企業を完全に同じ条件で課税しているわけではありません。

この仕組みをさらに発展させ、所得水準によって法人税率を複数段階に分けるという考え方が法人税の累進課税です。

問題は、どの所得水準で税率を変えるのかです。

単年度だけ巨額の利益が発生した企業と、毎年安定して巨額の利益を上げる企業を同じように扱うべきかという問題もあります。

法人所得は景気や大型資産の売却などによって大きく変動するためです。

公平性と経済成長のバランスが難しい

法人税の累進課税には明確なメリットがあります。

利益の少ない企業の税負担を軽くし、高い利益を上げる企業により大きな負担を求めることができます。

一方で、高利益企業の税負担を過度に重くすれば、国内投資や企業立地に悪影響を与える可能性があります。

ここに法人税改革の難しさがあります。

公平性だけを追求してもいけません。

経済成長だけを理由に税負担を軽くし続けてもいけません。

どこにバランスを置くかが重要になります。

結論

所得税が累進課税で法人税が基本的に比例課税なのは、単に制度の歴史が違うからではありません。

個人と法人では所得の性質が異なり、法人には投資、雇用、国際競争、株主への分配といったさまざまな要素が関係するからです。

しかし、企業に巨額の利益が蓄積する時代に、現在の法人税の仕組みが最適なのかという問いは残ります。

重要なのは、法人税率を高くするか低くするかだけではありません。

利益の少ない企業の成長を支えながら、高利益企業に蓄積した資金を賃上げや設備投資、研究開発へ向かわせる税制をどうつくるかです。

法人税の累進課税をめぐる議論は、税負担の公平性だけではなく、日本企業のお金をどのように経済全体へ循環させるかという問題でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月5日朝刊 「法人の累進課税で好循環 葭田英人氏」

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