2027年1月から始まる給与所得の源泉徴収票の「みなし提出の特例」とあわせて、企業の給与・税務担当者が確認しておきたい重要な改正があります。
法定調書の電子的提出義務について、基準となる枚数が従来の100枚以上から30枚以上へ引き下げられます。
100枚から30枚への引下げですから、これまで電子提出義務の対象ではなかった企業にも影響が広がります。
特に注意したいのは、現在の従業員数だけを見て「当社は30人未満だから関係ない」と判断できる制度ではないことです。
電子提出義務には「基準年」という考え方があり、さらに、みなし提出となった源泉徴収票についても枚数判定に含まれます。
2027年以降の年末調整では、電子提出義務の判定方法そのものを改めて確認する必要があります。
これまでは100枚以上が基準だった
法定調書には、給与所得の源泉徴収票をはじめ、退職所得の源泉徴収票や報酬等に関する支払調書などがあります。
これらの法定調書については、一定以上の枚数を提出する事業者に電子的提出が義務付けられています。
従来、その基準は100枚以上でした。
そのため、比較的小規模な企業では書面による提出を続けているケースもありました。
ところが2027年1月1日以後、この基準が30枚以上へ引き下げられます。
単純に考えても、電子提出義務の対象となる企業の範囲が大きく広がる改正です。
30枚はその年の従業員数ではない
ここで最も注意したいのが、「30枚」の数え方です。
電子的提出義務の判定では、実際に法定調書を提出する年の人数をそのまま数えるわけではありません。
判定基準となるのは、「基準年」に提出すべきであった法定調書の枚数です。
基準年とは、提出期限の前々年をいいます。
たとえば、2029年に給与支払報告書を提出するときには、2027年が基準年になります。
したがって、2029年の従業員数だけを見て電子提出義務の有無を判断するわけではありません。
過去の提出状況を適切に管理しておく必要があります。
50枚なら電子提出義務の対象になる
資料では、具体的な判定例が示されています。
A社では、基準年である2027年に年末調整済みの対象者が50人おり、各人の給与等の支払金額は600万円です。
A社は給与支払報告書50枚を市区町村へ提出します。
源泉徴収票については、みなし提出となるため、税務署へ改めて提出する必要はありません。
それでも基準年に提出すべき源泉徴収票は50枚として扱われます。
30枚以上という基準に該当するため、2029年には給与支払報告書の電子的提出義務が生じます。
ここで重要なのは、税務署へ源泉徴収票を実際に送信した枚数ではありません。
「提出すべきであった枚数」で判断することです。
みなし提出だから0枚とはならない
2027年からの制度を理解するとき、特に間違えやすいポイントです。
給与支払報告書を市区町村へ提出すれば、給与所得の源泉徴収票については税務署へ提出したものとみなされます。
そのため企業の実務だけを見ると、
「税務署に源泉徴収票を1枚も提出していない」
というケースが生じます。
しかし、
税務署への実際の提出枚数が0枚
だから、
電子的提出義務を判定する枚数も0枚
とはなりません。
みなし提出となった源泉徴収票も、判定上の枚数に含まれます。
電子提出義務を判断するときには、「実際に税務署へ何枚送ったか」ではなく、「基準年に税務署へ提出すべきであった源泉徴収票は何枚だったか」を確認する必要があります。
改正後の広い提出範囲で数え直すわけではない
さらに注意したいポイントがあります。
2027年からは給与所得の源泉徴収票の提出範囲そのものも変更されます。
改正後は、その年の給与等の支払金額が30万円以下である中途退職者を除き、原則としてすべての給与等が提出範囲になります。
では、電子提出義務を判定するときも、過去の給与データに新しい提出範囲を当てはめて枚数を数え直すのでしょうか。
そうではありません。
基準年について、その当時の提出範囲によって税務署へ提出すべきであった源泉徴収票の枚数で判定します。
つまり、制度改正後の基準を過去にさかのぼって適用して枚数を計算するわけではありません。
35人いても電子提出義務がないケースがある
資料では、この点を理解するためのB社の例も示されています。
B社には、年末調整済みで給与等の支払金額が600万円の人が20人います。
さらに乙欄適用者が15人おり、各人の給与等の支払金額は40万円です。
人数だけを見ると合計35人です。
30人を超えているため、「30枚以上だから電子提出義務がある」と考えてしまいそうです。
しかし、基準年に税務署へ提出すべき源泉徴収票の枚数を確認すると、年末調整済みの20人は含まれる一方、乙欄適用者15人は当時の提出範囲では含まれません。
したがって判定対象は20枚です。
30枚以上という基準に達していないため、この例では電子的提出義務はありません。
「給与を支払った人数」と「電子提出義務を判定する枚数」が必ずしも一致しないことがよく分かる例です。
従業員30人以上という制度ではない
この改正が始まると、「従業員30人以上の会社は電子提出が義務化される」といった理解が広がる可能性があります。
しかし、これは正確ではありません。
基準となるのは従業員数ではなく、基準年に提出すべきであった法定調書の枚数です。
給与所得の源泉徴収票についても、給与を受け取った人全員を単純に数えるわけではありません。
退職者や年末調整をしなかった人などがいる場合には、人数と提出すべき枚数が異なる可能性があります。
給与担当者は「30人」という人数基準ではなく、「30枚」という法定調書の提出枚数基準として理解しておく必要があります。
2027年だけ確認すれば終わりではない
電子的提出義務の判定は、その年だけ確認すれば終わるものではありません。
基準年の提出枚数が、翌々年の提出方法に影響するからです。
資料の年末調整実務の準備チェックリストでも、2027年2月以降には2026年、2027年の法定調書提出枚数に基づいて、2028年、2029年の提出方法を確認することが示されています。
つまり、これからは毎年の法定調書について、
何枚提出すべきだったのか
その枚数によって翌々年に電子提出義務が生じるのか
を継続的に管理していくことが重要になります。
2026年中から確認しておきたい
資料では、2026年9月から10月の準備項目として、2027年の電子的提出義務の確認が挙げられています。
さらに2027年の提出方法を選定し、電子提出義務やマイナポータル連携への対応を踏まえて提出方法を決めることが想定されています。
電子提出義務の対象になることが分かってから慌てて準備するのではなく、事前に自社が対象になるかを確認しておくことが重要です。
特にこれまで書面中心で処理してきた企業では、電子提出への切替えに伴って給与ソフトや社内の作業手順を見直す必要が出てくる可能性があります。
100枚から30枚への引下げを軽く見ない
100枚から30枚への引下げは、単なる数字の変更ではありません。
これまで電子提出義務とあまり関係がなかった規模の企業にも、電子化への対応が求められるようになることを意味します。
しかも2027年からは、源泉徴収票のみなし提出や提出範囲の変更も同時に始まります。
それぞれを別々の改正として理解するより、
給与情報の提出範囲を整理する
税務署と市区町村のデータ連携を進める
電子提出の対象を広げる
という一連の変化として捉えた方が分かりやすいでしょう。
結論
2027年1月1日以後、法定調書の電子的提出義務の基準枚数は100枚以上から30枚以上へ引き下げられます。
これによって、これまで電子提出義務の対象ではなかった企業にも影響が広がります。
ただし、「従業員が30人以上なら電子提出」という単純な制度ではありません。
判定では基準年に提出すべきであった法定調書の枚数を確認します。
さらに、給与支払報告書を市区町村へ提出したことで源泉徴収票がみなし提出となり、税務署へ実際には1枚も送信していない場合でも、その源泉徴収票は判定上の枚数に含まれます。
「実際に提出した枚数」と「電子提出義務を判定する枚数」を混同しないことが重要です。
2027年からの年末調整実務では、みなし提出への対応だけでなく、自社が電子提出義務の対象になるのかを早めに確認しておく必要があります。
次回は、「税務署への提出は0枚」でも電子提出義務あり みなし提出後の枚数判定の落とし穴について、さらに詳しく見ていきます。
参考
企業実務 2026年10月号 2027年1月施行 給与所得の源泉徴収票「みなし提出の特例」の実務対応