「税務署への提出は0枚」でも電子提出義務あり みなし提出後の枚数判定の落とし穴

税理士
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2027年1月から始まる給与所得の源泉徴収票の「みなし提出の特例」によって、企業の年末調整後の事務は大きく変わります。

給与支払報告書を市区町村に提出すれば、税務署にも給与所得の源泉徴収票を提出したものとみなされるためです。

その結果、企業によっては税務署へ実際に提出する給与所得の源泉徴収票が0枚になることもあります。

ここで注意したいのが、法定調書の電子的提出義務の判定です。

「税務署に1枚も提出していないのだから、提出枚数は0枚」と考えてしまうと、判定を誤る可能性があります。

みなし提出となった源泉徴収票も、電子的提出義務を判定するときには枚数に含めるからです。

2027年以降の実務では、「実際に提出した枚数」と「判定上の枚数」を明確に分けて考える必要があります。

みなし提出で税務署への二重提出がなくなる

まず、みなし提出の仕組みを確認しておきましょう。

2027年1月1日以後に提出すべき2026年分以後の給与所得の源泉徴収票について、企業が給与支払報告書を市区町村へ提出すると、税務署にも源泉徴収票を提出したものとみなされます。

企業が市区町村へ給与支払報告書を提出し、その給与情報が税務署へ連携される仕組みです。

したがって、企業が同じ給与情報を税務署へ源泉徴収票としてもう1度提出する必要がなくなります。

これまでの税務署と市区町村への二重提出を解消することが、今回の制度変更の大きなポイントです。

実際の提出枚数が0枚になることもある

たとえば、ある会社が50人分の給与支払報告書を市区町村へ提出したとします。

50人分の給与所得の源泉徴収票がすべてみなし提出の対象になれば、会社が税務署へ源泉徴収票を直接提出する枚数は0枚になります。

企業の担当者から見れば、

市区町村への給与支払報告書は50枚

税務署への給与所得の源泉徴収票は0枚

という状態になります。

ここだけを見ると、税務署への提出枚数は確かに0枚です。

しかし、電子的提出義務の判定では、この「0枚」という数字をそのまま使うことはできません。

電子提出義務では「提出すべきであった枚数」を見る

法定調書の電子的提出義務を判定するときに重要なのは、実際に税務署へ何枚送ったのかではありません。

基準年に「税務署へ提出すべきであった源泉徴収票の枚数」で判定します。

つまり、給与支払報告書を市区町村へ提出したことによって源泉徴収票がみなし提出となっていても、その源泉徴収票が判定上消えてしまうわけではありません。

企業が直接税務署へ送信していないだけで、税務署へ提出したものとみなされています。

そのため、電子的提出義務の判定上は枚数に含めることになります。

50枚がみなし提出なら判定上も50枚

資料ではA社の具体例が示されています。

A社は基準年である2027年に、年末調整済みの対象者50人について給与支払報告書を市区町村へ提出します。

各人の給与等の支払金額は600万円です。

給与所得の源泉徴収票については、みなし提出となるため、A社から税務署へ直接提出する必要はありません。

実際に税務署へ提出する源泉徴収票だけを数えれば0枚です。

しかし、基準年に提出すべき源泉徴収票は50枚として判定します。

したがって30枚以上という基準に該当し、2029年に給与支払報告書を提出する際には電子的提出義務が生じることになります。

ここが、みなし提出開始後の重要な実務ポイントです。

「0枚だから義務なし」という判断は危険

みなし提出の仕組みだけを理解していると、

「今年から税務署への源泉徴収票の提出はなくなった」

「実際の提出枚数は0枚になった」

「だから電子提出義務の判定も0枚でよい」

と考えてしまう可能性があります。

しかし、最後の判断が間違いです。

電子的提出義務では、みなし提出となった源泉徴収票も判定上の枚数に含まれます。

つまり、

実際に税務署へ直接提出した枚数

と

電子的提出義務を判定するときの枚数

は一致しない場合があります。

2027年以降は、この2種類の「枚数」を区別して管理する必要があります。

基準年という考え方も重要

さらに判定を複雑にするのが「基準年」です。

電子的提出義務は、その年に提出する法定調書の枚数だけを見て判断するわけではありません。

判定基準となるのは、提出期限の前々年である基準年に提出すべきであった法定調書の枚数です。

資料では、2029年に給与支払報告書を提出する場合について、2027年を基準年とした例が示されています。

したがって2029年になってから、その時点の従業員数だけを確認しても正しい判定はできません。

2027年に提出すべきであった源泉徴収票の枚数を把握しておく必要があります。

30枚基準への引下げで重要性が高まる

この枚数判定が特に重要になる理由は、2027年1月1日以後、法定調書の電子的提出義務の基準が引き下げられるためです。

従来は100枚以上でしたが、改正後は30枚以上になります。

100枚以上であれば対象にならなかった企業でも、30枚以上になることで電子提出義務の対象となる可能性があります。

みなし提出によって税務署への直接提出がなくなったため「自社は法定調書の電子提出義務とは関係がなくなった」と考えるのではなく、むしろ30枚基準への変更によって、自社が対象になる可能性を確認する必要があります。

改正後の提出範囲で過去を数え直すわけではない

もう1つ、枚数判定で間違えやすい点があります。

2027年から給与所得の源泉徴収票の提出範囲も変更されます。

改正後は、その年の給与等の支払金額が30万円以下である中途退職者を除き、原則としてすべての給与等が提出範囲となります。

しかし、電子的提出義務を判定するために、過去の給与データへ新しい提出範囲をさかのぼって適用するわけではありません。

基準年については、その基準年当時の提出範囲によって税務署へ提出すべきであった源泉徴収票の枚数で判定します。

「現在の制度で何枚になるか」ではなく、「基準年当時の制度なら何枚提出すべきだったか」を見るわけです。

給与支払報告書の枚数とも一致するとは限らない

さらに注意したいのは、市区町村へ提出した給与支払報告書の枚数と、電子的提出義務を判定する源泉徴収票の枚数が必ず一致するわけでもないことです。

資料に示されたB社の例では、給与支払報告書を提出する対象者として、年末調整済みの20人と乙欄適用者15人がいます。

合計すれば35人です。

しかし、基準年の提出範囲で税務署へ提出すべき源泉徴収票を判定すると、年末調整済みの20枚は含まれる一方、乙欄適用者15枚は含まれません。

そのため判定上は20枚となり、30枚以上という基準には該当しません。

市区町村へ35枚提出したから、電子提出義務の判定も35枚になるとは限らないのです。

3つの枚数を区別して考える

2027年以降の実務では、少なくとも3つの枚数を混同しないことが重要になります。

1つ目は、市区町村へ実際に提出した給与支払報告書の枚数です。

2つ目は、税務署へ実際に直接提出した給与所得の源泉徴収票の枚数です。

3つ目は、電子的提出義務を判定するための源泉徴収票の枚数です。

みなし提出が始まると、この3つが一致しないケースが出てきます。

特に2つ目が0枚だからといって、3つ目まで0枚になるわけではありません。

給与担当者や税務担当者は、何のために数えている枚数なのかを意識する必要があります。

毎年の枚数を記録しておく

基準年の提出状況が翌々年の電子提出義務に影響する以上、企業としては毎年の提出枚数を記録しておくことが重要です。

単に「今年は電子提出した」「今年は書面提出した」という記録だけでは十分ではありません。

基準年に提出すべきであった法定調書が何枚だったのかを把握できるようにしておく必要があります。

みなし提出開始後は、税務署への実際の送信履歴だけを確認しても正しい枚数が分からないケースが生じます。

給与ソフトや年末調整システムを利用している場合には、電子提出義務の判定に必要な枚数をどのように確認できるのかも事前に確認しておいた方がよいでしょう。

結論

2027年から給与所得の源泉徴収票のみなし提出が始まると、税務署へ直接提出する源泉徴収票が0枚になる企業も出てきます。

しかし、「税務署への実際の提出が0枚」ということと、「電子的提出義務の判定枚数が0枚」ということは同じではありません。

給与支払報告書を市区町村へ提出したことによってみなし提出となった源泉徴収票も、電子的提出義務を判定するときの枚数には含まれます。

さらに、判定では基準年という考え方があり、その当時の提出範囲によって税務署へ提出すべきであった枚数を確認する必要があります。

みなし提出によって提出作業は簡素化されますが、枚数管理まで不要になるわけではありません。

むしろ100枚基準から30枚基準への引下げも同時に行われるため、これまで以上に正確な枚数管理が重要になります。

「実際に提出した枚数」と「提出すべきであった枚数」。

この違いを理解することが、2027年以降の電子提出義務を正しく判定するための重要なポイントです。

次回は、「2026年中途退職者はどう扱う みなし提出の適用時期を整理」について詳しく見ていきます。

参考

企業実務 2026年10月号 2027年1月施行 給与所得の源泉徴収票「みなし提出の特例」の実務対応

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