銀行との融資交渉は、経営者や財務責任者が行うもの。
経理担当者は決算書や試算表を作り、必要な資料を準備すればよい。
これまでは、そのように考えている会社も多かったかもしれません。
しかし、事業性評価が重視され、企業価値担保権という新しい仕組みが導入されると、経理担当者に期待される役割も広がっていきます。
金融機関が知りたいのは、決算書に記載された過去の数字だけではありません。
なぜその数字になったのか。
現在、事業では何が起きているのか。
借りた資金を何に使うのか。
投資によって何が変わるのか。
将来どの程度のキャッシュフローを生み出せるのか。
経理担当者には、財務情報と事業情報をつなぎ、金融機関が会社を評価できる形に整理する役割が求められるようになります。
決算書を作るだけでは伝わらない
決算書は金融機関にとって重要な資料です。
売上はいくらだったのか。
利益はいくらだったのか。
どの程度の資産と負債があるのか。
こうした会社の財務状況を確認できます。
しかし、決算書は基本的に過去の結果を表したものです。
事業性評価では、それだけでなく事業内容や将来性も確認します。
資料では、金融機関が見るポイントとして、返済可能性、説明の明確さ、実行体制、情報開示と対話という4つの視点が示されています。
したがって経理担当者の仕事も、数字を正確に作成するだけでは十分とはいえなくなります。
数字が何を意味しているのかを説明できる状態にすることが重要です。
売上が増えた理由を説明できるか
たとえば、今期の売上が前年より20%増えたとします。
試算表を見れば、売上が増加したことはわかります。
しかし、事業性評価ではその背景も重要です。
既存顧客からの受注が増えたのか。
新規顧客を獲得したのか。
特定の商品が伸びたのか。
一時的な大型受注があったのか。
同じ20%の売上増加でも、その内容によって将来性の見方は変わります。
資料では、受注状況、顧客別売上、商品別利益などを整理し、事業価値や返済原資を具体的に説明することが重要とされています。
経理担当者には、会計上の売上高だけでなく、その中身まで整理する視点が必要になります。
利益が減った理由まで数字を掘り下げる
利益についても同じです。
営業利益が前年より減少している。
これだけでは、金融機関は会社で何が起きているのか十分に理解できません。
売上そのものが減少したのか。
粗利が悪化したのか。
特定商品の採算が低下したのか。
一時的な費用が発生したのか。
数字の変化を事業の動きと結びつける必要があります。
資料では、将来キャッシュフローの定量的な裏付けとして、売上、粗利、営業利益、減価償却費などを整理することが示されています。
単に営業利益の金額を見るだけではなく、利益が生まれる仕組みを理解することが重要です。
試算表を早く作る意味が変わる
月次試算表を早期に作成することも重要です。
しかし、単に月次決算の早期化を目標にするだけではありません。
試算表を使って会社の変化を早く把握することに意味があります。
売上が計画を下回っている。
利益率が悪化している。
在庫が増えている。
売掛金が増えている。
こうした変化を早い段階で確認できれば、経営者も対応を考えることができます。
さらに金融機関との継続的な対話にも利用できます。
資料では、月次試算表や資金繰り表を金融機関と継続して共有することが、情報開示と対話の重要な要素として示されています。
試算表は決算書を作る途中の資料ではなく、経営と金融機関との対話に使う資料でもあるのです。
資金繰り表で将来を説明する
経理担当者が金融機関との関係で特に重要な役割を果たせるのが、資金繰りの管理です。
利益が出ていても、売掛金や在庫が増えれば現金が不足することがあります。
反対に、一時的に利益が低下していても、手元資金に余裕がある場合もあります。
金融機関が最も重視するのは、最終的には返済可能性です。
そのため、将来の資金の動きを説明することが重要になります。
いつ入金があるのか。
いつ支払いがあるのか。
借入金をいつ返済するのか。
今後、追加の資金需要が発生するのか。
資金繰り表を継続して更新することで、将来キャッシュフローについて金融機関と具体的な対話ができます。
運転資金の理由を説明する
「運転資金として3,000万円借りたい」
経営者からそう言われたとき、経理担当者がその金額の根拠を説明できるでしょうか。
売上増加によって売掛金はいくら増えるのか。
在庫はいくら必要になるのか。
仕入先への支払いはいつ発生するのか。
売掛金はいつ回収されるのか。
資料では、将来キャッシュフローの裏付けとして、在庫回転期間、売掛金回収期間、買掛金支払期間などが挙げられています。
こうした数字を整理することで、希望額ではなく必要額として運転資金を説明できるようになります。
これは経理担当者が持つ会計情報を銀行交渉に生かせる代表的な場面です。
設備投資では投資効果を数字にする
設備投資の場合にも経理担当者の役割があります。
現場から、
「新しい設備が必要です」
という要望が出たとします。
経営者が投資を決定し、金融機関から資金を借りることになりました。
そこで経理担当者が考えるのは、設備の購入金額だけではありません。
設備導入によって売上はいくら増えるのか。
粗利や営業利益はどう変化するのか。
減価償却費はいくらになるのか。
売上増加に伴う運転資金はいくら必要になるのか。
将来キャッシュフローはどう変わるのか。
資料では、資金使途と投資効果を明確にし、借入によって企業価値がどのように高まるのかを説明することが重要とされています。
現場の投資計画を財務的な数字へ変換することも、経理担当者の重要な役割になります。
計画と実績を毎月比較する
融資を受けるために事業計画を作成しても、作っただけでは意味がありません。
資料では、金融機関が見るポイントとして実行体制が挙げられています。
毎月、計画と実績を比較する。
差があれば原因を確認する。
必要な対応を取る。
そして再び結果を確認する。
こうしたPDCAを回す体制が重要です。
経理担当者は、計画と実績の数字を比較しやすい立場にいます。
売上計画に対して実績はいくらなのか。
利益計画との差はいくらなのか。
資金繰りは想定どおりなのか。
数字の差異を経営者に早く伝えることで、経営判断にもつなげられます。
悪い数字ほど背景を整理する
銀行交渉では、良い数字だけを説明すればよいわけではありません。
売上が落ちている。
利益率が低下している。
在庫が増えている。
売掛金の回収期間が長くなっている。
こうした変化があれば、その理由を把握する必要があります。
そして重要なのは、悪化した数字だけを金融機関へ渡すのではなく、その原因と今後の対応を整理することです。
資料では、融資後も業績の変化や今後の方針を継続して説明することが重要とされています。
数字を隠すのではなく、数字を理解して説明する。
ここにも経理担当者の役割があります。
経営者の言葉を数字に変換する
経営者は事業の将来を言葉で語ります。
「この市場はこれから伸びる」
「この商品には競争力がある」
「新しい設備を入れれば受注を増やせる」
「この顧客との取引を拡大したい」
こうした経営者の考えは重要ですが、金融機関が融資判断を行うためには数字とのつながりが必要です。
売上はいくらになるのか。
利益はいくらになるのか。
必要資金はいくらなのか。
いつキャッシュフローが生まれるのか。
返済原資はいくら確保できるのか。
経営者の事業構想を数字へ変換する。
これは経理担当者だからこそ担いやすい仕事です。
数字を事業の言葉に戻すことも必要になる
反対方向の仕事もあります。
会計数字を事業の言葉へ戻すことです。
売上が10%増えた。
在庫が2,000万円増えた。
粗利率が低下した。
売掛金回収期間が長くなった。
これだけでは、数字の説明にとどまります。
なぜそうなったのかを営業や製造などの現場と確認します。
特定顧客からの受注が増えた。
新商品の在庫を積み増した。
原材料価格が上昇した。
顧客との取引条件が変わった。
こうした事業の動きと数字を結びつけることで、金融機関にも会社の状況を説明しやすくなります。
経理担当者には、事業を数字に変換すると同時に、数字を事業の言葉へ戻す役割もあります。
企業価値を見える状態にする
企業価値担保権では、決算書に表れにくい価値も重要になります。
顧客基盤。
契約関係。
知的財産。
ブランド。
ノウハウ。
これらは経理担当者だけで評価できるものではありません。
しかし、事業情報と財務情報を組み合わせることで、その価値が収益にどうつながっているのかを整理することはできます。
どの顧客が売上を支えているのか。
どの商品が利益を生み出しているのか。
どの強みが継続的な受注につながっているのか。
それによって将来どの程度のキャッシュフローが期待できるのか。
目に見えない企業価値と数字をつなぐことが重要です。
銀行員が社内で説明できる資料にする
資料では、金融機関が事業性評価で見るポイントの1つとして説明の明確さが挙げられています。
銀行の担当者は、企業から聞いた話を自分だけが理解すればよいわけではありません。
支店長や審査部門などに会社の事業を説明する必要があります。
そのため、会社側の説明もわかりやすく整理されていることが重要です。
事業の仕組み。
顧客から選ばれる理由。
今後の成長見通し。
資金使途。
投資効果。
将来キャッシュフロー。
これらを数字と資料で整理しておけば、銀行担当者も社内で説明しやすくなります。
経理担当者は、金融機関が評価しやすい情報を整える役割を担うことができます。
結論
事業性評価が重視される時代の経理担当者は、正しい決算書を作るだけでは役割を十分に果たせない場面が増えていきます。
もちろん、正確な会計処理は大前提です。
そのうえで、
なぜ売上が変化したのか。
なぜ利益が変化したのか。
なぜ資金が必要なのか。
投資によって何が変わるのか。
将来キャッシュフローはどうなるのか。
計画と実績にどのような差があるのか。
こうしたことを事業情報と財務情報の両方から整理する必要があります。
資料では、経理や総務担当者について、単に決算書や試算表を作るだけではなく、財務情報と事業情報をつなぎ、事業の動き、資金使途、投資効果を経営者と一緒に整理して金融機関へ伝える役割が重要になるとしています。
つまり、これからの経理担当者に求められるのは「数字を作る力」だけではありません。
「数字の意味を理解し、事業と結びつけて説明する力」です。
銀行交渉を経営者だけの仕事にするのではなく、経理担当者が数字と事業をつなぐ。
それによって会社は、自社の事業価値と返済可能性を金融機関が評価できる状態へ近づけることができるのです。
参考
企業実務 2026年10月号 金融機関はあなたの会社をこう見ている「事業性評価」の本音と建前