設備や備品を購入したとき、「まだ代金を払っていないから、今期の経費にはできない」と考えることがあります。
反対に、「決算日までに代金を払ったから、今期の経費にできる」と考えることもあるでしょう。
しかし、減価償却資産の経費計上を考えるとき、支払日だけで判断するのは適切ではありません。
資料では、期末までに納品が完了し、事業の用に供していれば、代金の支払いが翌期になっても経費計上できると説明されています。
逆に、決算日までに代金を支払っていても、納品されていなかったり、事業で使用していなかったりすれば、その年度の経費にできない場合があります。
減価償却で重要なのは、「いつお金を払ったか」ではなく、「いつ事業のために使える状態になったか」という視点です。
支払日と経費計上日は必ずしも一致しない
現金で物を購入すると、支払った日に経費が発生したように感じます。
しかし、固定資産では、お金の動きと会計上の費用計上時期が一致するとは限りません。
例えば、3月決算の会社が3月20日にパソコンを注文したとします。
パソコンは3月25日に納品され、その日から業務で使用を開始しました。
ところが、請求書の支払期限は4月30日です。
この場合、決算日の3月31日時点では代金をまだ支払っていません。
それでも、3月中に納品され、事業の用に供しているのであれば、支払いが4月だからという理由だけで翌年度の資産になるわけではありません。
未払いであることと、資産を取得して使用していることは別の問題だからです。
支払いが翌期でも事業供用が今期なら扱いは変わる
設備投資では、請求書を受け取ってから一定期間後に代金を支払うことは珍しくありません。
月末締め翌月末払いなどの取引条件であれば、設備を使い始めた時点では代金を支払っていないことがあります。
それでも、設備が納品され、事業の用に供されているのであれば、支払日だけを理由に減価償却の開始を翌期へずらすわけではありません。
つまり、現金が出ていくタイミングと、減価償却費を計上するタイミングは別々に考える必要があります。
ここは、減価償却を理解するうえで非常に重要なポイントです。
先に払っても使っていなければ経費にはならない
反対のケースを考えてみましょう。
3月決算の会社が3月20日に39万円のパソコンを注文し、その日に代金を全額支払ったとします。
しかし、納品されたのは4月5日でした。
この場合、3月31日時点では会社にパソコンが届いていません。
当然、事業で使用することもできません。
決算日までに39万円を支払ったという事実だけでは、その年度の減価償却費を計上する根拠にはなりません。
少額減価償却資産の特例についても同じです。
40万円未満だから、支払った年度に自動的に全額損金算入できるわけではありません。
納品されても使っていなければ注意が必要
さらに注意したいのが、納品日と事業供用日が異なるケースです。
例えば、パソコンが3月28日に届いたものの、箱に入ったまま保管していたとします。
初期設定を行い、実際に業務で使用し始めたのは4月3日でした。
この場合、単に3月中に納品されたという事実だけで判断するのではなく、事業の用に供した時期を確認する必要があります。
資料でも、納品されていても使っていなければ経費にできないという考え方が示されています。
重要なのは、会社に物が届いたかどうかだけではありません。
事業のために実際に使用できる状態になっているかどうかです。
注文日も基準になるわけではない
決算前に設備を発注すると、「今期中に注文したから今期の設備投資になる」と考えることもあります。
しかし、注文しただけでは設備を事業で利用することはできません。
例えば、3月15日に機械を発注し、納品予定日が5月だったとします。
契約を締結し、手付金まで支払っていたとしても、3月末には機械そのものが納品されていません。
このような場合、発注日だけを基準に減価償却を始めることはできません。
注文、契約、支払い、納品、使用開始は、それぞれ別の出来事として考える必要があります。
4つの日付を分けて管理する
決算期をまたぐ設備投資では、少なくとも4つの日付を確認すると分かりやすくなります。
注文した日。
代金を支払った日。
設備が納品された日。
事業の用に供した日。
例えば、3月決算の会社で、注文日が3月10日、支払日が3月20日、納品日が3月28日、事業供用日が4月2日だったとします。
支払いまで3月中に終わっています。
それでも、事業の用に供したのは4月です。
一方、注文日が3月10日、納品日と事業供用日が3月25日、支払日が4月30日というケースもあります。
こちらは代金をまだ支払っていませんが、3月中に事業で使用を開始しています。
2つのケースを比較すると、支払日だけでは経費計上時期を判断できないことがよく分かります。
少額減価償却資産の特例でも考え方は同じ
2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例の対象金額は30万円未満から40万円未満へ拡大されました。
そのため、30万円台のパソコンや事務機器を決算対策として購入する場面も増える可能性があります。
しかし、40万円未満という金額基準を満たしただけでは、取得年度に全額を損金算入できるとは限りません。
事業の用に供した時期も重要です。
例えば、39万円のパソコンについて3月中に代金を支払っても、4月に納品されて使用を開始したのであれば、3月決算の会社が3月期の特例として処理することはできません。
一方、3月中に納品されて使用を開始していれば、代金の支払いが4月でも、支払いが翌期という理由だけで対象から外れるわけではありません。
大型設備では事業供用まで時間がかかる
パソコンなどであれば、納品から使用開始までの期間は比較的短いでしょう。
しかし、機械設備では事情が異なります。
工場に機械が搬入されても、据付工事が必要な場合があります。
電気工事や配管工事が必要になることもあります。
さらに、試運転や調整を行ってから本格的に使用する設備もあります。
そのため、設備そのものが決算日前に工場へ届いていたとしても、それだけで事業の用に供したと判断できるとは限りません。
大型設備ほど、購入契約から事業供用までの期間を考えて設備投資計画を立てる必要があります。
支払いを急ぐことが節税対策ではない
決算直前になると、「今月中に支払っておけば経費になる」と考え、取引先に支払いを急ぐケースもあるかもしれません。
しかし、減価償却資産については、支払いを早めるだけで損金算入時期を早められるわけではありません。
まだ納品されていない設備や、事業の用に供していない設備について代金だけを先に支払っても、それだけで減価償却費を計上できるものではありません。
むしろ、必要以上に支払いを前倒しすれば、会社の手元資金が早く減ることになります。
決算対策では、税金だけではなく資金繰りも考える必要があります。
未払いだから経費にできないという思い込みにも注意する
逆の思い込みもあります。
「まだお金を払っていないから経費にしてはいけない」という考え方です。
設備がすでに納品され、事業の用に供されているにもかかわらず、支払いが翌月だからという理由だけで処理を翌期へ送れば、適切な期間損益計算にならない可能性があります。
企業会計では、お金の出入りだけで利益を計算するわけではありません。
設備を取得した時期、事業で使用を開始した時期などを踏まえて処理する必要があります。
この違いを理解すると、減価償却がなぜ「支出を伴わない費用」といわれるのかも分かりやすくなります。
設備購入時には大きな資金が出ていく一方、その取得価額は原則として複数年度にわたって費用化されるからです。
決算前には納品予定日まで確認する
決算対策として設備を購入する場合には、価格だけではなく納期を確認することが重要です。
例えば、3月10日に発注したとしても、半導体不足や物流事情などによって納品が4月になれば、3月期の事業供用には間に合わない可能性があります。
特に受注生産の機械や特殊な設備では、発注から納品まで数か月かかることがあります。
そのため、決算直前に設備投資を考えるのではなく、余裕を持って計画することが大切です。
節税策として設備投資を利用するのであれば、税制上の要件だけでなく、実際の納品と使用開始まで含めてスケジュールを管理する必要があります。
結論
設備や備品の代金をまだ支払っていなくても、減価償却や経費計上ができる場合があります。
反対に、代金をすでに支払っていても、その年度の減価償却費を計上できない場合があります。
重要なのは、支払日だけではありません。
設備が納品され、実際に事業の用に供されているかどうかです。
特に決算期をまたぐ設備投資では、注文日、支払日、納品日、事業供用日を分けて確認する必要があります。
少額減価償却資産の特例についても、「40万円未満で決算日までに支払ったから全額経費になる」と単純に判断することはできません。
税務上の処理と現金の動きは、必ずしも同じ時期にはなりません。
「いつお金を払ったか」だけではなく、「いつ事業で使い始めたのか」を確認することが、設備投資の経費計上時期を判断するうえで重要です。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A