中小企業がパソコンや事務機器などを購入した場合、取得価額をその年度に全額経費にできる即時償却は、魅力的な節税方法です。
2026年度税制改正では、少額減価償却資産の特例の対象金額が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
これによって、これまで通常の減価償却が必要だった30万円以上40万円未満の設備についても、一定の要件を満たせば即時償却できるようになりました。
しかし、ここで注意したいことがあります。
即時償却によって法人税の負担を抑えられたとしても、それが税金全体で最も有利な選択になるとは限らないということです。
特に見落としやすいのが償却資産税です。
今回は、少額減価償却資産の特例と一括償却資産の違いを中心に、法人税と償却資産税を合わせて考える重要性を解説します。
即時償却は取得年度の利益を減らす仕組み
通常、企業が設備を購入した場合、その取得価額を耐用年数に応じて減価償却していきます。
例えば、取得価額100万円、耐用年数5年の設備を購入したとします。
定額法で償却率を年20%とする単純な例では、年間の減価償却費は20万円です。
購入した年度に100万円すべてを経費にするわけではありません。
一方、即時償却が認められる場合には、取得価額100万円を取得年度に全額損金算入することができます。
その年度の利益を大きく減らせるため、法人税等の負担を抑える効果があります。
ただし、即時償却によって費用化する時期が早くなっても、設備の取得価額そのものが増えるわけではありません。
基本的には、将来の年度に計上するはずだった減価償却費を前倒しして計上する仕組みです。
少額減価償却資産の特例は40万円未満が対象
2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例の対象金額は40万円未満へ引き上げられました。
一定の中小法人が取得した40万円未満の減価償却資産について、要件を満たせば取得年度に全額を損金算入できます。
ただし、年間の損金算入限度額は合計300万円です。
例えば、35万円のパソコンを購入した場合、特例の対象になれば35万円をその年度に損金算入できます。
通常の減価償却よりも早く費用化できるため、取得年度の法人税負担を抑える効果があります。
しかし、この特例には償却資産税との関係で注意すべき点があります。
償却資産税とは何か
償却資産税は、固定資産税の一種です。
土地や建物に対する固定資産税とは別に、事業のために保有する機械、工具、器具、備品などの償却資産に課税されます。
例えば、事務所で使用するパソコンや複合機、工場の機械設備、店舗の設備などが対象になり得ます。
償却資産税の標準税率は1.4%です。
ただし、取得価額に単純に1.4%を掛けるわけではありません。
資産の取得時期や耐用年数などに応じて評価額を計算し、その課税標準額に税率を掛けて税額を算出します。
また、償却資産の課税標準額の合計が免税点未満であれば、原則として償却資産税は課税されません。
この免税点については、2026年時点の制度と2027年以降の改正内容を区別して確認する必要があります。
即時償却しても償却資産税の対象になる
ここが今回の重要なポイントです。
少額減価償却資産の特例を利用して取得価額を全額損金算入したとしても、その資産が償却資産税の対象から外れるわけではありません。
法人税の計算上は取得年度に全額を費用化できても、固定資産税の計算上は償却資産として取り扱われます。
つまり、法人税では即時償却が認められても、償却資産税では別の取扱いになるということです。
「税務上、全額経費にしたのだから固定資産税もかからない」と考えるのは誤りです。
法人税と償却資産税は、それぞれ異なる仕組みで計算されます。
一括償却資産は償却資産税の対象外
これに対して、取得価額20万円未満の減価償却資産については、一括償却資産という制度があります。
一括償却資産を選択すると、取得価額を3年間で均等に損金算入します。
例えば、18万円の資産であれば、3年間で毎年6万円ずつ損金算入するイメージです。
取得年度に18万円すべてを損金算入できるわけではありません。
しかし、一括償却資産には大きな特徴があります。
それは、償却資産税の対象外になるということです。
少額減価償却資産の特例を利用して即時償却した資産とは、ここが異なります。
18万円の資産を購入した場合
具体的に考えてみましょう。
中小法人が18万円の事務機器を購入したとします。
この資産については、要件を満たせば少額減価償却資産の特例を利用できます。
一方、一括償却資産として処理する選択肢もあります。
少額減価償却資産の特例を選択すれば、18万円を取得年度に全額損金算入できます。
一括償却資産を選択すれば、3年間で毎年6万円ずつ損金算入します。
取得年度の法人税だけを比較すれば、即時償却のほうが有利になる場合があります。
しかし、少額減価償却資産の特例を利用した資産は償却資産税の対象になります。
一括償却資産であれば対象外です。
したがって、取得年度の法人税だけではなく、その後の償却資産税まで含めて比較する必要があります。
償却資産税は毎年の負担になる
償却資産税は、原則として毎年1月1日時点で所有している償却資産について課税されます。
そのため、対象資産を保有し続けている限り、評価額などに応じた税負担が発生する可能性があります。
例えば、パソコンを購入した年度に少額減価償却資産の特例を利用して全額損金算入したとしても、そのパソコンを翌年以降も事業で使用していれば、償却資産税の対象になり得ます。
法人税の計算上は帳簿価額がゼロになっていても、償却資産税の評価額までゼロになるわけではありません。
この違いを理解しておくことが重要です。
ただし、実際に償却資産税が発生するかどうかは、会社が保有する償却資産全体の課税標準額や免税点などによって決まります。
少額減価償却資産の特例を利用したからといって、必ず償却資産税の納税額が増えるわけではありません。
償却資産が多い会社ほど注意が必要
事務所にパソコンが数台あるだけの会社と、機械設備や店舗設備を多数保有する会社では、償却資産税の影響が異なります。
すでに償却資産税が課税されている会社では、新たに取得した資産が課税対象になることで、税負担が増える可能性があります。
一方、保有する償却資産の課税標準額が免税点を下回っている会社では、新たな資産を取得しても直ちに償却資産税が発生するとは限りません。
つまり、同じ18万円の設備を購入したとしても、会社の資産保有状況によって制度選択の意味が変わります。
自社の償却資産税の申告状況を確認せずに、即時償却だけを優先するのは慎重に考える必要があります。
法人税の節税効果は税率によっても変わる
即時償却による節税効果を考えるときには、会社の利益水準も重要です。
例えば、18万円の資産を即時償却した場合と、3年間で均等償却した場合を比較します。
即時償却では取得年度に18万円を損金算入できます。
一括償却資産では取得年度の損金算入額は6万円です。
取得年度の損金算入額には12万円の差があります。
仮に、この差額に対する法人税等の実効的な税率を30%とすると、取得年度の税負担には単純計算で3万6,000円の差が生じます。
ただし、これは取得年度の比較です。
一括償却資産では翌年度以降にも損金算入が続きます。
即時償却では、取得年度に全額を損金算入しているため、翌年度以降に同じ取得価額について追加の減価償却費を計上することはできません。
したがって、税率などの条件が同じであれば、基本的には税負担を減らす時期が異なるということになります。
即時償却は税金を前倒しで減らす効果がある
即時償却の特徴は、将来計上する費用を取得年度に前倒しできることです。
そのため、取得年度に利益が大きく出ている会社では、税負担を早い段階で抑えられる可能性があります。
一方、翌年度以降の減価償却費は少なくなります。
取得年度の税金を減らせたとしても、将来の税負担まで含めて考える必要があります。
もちろん、将来の利益水準や税率が変われば、最終的な税負担にも違いが生じる可能性があります。
しかし、即時償却は取得価額以上の費用を計上できる制度ではありません。
この点を理解しておくことが大切です。
年間300万円の枠も考慮する
少額減価償却資産の特例には、年間合計300万円という損金算入限度額があります。
そのため、20万円未満の資産についても、すべて即時償却することが合理的とは限りません。
例えば、年間を通じてパソコンや事務機器を多数購入する会社では、少額減価償却資産の特例の利用額が300万円に近づくことがあります。
その場合、20万円未満の資産について一括償却資産を選択することで、40万円未満の特例を利用する余地を他の資産に残せる場合があります。
特に30万円以上40万円未満の資産は、一括償却資産の対象にはなりません。
年間の設備投資計画を確認しながら、どの資産に特例を利用するのかを考えることが重要です。
税金だけでなく資金繰りも考える
設備投資を考えるときには、法人税と償却資産税だけでなく、資金繰りにも目を向ける必要があります。
即時償却によって取得年度の法人税負担を抑えられれば、その分だけ手元資金を残しやすくなります。
一方、設備の購入代金そのものは支払わなければなりません。
例えば、39万円のパソコンを購入して全額損金算入できたとしても、39万円の支出がなくなるわけではありません。
税金を減らすためだけに不要な設備を購入すれば、会社の現預金はかえって減少します。
設備投資は、事業に必要かどうかを最初に判断することが基本です。
そのうえで、どの制度を利用すれば税負担や資金繰りの面で合理的なのかを検討する必要があります。
結論
即時償却は、中小企業にとって有効な節税手段です。
取得年度に全額を損金算入できれば、その年度の法人税負担を抑える効果があります。
しかし、即時償却が必ず税金全体で有利になるとは限りません。
少額減価償却資産の特例を利用した資産は、償却資産税の対象になります。
一方、20万円未満の資産について一括償却資産を選択すれば、3年間で均等に損金算入することになりますが、償却資産税の対象外となります。
取得年度の法人税だけを見るのではなく、将来の法人税負担、償却資産税、年間300万円の限度額、そして会社の資金繰りまで含めて判断することが重要です。
特に、設備や備品を多数保有する中小企業では、少額資産の処理方法が毎年の税負担に影響する可能性があります。
「早く経費にできる制度が最も有利」と考えるのではなく、「税金全体でどのような違いが生じるのか」という視点を持つことが大切です。
減価償却は、単に費用を計上する時期を決めるだけの問題ではありません。
会社の利益、税負担、設備投資、資金繰りを総合的に考えるための重要な経営判断でもあるのです。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A