中小企業の設備投資で利用されることが多い少額減価償却資産の特例が、2026年度税制改正によって拡充されました。
これまで対象となる取得価額は30万円未満でしたが、2026年4月1日以降に事業の用に供するものについては40万円未満へ引き上げられています。
一見すると10万円の引上げにすぎません。
しかし、パソコンをはじめとする設備や備品の価格が上昇するなか、この10万円には大きな意味があります。
一方で、対象金額が40万円未満になったからといって、40万円未満の設備をいくらでも即時償却できるわけではありません。
年間300万円という上限は残されているためです。
今回は、少額減価償却資産の特例が40万円未満へ拡大されたことで、中小企業の設備投資と決算対策がどのように変わるのかを考えます。
少額減価償却資産の特例とは何か
通常、企業が長期間使用する設備や備品を購入した場合、その取得価額を購入した年度にすべて経費にすることはできません。
資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却していくのが原則です。
しかし、中小企業には一定の少額資産について、取得した年度に全額を損金算入できる特例があります。
これが少額減価償却資産の特例です。
対象となる中小法人が一定金額未満の減価償却資産を取得した場合、通常の減価償却をせず、取得価額を一度に損金算入できます。
設備を購入した年度の費用を大きくできるため、利益が出ている中小企業では決算対策としても利用されてきました。
30万円未満から40万円未満へ拡大された
今回の改正で最も重要なのが、対象となる取得価額の引上げです。
従来は30万円未満でした。
それが2026年度税制改正によって40万円未満へ引き上げられました。
対象となるのは、2026年4月1日以降に事業の用に供する資産です。
ここで注意したいのが「40万円以下」ではなく「40万円未満」という点です。
したがって、取得価額がちょうど40万円であれば、この金額基準には該当しません。
39万円台であれば対象になり得ますが、40万円になれば通常の減価償却など別の処理を検討することになります。
この境界は、設備や備品を購入するときに意識しておきたいところです。
背景にあるのが設備価格の上昇
なぜ30万円未満から40万円未満へ引き上げられたのでしょうか。
資料では、代表的な例としてパソコンが挙げられています。
以前であれば30万円未満で購入できたパソコンでも、近年の価格高騰によって30万円を超えるものが珍しくなくなりました。
従来の30万円未満という基準を維持したままでは、これまで特例を利用できていたクラスの設備まで対象外になってしまいます。
そのため、今回の40万円未満への拡大は、物価上昇に対応した改正という側面があります。
単純な節税制度の拡充というより、設備価格そのものが上昇している現実に制度を合わせたと考えると分かりやすいでしょう。
39万円のパソコンも即時償却の対象になり得る
今回の改正によって、実務上の選択肢は大きく広がります。
例えば、事業用として39万円のパソコンを購入したとします。
従来の30万円未満という基準では、少額減価償却資産の特例の対象にはできませんでした。
しかし、40万円未満へ引き上げられたことで、他の要件を満たせば全額をその年度の損金に算入できるようになります。
パソコンだけではありません。
事務機器、店舗設備、業務用機器などでも、30万円以上40万円未満の価格帯の資産はあります。
これまで通常の減価償却が必要だった資産の一部について、取得年度に全額を損金算入できる可能性が生まれたわけです。
年間300万円の上限は変わっていない
ここで非常に重要な注意点があります。
1件当たりの対象金額は30万円未満から40万円未満へ引き上げられましたが、年間の損金算入限度額は合計300万円のまま据え置かれています。
つまり、対象となる資産1件当たりの金額は大きくなりましたが、年間で利用できる総額が増えたわけではありません。
この違いは重要です。
例えば、従来は29万円程度の備品であれば、年間300万円という上限の範囲で10台程度を特例の対象にすることができました。
一方、改正後に39万円程度の備品を購入する場合、1台当たりの金額が大きくなるため、300万円の上限により早く到達します。
40万円未満へ拡大されたからといって、設備投資全体について節税できる金額がそのまま増えたわけではないのです。
高額な少額資産ほど300万円枠を早く使う
今回の改正後は、年間300万円という枠をどの設備に使うのかという判断が、これまで以上に重要になります。
例えば、39万円の資産を複数取得すれば、それだけで年間300万円の枠をかなり消費します。
年度内にパソコンだけでなく、複合機、店舗設備、業務用機器などを購入する予定がある会社では、購入する順番や時期まで考える必要が出てきます。
決算直前になってから対象資産を確認すると、すでに年間300万円の枠を使い切っているということも考えられます。
設備投資計画と少額減価償却資産の管理を一体で考える必要があります。
10万円未満や20万円未満の制度もなくなったわけではない
40万円未満の特例が拡大されたからといって、少額資産をすべてこの制度で処理する必要はありません。
取得価額が10万円未満の少額資産については、一定の場合に消耗品費などとして全額を損金算入する処理があります。
また、20万円未満の減価償却資産については、一括償却資産として3年間で均等に損金算入する方法があります。
そして一定の中小法人には、40万円未満の少額減価償却資産について特例を利用する選択肢があります。
金額によって複数の制度が重なっているため、「40万円未満なら全部この特例」と考える必要はありません。
どの制度を選ぶかによって、その年度の損金算入額だけでなく、償却資産税の扱いにも違いが生じます。
即時償却だけを見て判断してはいけない
少額減価償却資産の特例では、基本的に取得価額を全額損金算入できるため、単年度の法人税負担を抑えるという意味では有利になります。
しかし、税金全体で考える必要があります。
この特例を利用した資産は、償却資産税の対象になります。
一方、一括償却資産として3年間で均等償却する場合は、償却資産税の対象外となります。
そのため、法人税だけを考えれば少額減価償却資産の特例が有利でも、償却資産税まで含めると判断が変わる可能性があります。
節税では、「最も早く経費にできる制度が最も有利」とは限らないところが難しい点です。
税込価格か税抜価格かにも注意する
40万円未満かどうかを判定するときには、自社の経理方式も確認する必要があります。
税抜経理を採用している場合は、税抜価格で判定します。
税込経理を採用している場合は、税込価格で判定します。
同じ商品を同じ価格で購入しても、企業が採用している経理処理によって判定結果が異なる可能性があります。
特に40万円近辺の設備を購入するときには、店頭価格だけを見て「40万円未満だから特例が使える」と判断しないことが重要です。
自社が税込経理なのか税抜経理なのかを確認したうえで判定する必要があります。
期末に買っただけでは即時償却できない
もう1つ重要なのが、適用する年度です。
決算直前に40万円未満のパソコンを注文し、代金まで支払ったとしても、それだけでその年度の損金にできるとは限りません。
重要なのは、期末までに納品され、事業の用に供していることです。
つまり、実際に仕事で使える状態になっている必要があります。
反対に、期末までに納品されて事業の用に供していれば、代金の支払いが翌期になったとしても、経費計上できる場合があります。
「いつ支払ったか」より「いつ事業で使い始めたか」が重要になります。
決算直前の駆込み購入では特に注意が必要です。
40万円への引上げを設備投資の理由にしない
制度が拡充されると、「40万円未満なら経費になるから買っておこう」と考えたくなるかもしれません。
しかし、節税だけを目的に設備を購入するのは慎重に考える必要があります。
仮に39万円の設備を購入して全額損金にできたとしても、39万円の現金支出そのものがなくなるわけではありません。
税金が減る金額より、設備購入によって出ていくお金のほうが大きいのが通常です。
本来必要のない設備を節税目的だけで購入すれば、税金は減っても会社の現預金はさらに減ってしまいます。
必要な設備投資を行うことが先にあり、その設備についてどの税制を利用するのが合理的なのかを考える。
この順番を逆にしないことが大切です。
結論
2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例の対象となる取得価額は30万円未満から40万円未満へ拡大されました。
パソコンなどの設備価格が上昇するなか、中小企業にとって使いやすい制度になったといえます。
特に30万円以上40万円未満の設備について、取得年度に全額を損金算入できる可能性が生まれたことは大きな変化です。
しかし、年間の損金算入限度額は300万円のままです。
さらに、償却資産税との関係、税込経理と税抜経理による金額判定、事業の用に供した時期など、実務上確認すべき点があります。
40万円未満になったという数字だけを見るのでは不十分です。
設備投資の必要性、年間300万円の枠、他の少額資産制度、償却資産税、そして会社の資金繰りまで含めて判断する必要があります。
制度が拡充されたときほど、「使えるから使う」のではなく、「会社にとって本当に有利か」という視点で選択することが重要です。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A