経理人材を処分すると決算ができなくなる 内部統制改革の難しさ

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会計不正が発覚した企業では、不正に関与した役職員を財務報告の仕事から外すことが重要になります。

ところが、ここには難しい問題があります。

不正に関与した人が経理や財務の専門家だった場合、その人を外すことで決算を作る人材そのものが不足する可能性があるからです。

ニデックでは、今後配置換えなどが必要となる役職員の規模について「20人ほど」と説明しています。

対象には経理や財務の担当者が多く含まれているとみられます。

一方、同社はもともと経理部門の人材不足を内部管理体制の問題として認識していました。

不正関与者を外さなければ内部統制を改善できない。

しかし、外せば決算業務が回らなくなる可能性がある。

企業再生の難しさがここにあります。

決算は誰にでもできる仕事ではない

経理というと、数字を集計する仕事という印象があるかもしれません。

しかし、大企業の連結決算は非常に複雑です。

国内外の子会社から財務情報を集める。

会計基準を統一する。

グループ会社間取引を消去する。

外貨建て財務諸表を換算する。

税効果会計を処理する。

減損を判定する。

引当金を計算する。

開示資料を作成する。

監査法人からの質問に回答する。

ニデックのようなグローバル企業では、これらを短期間で同時に進める必要があります。

経験のある経理人材は簡単には代替できません。

不正関与者を残すこともできない

だからといって、決算業務に詳しいという理由だけで不正に関与した人材を残すことも問題です。

PwCジャパン監査法人は、不適切な会計処理に関与した役職員の一部が財務報告プロセスで責任ある立場を担当していたことなどを問題視しました。

監査法人から見れば、その人物から提出された資料や説明について信頼性を慎重に判断する必要があります。

内部統制を再構築するためには、不正に関与した人が重要な会計判断に影響を与えられない状態を作る必要があります。

つまり企業側には、専門知識を失う痛みを受け入れてでも人事を見直さなければならない場面があります。

企業には属人的な業務が残りやすい

経理人材を交代したときに問題が表面化する企業には、共通する特徴があります。

仕事が人に依存していることです。

この処理はAさんしか分からない。

この海外子会社はBさんが長年担当している。

減損計算はCさんが作った表計算ファイルで行っている。

監査法人との交渉はDさんに任せている。

こうした状態を属人化といいます。

通常時には効率的に見える場合があります。

しかし、その担当者が退職したり異動したりすれば、業務が止まる可能性があります。

会計不正が発覚して担当者を外さなければならなくなったときには、属人化のリスクが一気に表面化します。

内部統制は人を信用しない仕組みでもある

内部統制という言葉には難しい印象がありますが、基本的な考え方の1つは、特定の人だけに権限を集中させないことです。

取引を実行する人。

帳簿に記録する人。

承認する人。

入出金を管理する人。

これらを適切に分けます。

1人がすべてを担当できれば、不正を行って隠すことが容易になるからです。

さらに上司による承認、経理部門による確認、内部監査による検証など、複数のチェックを重ねます。

優秀な人だから信用するという考え方だけではなく、誰が担当しても不正や誤りを発見できる仕組みを作ることが内部統制では重要です。

人材不足は内部統制を弱くする

ところが人材が不足すると、この役割分担が難しくなります。

本来2人で分担すべき仕事を1人が担当する。

チェック担当者が実務も兼任する。

忙しくて承認が形式的になる。

月次決算が遅れ、異常値の分析まで手が回らない。

内部監査の人員を経理業務に回す。

こうした状態になると、内部統制が弱くなります。

つまり経理人材不足は単なる業務量の問題ではありません。

不正や誤りを防ぐ仕組みそのものに影響します。

不正発覚後は仕事がむしろ増える

さらに厄介なのは、会計不正が発覚した企業ほど経理部門の仕事が増えることです。

過年度決算を調べる。

第三者委員会に資料を提出する。

監査法人からの追加質問に対応する。

内部統制を見直す。

経営陣に報告する。

規制当局や証券取引所への提出資料を作成する。

通常の月次決算や四半期決算も続けなければなりません。

ただでさえ人材が不足しているところに、通常業務とは別の大量の作業が加わります。

そこからさらに不正関与者を外せば、残された経理担当者への負担は一段と大きくなります。

巨額減損には高度な経理人材が必要になる

ニデックでは2026年3月期に非金融資産について6,321億円の減損損失を計上しました。

減損会計は単純な仕訳ではありません。

将来の事業計画。

キャッシュフロー予測。

市場環境。

割引率。

資産の回収可能性。

こうした情報を事業部門から集め、会計基準に従って判断する必要があります。

さらに、その判断について監査法人に説明できなければなりません。

経理部門には単なる集計能力ではなく、事業を理解して会計判断を行う高度な専門性が求められます。

人材不足の影響が特に大きくなる領域です。

外部人材を入れればすぐ解決するわけではない

不足した経理人材を外部から採用すればよいと思うかもしれません。

確かに外部人材の登用は有力な選択肢です。

しかし、新しく入った人が翌日から決算を全面的に担当できるわけではありません。

企業独自の会計システム。

海外子会社の状況。

過去のM&A。

社内の承認手続き。

各事業の収益構造。

過去の監査論点。

こうした企業固有の情報を理解するには時間が必要です。

外部の専門家を活用する場合でも、最終的には会社内部に財務報告を管理できる能力を持つ必要があります。

引き継ぎにも矛盾が生まれる

さらに難しい問題があります。

不正関与者が業務について最も詳しい場合です。

新しい担当者に仕事を引き継ぐためには、その人物から説明を受けなければならない場合があります。

しかし、財務報告への影響を排除するためには、その人物の関与を制限する必要があります。

知識は必要だが、判断には関与させられない。

この矛盾を解決するためには、業務知識の移管と権限の分離を慎重に進める必要があります。

単純に人を入れ替えれば終わる問題ではありません。

改革を急ぎすぎるリスクもある

上場維持などの期限が迫れば、企業には改革を急ぐ圧力がかかります。

しかし、組織図だけを急いで変更しても内部統制が改善したとはいえません。

担当者を変更した。

新しい規程を作った。

承認者を増やした。

これだけでは不十分です。

新しい仕組みが実際に機能しているかを確認する必要があります。

担当者が規程を理解しているか。

承認者が本当に内容を確認しているか。

問題が発生したときに経営陣へ報告されるか。

一定期間運用して初めて見えてくる問題もあります。

内部統制改革にはスピードと実効性の両方が求められます。

本当の改革は仕事を標準化すること

長期的には、特定の経理担当者に依存しない組織を作ることが重要です。

業務手順を文書化する。

会計判断の根拠を残す。

担当者と承認者を分ける。

複数の人が同じ業務を担当できるようにする。

人事異動を行っても決算が止まらないようにする。

システムによって承認記録を残す。

内部監査が定期的に確認する。

こうした仕組みがあれば、担当者が交代しても財務報告の品質を維持しやすくなります。

経理人材の強化とは、人数を増やすことだけではありません。

組織として会計業務を遂行できる能力を高めることなのです。

結論

会計不正が発覚した企業では、不正に関与した人材を財務報告から外すことが必要です。

しかし、その人物が重要な経理業務を担っていれば、今度は決算そのものが回らなくなる可能性があります。

ニデックが直面しているのは、まさにこの難題です。

不正関与者を残せば信頼を回復できない。

外せば経理人材が不足する。

しかも通常の決算に加えて、巨額減損の検証や監査法人への対応、内部統制改革まで進めなければなりません。

だからこそ内部統制改革は、人事処分だけでは完成しません。

誰か1人の経験や能力に依存せず、複数の人がチェックし、判断の根拠が記録され、担当者が交代しても決算を続けられる組織を作る必要があります。

会計不正からの再建で本当に問われるのは、人を替えることだけではありません。

人が替わっても正しい決算を作れる会社に変われるかどうかなのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 ニデック、人事の刷新必須 上場維持への条件

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 PwC「信頼できぬ」 迫る有報提出期限、水面下で攻防

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 過去との決別がニデック存続の条件だ

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