なぜ個人事業主の国保は高く感じるのか

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個人事業主になって初めて国民健康保険の保険料を見たとき、その金額の大きさに驚く人は少なくありません。

会社員だったときも健康保険料を払っていたはずなのに、独立すると負担が急に重くなったように感じます。

その背景には、単純な保険料率の違いだけではなく、会社員の健康保険と国民健康保険では保険料を負担する仕組みそのものが異なることがあります。

いわゆる国保逃れ問題を考えるうえでも、この違いを理解しておくことが重要です。

会社員には会社負担がある

会社員が加入する健康保険では、保険料は原則として会社と本人が折半します。

たとえば健康保険料が年間80万円だった場合、単純化すれば本人が40万円、会社が40万円を負担するイメージです。

給与明細に表示されるのは基本的に本人負担分です。

そのため会社員本人から見ると、健康保険に必要な費用の全額を負担している感覚はありません。

これに対して個人事業主が加入する国保には、会社が半分を負担するという仕組みがありません。

保険料を自分で負担します。

会社員から独立した人が国保を高いと感じやすい最大の理由の1つです。

国保は世帯単位で負担する

もう1つ大きな違いが家族の扱いです。

会社員の健康保険には被扶養者制度があります。

一定の要件を満たす配偶者や子どもなどを扶養に入れても、原則として被扶養者本人の健康保険料が別途発生するわけではありません。

ところが国保には会社員の健康保険と同じ意味での扶養という仕組みがありません。

夫婦と子どもが国保に加入していれば、それぞれが被保険者になります。

世帯人数が多くなるほど保険料負担が増える場合があります。

個人事業主本人だけではなく、家族全体で考える必要があります。

所得が増えれば国保負担も増える

国保の保険料は一般に、所得に応じて計算される部分と加入者数などに応じて計算される部分を組み合わせて決まります。

所得が増えれば所得に応じた負担も増えていきます。

会社員の場合も標準報酬月額などによって健康保険料が変わりますが、会社が原則として半分を負担します。

個人事業主の場合には、その会社負担がありません。

事業が順調になって所得が増えてくると、所得税や住民税だけではなく国保の負担も大きくなります。

売上が増えた金額だけを見て生活水準を上げてしまうと、後から税金と社会保険料の負担に驚くことがあります。

国保は前年所得の影響を受ける

個人事業主にとって注意したいのが、国保の保険料が前年の所得を基礎として計算されることです。

今年の事業が好調だから今年の保険料が高くなるという単純な関係ではありません。

前年に所得が大きければ、今年の収入が減少していても高い保険料負担が発生することがあります。

会社を退職して独立した場合にも注意が必要です。

会社員時代の前年所得を基礎として国保の保険料が計算されるため、独立直後で事業収入がまだ少ないにもかかわらず、大きな負担になる場合があります。

独立時には当面の生活費だけでなく、翌年度の住民税や国保まで考えて資金を確保しておくことが重要です。

国保には保険料の上限がある

もっとも、所得が増えれば国保の保険料が際限なく増えるわけではありません。

国保には年間保険料の賦課限度額があります。

一定以上の所得になると保険料は上限に達します。

このため高所得の個人事業主では、所得がさらに増えても国保負担が増えなくなる領域があります。

一方で、上限付近まで負担する世帯から見ると年間の保険料は相当な金額になります。

税金とは別に負担するため、国保が高いという印象につながりやすくなります。

国保は自治体によって金額が違う

国保の特徴として、住んでいる地域によって保険料が異なることも挙げられます。

国保は都道府県と市町村が共同で運営していますが、実際の保険料率などは自治体によって違います。

同じ所得、同じ家族構成であっても、住んでいる地域が違えば負担額が同じになるとは限りません。

会社員時代には勤務先が加入する健康保険の保険料率を意識することが少なかった人でも、個人事業主になると居住地による違いを直接受けることになります。

国保を考えるときには全国一律の制度だと思わないことが大切です。

国保だけでなく国民年金も負担する

独立後の社会保険負担を考える場合には、国保だけを見るのも適切ではありません。

会社員は健康保険とともに厚生年金に加入し、厚生年金保険料も会社と本人が原則折半します。

個人事業主は原則として国民年金の第1号被保険者となり、国民年金保険料を自分で納めます。

つまり会社員から個人事業主になった場合には、医療保険と年金の両方で仕組みが変わります。

独立後の手取りを考えるのであれば、所得税、住民税、国保、国民年金を一体として把握する必要があります。

負担差が国保逃れビジネスの背景になる

ここで前回取り上げた国保逃れ問題につながります。

国保と社会保険の間に負担の違いがある以上、少しでも保険料を減らしたいと考える人が出てくること自体は不思議ではありません。

特に所得の高い個人事業主や家族の多い世帯では、負担差が大きくなる場合があります。

そこに目を付けたのが社会保険料削減をうたうビジネスです。

しかし、保険料が安くなるという理由だけで、勤務実態のない会社の従業員や役員となり社会保険に加入してよいわけではありません。

保険料負担が重いという問題と、加入資格を満たしているかという問題は分けて考える必要があります。

本当に考えるべきなのは制度間の公平性

国保逃れを防ぐために、社会保険への不適正な加入を厳しく確認することは必要です。

しかし、それだけでは問題の根本的な解決にはなりません。

なぜ保険料削減ビジネスに1万人を超える利用者が集まったのかを考える必要があります。

会社員、個人事業主、フリーランスなど働き方によって加入する制度が異なり、保険料負担の仕組みも違います。

さらに社会保険の適用範囲は拡大しています。

働き方が多様化するなかで、現在の制度区分がどこまで公平なのかという問題は今後さらに重要になるでしょう。

結論

個人事業主が国保を高いと感じる背景には、単純な保険料率だけでは説明できない制度上の違いがあります。

会社員の健康保険には会社負担がありますが、国保にはありません。

会社員の健康保険には被扶養者制度がありますが、国保では家族もそれぞれ被保険者になります。

さらに国保は前年所得の影響を受け、自治体によって保険料も異なります。

こうした違いが重なることで、会社員から個人事業主になった人ほど負担の大きさを実感しやすくなります。

だからといって実態のない社会保険加入が認められるわけではありません。

重要なのは国保逃れという抜け道をふさぐだけではなく、なぜ抜け道を利用したくなるほど制度間の負担差が生じるのかを考えることです。

国保逃れ問題は、公的医療保険における公平な負担とは何かを改めて問いかけています。

参考

日本経済新聞 2026年10月1日朝刊 「国保逃れ」の抜け道をふさげ

厚生労働省 2026年9月14日 いわゆる社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われる事業所に対する事業所調査の状況について

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