IFRS時代の決算書の読み方 利益より貸借対照表を見る重要性

会計
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企業の決算が発表されると、多くの人が最初に利益を確認します。

売上高はいくらだったのか。

営業利益は増えたのか。

最終利益は過去最高だったのか。

もちろん、利益は企業を分析するうえで重要な数字です。

しかし、IFRS企業を見る場合には、利益だけを追いかけていると企業の実態を十分に理解できないことがあります。

その理由の1つが、日本基準とIFRSでは資産や負債の認識、評価、のれん、リース、減損などに違いがあることです。

IFRS移行時には、それまで見えていなかった負債が表面化したり、資産の価値が見直されたりすることがあります。

だからこそ重要になるのが貸借対照表です。

企業がどのような資産を持ち、その資産をどのような資金で支えているのか。

そこを見ることで、損益計算書だけでは分からない企業の姿が見えてきます。

利益は1年間の成績を表す

損益計算書は、一定期間の企業活動を表します。

売上高。

売上原価。

販売費及び一般管理費。

営業利益。

税引前利益。

当期利益。

これらを見ることで、その年度に企業がどれだけ利益を生み出したのかが分かります。

しかし、基本的には一定期間の経営成績です。

一方、貸借対照表は決算日時点で企業が持っている資産と負債、資本の状態を表しています。

過去の経営判断が積み重なった結果ともいえます。

貸借対照表には経営の歴史が残る

企業が工場を建設すれば、有形固定資産が増えます。

企業を買収すれば、のれんが増えることがあります。

借入金で事業を拡大すれば、有利子負債が増えます。

店舗を長期で借りれば、IFRSでは使用権資産やリース負債が計上される場合があります。

利益剰余金には、過去の利益の蓄積が反映されます。

つまり貸借対照表を見ると、企業がこれまでどのような経営判断をしてきたのかが見えてきます。

IFRS移行では貸借対照表が大きく動くことがある

日本基準からIFRSへ移行すると、貸借対照表の数字が大きく変化することがあります。

元の記事では、出光興産が2027年3月期第1四半期からIFRSを適用した事例が紹介されています。

移行日の2025年4月1日時点で、資産は約2,300億円減少しました。

一方、負債は約2,400億円増加しました。

その結果、純資産は約4,700億円減少しました。

非常に大きな変化です。

しかし、これだけを見て企業の経営状態が突然4,700億円悪化したと判断することはできません。

会計基準の変更によって、資産や負債の認識や評価が変わった影響が含まれているからです。

資産の中身を見る

貸借対照表を見るときには、総資産だけではなく中身を見ることが重要です。

現金。

売掛金。

棚卸資産。

土地。

建物。

設備。

使用権資産。

のれん。

無形資産。

同じ1兆円の総資産でも、その構成によって意味は大きく異なります。

現金が多い企業と、のれんが多い企業では財務的な特徴が違います。

工場設備が多い企業と、リースによる店舗網を持つ企業でも違います。

総額だけでなく、何が資産として計上されているのかを見る必要があります。

のれんが大きい企業を見る

IFRS企業で特に注意したい資産の1つがのれんです。

IFRSでは、のれんを毎期規則的には償却しません。

そのためM&Aを繰り返す企業では、のれんが貸借対照表に積み上がることがあります。

例えば純資産1兆円に対して、のれんが1,000億円の企業と8,000億円の企業ではリスクの性質が異なります。

買収した事業が期待通りの利益を生み出せなくなれば、のれんの減損が必要になる可能性があります。

多額の減損が発生すれば、利益だけでなく純資産も減少します。

M&A企業を見るときには、利益と同時にのれん残高を見ることが重要です。

リース負債から固定的な支払いを見る

IFRSでは、多くのリースについて使用権資産とリース負債が貸借対照表に計上されます。

小売業や外食企業などでは、多数の店舗を借りていることがあります。

物流企業では倉庫や車両を借りていることがあります。

リース負債を見ることで、企業が将来負担する契約上の支払いの一部が見えやすくなります。

借入金だけを見て負債が少ないと判断するのではなく、リース負債も含めて企業の固定的な資金負担を見る必要があります。

有利子負債とのれんを組み合わせて見る

M&Aを積極的に行う企業では、借入金とのれんが同時に増えることがあります。

借入金によって企業を買収する。

買収によってのれんが発生する。

この場合、貸借対照表の両側が大きくなります。

買収した事業が順調であれば問題にならないかもしれません。

しかし、買収先の業績が悪化すると、のれん減損と借入金返済という2つの問題が同時に表面化する可能性があります。

そのため、のれんだけでなく、有利子負債との組み合わせを見ることが重要です。

純資産の変化を見る

貸借対照表では純資産も重要です。

IFRS移行によって純資産が大きく変化する場合があります。

減損。

みなし原価。

退職給付。

リース。

さまざまな会計処理の変更が影響する可能性があります。

純資産が減れば、自己資本比率やROEにも影響します。

ただし、純資産の減少をそのまま企業価値の低下と考えることはできません。

何が原因で純資産が変化したのかを確認する必要があります。

ROEだけを見ると誤解することがある

ROEは当期利益を自己資本で割って計算する指標です。

自己資本が小さくなれば、利益が同じでもROEは上昇します。

IFRS移行によって純資産が減少すれば、それだけでROEが高くなる可能性があります。

例えば利益500億円、自己資本1兆円なら、単純計算のROEは5%です。

自己資本が5,000億円に減り、利益が500億円のままであれば、ROEは10%になります。

利益を増やしていなくてもROEは2倍です。

ROEを見る場合には、分子の利益だけでなく分母の自己資本がなぜ変化したのかを見る必要があります。

利益とキャッシュフローを結びつける

貸借対照表だけを見ればよいわけでもありません。

損益計算書。

貸借対照表。

キャッシュフロー計算書。

この3つを組み合わせて見ることが重要です。

利益は増えている。

しかし営業キャッシュフローは増えていない。

売掛金や棚卸資産が急増している。

こうした場合には、利益の質を確認する必要があります。

反対に減損によって大きな損失が発生していても、それ自体はその期の現金流出を伴わない場合があります。

利益とキャッシュフローの違いを見ることが重要です。

資産が利益を生み出しているかを見る

企業が多額の資産を持っていること自体が良いわけではありません。

重要なのは、その資産が利益やキャッシュフローを生み出しているかです。

例えば総資産が毎年増えているのに、営業利益がほとんど増えていない企業があったとします。

設備投資やM&Aに多額の資金を使っているにもかかわらず、十分な収益につながっていない可能性があります。

このような場合には、ROICなどの資本効率指標も合わせて確認する必要があります。

貸借対照表の変化を数年間で見る

貸借対照表は1年分だけを見るより、数年間並べて見ると企業の戦略が見えてきます。

現金が増えている。

借入金が増えている。

のれんが増えている。

リース負債が増えている。

固定資産が減っている。

純資産が増えている。

こうした変化には理由があります。

例えば、のれんと借入金が毎年増えていれば、M&Aによる成長戦略を進めている可能性があります。

固定資産が減少し現金が増えていれば、資産売却を進めている可能性があります。

貸借対照表の変化は経営戦略の結果でもあるのです。

注記と組み合わせる

貸借対照表に大きな変化を見つけたら、次に確認したいのが注記です。

なぜのれんが増えたのか。

なぜリース負債が増えたのか。

なぜ固定資産が減ったのか。

どの事業で減損が発生したのか。

数字だけでは理由が分からない場合でも、注記を読むことで背景を理解できることがあります。

財務諸表本体で変化を見つけ、注記で理由を確認する。

この読み方が重要です。

IFRS移行時は調整表を見る

日本基準からIFRSへ移行する企業では、移行時の調整情報が非常に重要です。

日本基準の純資産がIFRSではいくらになったのか。

固定資産はどれだけ変わったのか。

リース負債はいくら増えたのか。

利益剰余金はどう変化したのか。

こうした調整を見ることで、その企業にとってIFRS移行の影響が大きい項目を把握できます。

IFRS移行は、その企業の貸借対照表を改めて点検する機会でもあります。

利益より貸借対照表を見るという意味

もちろん、利益を見なくてよいという意味ではありません。

重要なのは利益だけで企業を判断しないことです。

利益は今年の成果を示します。

貸借対照表は、その利益を生み出すためにどれだけの資産を使い、どれだけの負債を抱えているのかを示します。

利益500億円を生み出すために5,000億円の資産を使っている企業と、2兆円の資産を使っている企業では資本効率が違います。

利益を見るときには、その利益を生み出している貸借対照表まで見る必要があります。

結論

IFRS時代の決算書では、利益だけを見るのではなく貸借対照表を見る重要性が一段と高まります。

のれん。

使用権資産。

リース負債。

固定資産。

有利子負債。

純資産。

こうした項目には企業の経営戦略や過去の投資判断が表れています。

そして重要なのは、それぞれを単独で見ないことです。

のれんとM&A。

借入金と資金調達。

リース負債と固定費。

純資産とROE。

固定資産とROIC。

それぞれを結びつけて見ることで企業の姿が見えてきます。

さらに損益計算書、キャッシュフロー計算書、注記を組み合わせれば、企業の収益力と財務リスクをより立体的に理解できます。

IFRSによって決算書の数字が変わったとき、本当に知りたいのは数字が増えたか減ったかだけではありません。

なぜ変わったのか。

その変化は会計基準によるものなのか。

事業そのものの変化なのか。

将来の利益やキャッシュフローにどのような影響を与えるのか。

そこまで考えることが重要です。

決算書を読むとは、利益の大小を見ることだけではありません。

企業がどのような資産に資金を投じ、どのような負担を抱え、その資産からどれだけの利益とキャッシュフローを生み出しているのかを読み解くことです。

IFRS時代には、損益計算書の利益から一歩踏み込み、貸借対照表から企業の経営そのものを見る視点が、これまで以上に重要になるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 IFRS移行時の注目点

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