法定後見を一度始めるとやめられない問題はどう変わるのか

FP
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法定後見制度について家族が利用をためらう理由の一つに、一度始めると簡単にはやめられないという問題があります。

例えば認知症の母親が相続人となり、遺産分割協議をするために後見人が必要になったとします。

家族としては遺産分割が終わるまで支援してもらえれば十分だと考えるかもしれません。

ところが現行制度では、遺産分割が終わったという理由だけで法定後見を終了することは原則としてできません。

本人が死亡したり判断能力が回復したりするまで制度が続くことがあります。

この仕組みが2026年6月に成立した改正法によって大きく変わります。

法定後見制度は、必要になったら利用し、その必要がなくなれば終了できる制度へ転換していきます。

現行制度では利用目的が終わっても続く

現行の法定後見制度には後見、保佐、補助の3種類があります。

本人の判断能力に応じて、支援者に一定の権限を与える仕組みです。

問題は制度を利用し始めた後です。

例えば遺産分割のために後見制度を利用したとします。

遺産分割そのものは数カ月で終了するかもしれません。

しかし「遺産分割が終わったので後見制度も終了します」という使い方は原則としてできません。

本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り、後見は続くことになります。

家族が想定している利用期間と制度上の利用期間が一致しないことがあるのです。

必要なのは一部の支援だけという人もいる

判断能力は、あるかないかの2つに単純に分けられるものではありません。

日常の買い物は自分でできる。

毎月の生活費も管理できる。

しかし複雑な遺産分割について判断することは難しい。

不動産売却のような高額な取引になると十分に理解できない。

このような人もいます。

本人ができることとできないことは、人によって異なります。

それにもかかわらず広い範囲の財産管理を長期間他人に任せることになれば、本人の自己決定を必要以上に制限する可能性があります。

制度を利用しない理由にもなってきた

必要な場面だけ利用できないことは、法定後見制度の利用をためらわせる一因になります。

家族からすれば、遺産分割や不動産売却という特定の問題を解決したいだけなのに、その後も制度が続く可能性があります。

専門職が後見人になれば報酬が継続して発生することもあります。

また本人の財産管理に第三者が長期間関与することになります。

それなら後見制度を利用したくないと考える家族が出てきても不思議ではありません。

しかし制度を利用しなければ、本人の権利を守りながら必要な契約を進めることができない場合があります。

制度が本人を守るために必要である一方、その利用期間の長さが利用の障壁になるという問題がありました。

改正後は必要性がなくなれば終了できる

2026年6月に成立した改正法では、この考え方が大きく変わります。

改正後は家庭裁判所が支援の必要がなくなったと判断すれば、法定後見制度の利用を終了できるようになります。

例えば夫が亡くなり、認知症の妻が相続人になったケースを考えてみます。

妻は日常生活については自分で判断できます。

しかし遺産分割は複雑で、十分に理解することが難しい状態です。

そこで遺産分割について必要な支援を受けます。

遺産分割が終了し、それ以外に支援する必要がないと家庭裁判所が判断すれば、制度を終了できるようになります。

必要なときだけ利用する制度への転換です。

後見、保佐、補助も補助へ一本化される

終了の仕組みだけが変わるわけではありません。

現行制度では本人の判断能力に応じて後見、保佐、補助という3つの類型があります。

改正後はこれを補助に一本化します。

そして本人が必要とする支援について、個別に権限を設定する仕組みに変わります。

例えば遺産分割について代理権が必要なのか。

不動産売却について支援が必要なのか。

預金管理まで任せる必要があるのか。

本人の状態と必要性に応じて考えることになります。

認知症だから広い権限を一律に与えるのではなく、本人ができない部分を補うという発想が強くなります。

本人ができることは本人に残す

新しい制度を理解するうえで重要なのが、本人ができることまで奪わないという考え方です。

例えばスーパーで買い物をすることができる人なら、その判断は本人に任せる。

日常的な預金管理ができる人なら、必要以上に第三者へ管理を移さない。

一方で高額な不動産売却について判断することが難しければ、その部分だけ支援する。

本人の能力を一括して評価するのではなく、法律行為ごとに必要な支援を考える方向です。

これは本人の自己決定を尊重するうえで重要な変化です。

終了できることは費用面でも意味がある

制度を必要な期間だけ利用できるようになることは、費用面でも意味があります。

専門職が後見人などになれば報酬が発生することがあります。

仮に月額2万円なら年間24万円です。

10年間続けば単純計算で240万円になります。

特定の法律行為についてだけ支援が必要なのに、その後も長期間報酬が発生すれば本人の財産への影響は大きくなります。

必要がなくなった段階で制度を終了できれば、不必要な長期利用を避けられる可能性があります。

後見人などの交代もしやすくなる

2026年の改正では、支援者の交代についても見直されます。

現行制度では後見人などを解任できる場面は限られています。

改正法では、解任理由に本人の利益のために特に必要があるときが加わります。

例えば本人との面談が十分に行われず、本人の希望を踏まえた支援ができていない場合などには、交代が検討される可能性があります。

制度を始めたら同じ支援者が最後まで担当するという発想から、本人の状況に合わせて支援体制そのものを見直す方向へ変わります。

認知症が進めば再び支援が必要になることもある

必要がなくなれば終了できるようになると聞くと、一度終了すればそれで終わりだと思うかもしれません。

しかし認知症は時間の経過とともに状態が変化することがあります。

遺産分割のときだけ支援を受け、その後制度を終了したとします。

数年後に認知症が進み、預金管理や介護施設への入居契約などについて新たな支援が必要になる可能性があります。

その場合には、改めて必要な支援を検討することになります。

重要なのは、一度決めた支援内容を固定することではありません。

本人の状態の変化に合わせて支援の内容も変えるという考え方です。

改正法の施行まで待てばよいわけではない

改正法は2028年12月までに施行される予定です。

それなら制度が変わるまで何もしない方がよいと思うかもしれません。

しかし認知症がいつ進むかは分かりません。

その間に相続が発生するかもしれません。

自宅の売却が必要になるかもしれません。

介護施設への入居が必要になるかもしれません。

現在すでに支援が必要なら、改正を待つことが本人の利益になるとは限りません。

また本人に十分な判断能力があるなら、任意後見や家族信託、金融機関の代理人サービスなどを検討できる可能性があります。

制度改正を待つことと、準備を先送りすることは別の問題です。

法定後見の考え方そのものが変わる

今回の改正は、単に制度を終了しやすくするだけではありません。

法定後見制度についての考え方そのものを変える意味があります。

これまでは本人の判断能力が低下したら、一定の範囲で継続的に財産管理などを任せるという発想が中心でした。

これからは、本人が何に困っているのかを確認します。

その部分について必要な権限を設定します。

必要がなくなれば終了します。

状態が変われば支援内容も見直します。

制度に本人を合わせるのではなく、本人の状態に制度を合わせる方向への転換といえます。

結論

現行の法定後見制度では、一度利用を始めると、特定の目的が終わったという理由だけで簡単に終了することはできません。

遺産分割のために利用したとしても、その後も制度が長期間続く可能性があります。

2026年6月に成立した改正法では、この仕組みが大きく変わります。

本人に必要な支援について個別に権限を設定し、家庭裁判所が支援の必要がなくなったと判断すれば制度を終了できるようになります。

必要な支援を必要な範囲で、必要な期間だけ利用する。

これが新しい法定後見制度の基本的な方向です。

人生100年時代では、認知症になった後の人生も長くなる可能性があります。

判断能力が低下したという理由だけで、その後の財産管理や生活上の判断をすべて長期間他人に任せるのではなく、自分でできることは自分で決める。

そして必要なところだけ支援を受ける。

今回の制度改正は、成年後見制度を本人の人生に合わせて使う仕組みへ変えていく大きな転換点になるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 マネー相談 黄金堂パーラー 認知症と財産管理 上 変わる法定後見 必要なとき利用 解任も可能

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 改正法待たず早めに準備を

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