副業や兼業など、複数の仕事を持つ働き方が広がっています。
例えば、平日は会社員として働きながら、別の会社でも仕事をしている人が事故に遭った場合、労災保険ではどのように扱われるのでしょうか。
今回参考にしている資料では、副業や兼業をしている人の労災保険について、具体的な認定方法や給付額の計算方法までは説明されていません。
一方、改正の背景として明確に示されているのが、就業構造の変化や働き方の多様化です。
今回は資料で確認できる範囲を中心に、複数の仕事を持つ人と労災保険の関係を考えます。
働き方の多様化が改正の背景にある
今回の資料では、就業構造の変化や働き方の多様化などを踏まえ、労働災害に対する幅広いセーフティネットを整備するために労災保険法等を改正するとされています。
この働き方の多様化という視点は重要です。
働く人すべてが、1つの会社だけで働くとは限らない時代になっています。
ただし、今回の資料には、副業や兼業をしている労働者について具体的にどのような労災保険給付を行うのかという説明はありません。
したがって、副業中の事故に関する具体的な給付内容については、この資料だけから判断することはできません。
どの仕事で事故が起きたのかが問題になる
複数の仕事を持つ人が事故に遭った場合には、どの仕事をしているときに事故が起きたのかという問題があります。
これは、労災保険が仕事に伴う災害を対象とする制度だからです。
今回の資料では、こうした複数就業者についての具体的な認定方法までは説明されていません。
しかし、働き方が多様化するほど、1人の労働者と1つの勤務先だけを前提に制度を考えることが難しくなることは理解できます。
労災保険にも、変化する働き方に対応したセーフティネットが求められているわけです。
収入が複数ある場合の給付額も重要になる
複数の会社で働いている人にとっては、事故が発生した場所だけでなく、休業した場合の所得保障も重要な問題になります。
例えば、2つの勤務先から収入を得ている人が労働災害によって働けなくなれば、生活への影響を考える際には複数の収入が関係します。
ただし、今回の資料には、複数の勤務先から得ている賃金を労災保険給付の計算でどのように扱うのかについて記載されていません。
具体的な給付額を考える場合には、今回の資料とは別に複数就業者に関する制度を確認する必要があります。
長時間労働を考える場合も複雑になる
複数の会社で働けば、それぞれの勤務先での労働時間だけを見るのでは十分でない場合があります。
1つの会社ではそれほど長時間働いていなくても、複数の仕事を合わせれば働く時間が長くなる可能性があるからです。
一方、今回の資料には、複数の勤務先における労働時間を労災認定でどのように扱うのかという具体的な説明はありません。
そのため、この資料を根拠として認定基準を示すことはできません。
資料から確認できるのは、こうした多様な働き方が広がるなかで、労働災害に対する幅広いセーフティネットを整備するという改正の方向性です。
一人親方等への対応も働き方の多様化の一つ
今回の改正で具体的に取り上げられているのが、一人親方等の特別加入です。
一人親方等の特別加入に係る手続などを行う団体について、労災保険に係る業務や業務災害の防止に関する活動を適切に実施することなどの要件を法律に規定します。
これは副業や兼業そのものについての改正ではありません。
しかし、従来型の雇用だけでは捉えきれない働き方に対して、労災保険のセーフティネットをどのように機能させるかという点では共通する問題があります。
農林水産業の適用範囲も見直される
今回の資料では、労災保険の適用事業についても見直しが行われます。
現在、任意適用とされている農林水産業の小規模個人経営事業の一部について、暫定措置を廃止し、強制適用の対象とします。
これも副業中の事故を直接扱った改正ではありません。
しかし、誰を労災保険によって保護するのかという制度の対象範囲を広げる改正です。
働き方や事業形態が変化するなかで、労災保険の対象をどこまで広げるのかという問題が重要になっていることが分かります。
1人1社を前提にしない視点が必要になる
これからの働き方を考えると、会社員、副業、兼業、一人親方などを完全に別々の世界として考えることは難しくなっていくでしょう。
1人の人が時期や曜日によって異なる形で働くことも考えられます。
今回の資料は、複数就業者に関する具体的な制度を説明したものではありません。
それでも、改正の出発点として就業構造の変化と働き方の多様化を掲げていることには大きな意味があります。
労災保険も、従来の典型的な雇用だけではなく、多様な働き方に対応できるセーフティネットであることが求められているのです。
結論
副業中に事故に遭った場合の具体的な労災認定方法や給付額の計算方法については、今回参考にしている資料には記載されていません。
そのため、この資料だけから副業や兼業に関する具体的な取扱いを説明することはできません。
一方、今回の改正の背景には、就業構造の変化や働き方の多様化があります。
一人親方等の特別加入団体について要件を法律に規定し、小規模な農林水産業の一部についても労災保険の強制適用対象とするなど、労働災害に対するセーフティネットを広げる方向が示されています。
1人が1つの会社だけで働くことを当然としない時代になれば、労災保険にも多様な働き方を前提とした仕組みが一段と重要になります。
今回の改正は、働き方が変われば、それを支える労災保険のあり方も変えていく必要があることを示しているといえるでしょう。
参考
企業実務 2026年9月号 働き方の多様化に対応した労災保険法等の改正