精神疾患は労災になるのか 長時間労働やハラスメントと労災認定の関係編

経営

仕事による強いストレスなどをきっかけとして精神疾患を発症した場合、労災保険の対象になることがあります。

今回参考にしている資料でも、精神疾患が労災保険制度の見直しに関係する疾病として取り上げられています。

ただし、資料が説明しているのは精神疾患の具体的な労災認定基準ではありません。

今回の改正で示されているのは、疾病の性質上、災害補償の対象になるものかどうかなどを容易に判断できない一定の疾病について、請求権の消滅時効期間を延長するという内容です。

精神疾患も今回の改正対象として想定されている

今回の資料では、一定の疾病について療養補償給付等の請求権の消滅時効期間を2年から5年へ延長するとされています。

その対象として政令で指定することが予定されている疾病の一つが精神疾患です。

ほかにも、脳や心臓の疾患、石綿関連疾病などが挙げられています。

これらに共通するのは、疾病の性質上、災害補償の対象になるものかどうかなどを容易に判断できない場合があるという点です。

なぜ精神疾患は判断が難しいのか

仕事中に転倒して骨折した場合などは、事故が起きた時点とケガとの関係を比較的把握しやすいでしょう。

一方、精神疾患では必ずしも同じではありません。

今回の資料も、精神疾患について具体的にどのような出来事があれば労災になるのかまでは説明していません。

資料から確認できるのは、精神疾患が災害補償の対象に該当するものかどうかなどを容易に判断できない疾病として、今回の時効延長の対象に指定される予定だということです。

発症した時点ですぐに労災保険との関係を判断できない可能性があるからこそ、請求できる期間の見直しが行われます。

長時間労働との関係は資料には記載されていない

精神疾患と労災を考えるとき、長時間労働を思い浮かべる人も多いでしょう。

しかし、今回の資料には、何時間以上働けば精神疾患が労災として認められるのかといった具体的な認定基準は記載されていません。

したがって、今回の資料だけを根拠として、労働時間について具体的な基準を示すことはできません。

重要なのは、精神疾患が労災保険と無関係な病気として扱われているわけではないという点です。

今回の改正でも、労災保険給付の請求権に関する重要な見直しの対象として明確に取り上げられています。

ハラスメントの具体的な認定基準も資料にはない

職場のハラスメントと精神疾患との関係についても関心が高まっています。

しかし、今回の資料には、パワーハラスメントなどの具体的な行為と精神疾患の労災認定との関係について説明はありません。

どのようなハラスメントがあれば労災になるのか、どのような証拠が必要なのかといった実務上の判断基準についても記載されていません。

そのため、今回の記事では具体的な認定条件について断定することは避けます。

今回の資料から読み取れる範囲と、一般的な精神疾患の労災認定基準とは分けて考える必要があります。

時効が2年から5年へ延長される

今回の改正で重要なのは、一定の疾病に関する請求権の消滅時効です。

現行では療養補償給付等の請求権について2年の消滅時効期間が設けられています。

今回の改正では、疾病の性質上、災害補償の対象になるものかどうかなどを容易に判断できない疾病として政令で定めるものについて、これを5年に延長します。

精神疾患は、その政令指定が予定されている疾病の一つです。

2年から5年への延長は、3年間長くなるという大きな変更です。

発症してすぐに仕事との関係に気づくとは限らない

この改正から見えてくるのは、労災保険では病気の性質に応じた制度設計が必要だということです。

仕事中の事故であれば、事故が起きたこと自体を把握しやすいケースがあります。

一方、精神疾患などでは、発症した時点から仕事との関係や災害補償の対象になるかどうかを容易に判断できるとは限りません。

そのような疾病について、他のケースと同じ短い時効期間を機械的に適用すると、請求する機会に影響する可能性があります。

今回の改正は、疾病の特性に応じて請求できる期間を見直すものといえます。

労災保険のセーフティネットが疾病にも広がる

今回の資料では、改正の背景として就業構造の変化や働き方の多様化などが挙げられています。

そして、労働災害に対する幅広いセーフティネットを整備することが目的とされています。

労災という言葉から、工場や建設現場などで発生する事故だけをイメージすると、制度の対象を狭く捉えてしまいます。

精神疾患のように、仕事との関係を容易に判断できない可能性がある疾病についても、労災保険制度のなかでどのように保護するのかが重要になっています。

結論

精神疾患についても、労災保険との関係が問題になる場合があります。

今回の資料では、精神疾患が労災として認定される具体的な基準や、長時間労働、ハラスメントとの具体的な関係までは説明されていません。

一方、精神疾患は、災害補償の対象になるものかどうかなどを容易に判断できない一定の疾病として、療養補償給付等の請求権の消滅時効を2年から5年へ延長する対象に指定される予定です。

今回の改正で注目すべきなのは、労災保険が目に見える事故だけではなく、仕事との関係を判断するまでに時間を要する可能性のある疾病にも対応しようとしている点です。

働き方が多様化するなか、労働災害に対するセーフティネットも、疾病の性質に応じて見直されていくことになります。

参考

企業実務 2026年9月号 働き方の多様化に対応した労災保険法等の改正

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