同族会社では、創業者の子どもや孫が会社に入社することがあります。
将来の後継者候補として若いうちから会社に入り、仕事を覚えていくケースもあるでしょう。
しかし、一族であるという理由だけで無条件に入社できる仕組みにしてよいのでしょうか。
ファミリービジネスを長く続けるためには、ファミリーメンバーが会社へどのように関与するのかについて、あらかじめルールを決めておくことが重要です。
一族であることと社員になることは別に考える
創業家に生まれたことと、その会社で働く能力があることは同じではありません。
会社には一族以外にも多くの従業員が働いています。
一般の従業員には採用基準があるのに、創業家の子どもだけが無条件で入社できるとすれば、従業員から見た納得感にも影響する可能性があります。
さらに、入社したファミリーメンバーが将来役員や経営者になるのであれば、その人の能力は会社の将来を大きく左右します。
そこでファミリーガバナンスでは、一族が会社に入ることと、単に一族の一員であることを分けて考える必要があります。
入社についてルールを決めておく
ファミリーガバナンスガイダンスでは、ファミリーメンバーの入退社や処遇、登用についてルールを定めることが示されています。
会社にどこまでファミリーが関与し、どこからは関与しないのか、その範囲と役割を明確にしておくという考え方です。
これによって、創業者の子どもだから当然入社するという考え方から、一定の条件を満たした人が会社に入るという考え方へ変えることができます。
選択型とは何か
資料では、ファミリーメンバーの入社について、選択型と開放型という2つの考え方が紹介されています。
選択型とは、ファミリーメンバーが会社へ入社するために一定の要件を設け、その要件を満たした場合に限って入社を認める方法です。
具体例として、4年制大学以上を卒業していることや、自社以外で数年間の就業経験を積んでいることなどが挙げられています。
一族だから自動的に入社できるのではなく、事前に定められた条件を満たす必要があるわけです。
なぜ他社で働く経験を求めるのか
選択型の条件として興味深いのが、自社以外での就業経験です。
創業家の子どもが学校を卒業して、そのまま一族の会社へ入れば、その会社のやり方しか知らないまま働くことになります。
一方、外部の会社で働けば、自社とは異なる組織や仕事の進め方を経験できます。
また、創業家の一員という立場から離れ、一般の社員として評価される経験を持つことにもなります。
資料では入社要件の具体例として他社で数年間働くことが示されていますが、それを何年にするのか、どのような企業での経験を求めるのかまで一律に決められているわけではありません。
それぞれの会社や一族が、自社に必要な条件を考えることになります。
開放型という考え方もある
一方の開放型は、ファミリーメンバーの入社について一定の要件を求めない方法です。
一族であれば、本人が希望する場合に会社へ入ることを広く認める考え方といえます。
ただし、入社できることと役員になれることは別です。
資料では、開放型であっても役員への昇進については厳格な要件が定められることが多いとされています。
つまり、会社で働く機会は広く認めても、経営を担う立場については能力を厳しく確認する方法です。
選択型と開放型のどちらが正しいのか
選択型と開放型のどちらか一方が、すべての同族会社に適しているわけではありません。
会社の規模や一族の人数、事業内容、経営理念などによって適した仕組みは変わります。
重要なのは、誰かが入社を希望したときに初めて条件を考えないことです。
創業者の長男には入社を認めたのに、次男には認めない。
ある世代では自由に入社できたのに、次の世代から突然厳しい条件を設ける。
このような運用では、一族内に不公平感が生じる可能性があります。
だからこそ、個人ではなくルールによって判断できる仕組みが重要になります。
入社後の処遇についても考える
入社条件だけ決めれば終わりではありません。
ファミリーメンバーをどのように処遇するのかという問題もあります。
一族だから最初から管理職にするのか。
一般の従業員と同じように経験を積ませるのか。
評価や昇進をどのように行うのか。
ファミリーメンバーの入社、処遇、役員への登用を一連の問題として考えておく必要があります。
一族であることを理由に特別扱いすれば、本人の成長を妨げる可能性もあります。
さらに、周囲の従業員が将来の昇進について期待を持ちにくくなることも考えられます。
後継者選びにもつながる
ファミリーメンバーの入社ルールは、将来の事業承継とも関係します。
後継者を一族から選ぶのであれば、候補者が会社へ入り、経営者として必要な経験を積む期間が必要になります。
資料でも、親族内承継では十分な準備期間を設け、後継者育成に計画的に取り組むことが重要だとされています。
つまり、後継者が必要になってから創業家の子どもを会社へ呼び戻すのではなく、将来を見据えて育成していくことが重要になります。
一族以外の人材も選択肢になる
ファミリーガバナンスは、一族だけで会社を経営し続けるための仕組みではありません。
一定の要件を満たすファミリーメンバーだけを役員へ登用する仕組みにすれば、条件を満たす人がいない場合には外部人材を活用することも可能になります。
会社を一族のものとして守ることと、経営を必ず一族が担うことは同じではありません。
ファミリービジネスを持続させるためには、一族の血縁よりも会社の成長を優先しなければならない場面もあります。
結論
創業家の子どもだからといって、当然に会社へ入社しなければならないわけでも、無条件で入社を認めなければならないわけでもありません。
ファミリーガバナンスでは、ファミリーメンバーの会社への関与について、あらかじめルールを決めておくことが重要になります。
一定の学歴や他社での就業経験などを求める選択型。
入社については広く認めながら、役員への昇進には厳格な条件を設ける開放型。
どちらを採用するかは、それぞれの会社が判断することになります。
重要なのは、一族の誰かが入社を希望してから、その人に合わせて条件を決めることではありません。
次の世代が会社へ入る前に、誰に対しても説明できるルールをつくっておくことです。
創業家に生まれることは選べません。
しかし、その会社で働き、さらに経営を担うことについては、能力や経験を基準として考えることができます。
一族と会社の関係を血縁だけに頼らず、明確なルールに変えていくことが、ファミリービジネスを長く続けるための重要な準備になるのです。
参考
企業実務 2026年9月 ファミリーガバナンスガイダンスが実務に与える影響