中小企業の事業承継では、社長が亡くなった後に自社株を誰へ承継させるかが大きな問題になります。
しかし、事業承継で考えるべきなのは死亡後の相続だけではありません。
参考記事では、社長が認知症になったり判断能力が低下したりする場合にも備える必要があるとして、民事信託を活用する方法が紹介されています。
社長が元気なうちに準備しておくことが重要になります。
社長の認知症は相続とは別の問題
相続は、社長が亡くなったときに発生します。
これに対して認知症などによる判断能力の低下は、社長が生きている間に起こります。
ここに大きな違いがあります。
社長が亡くなっていなければ相続は発生しません。
そのため、死亡後に誰へ財産を承継させるかを決めているだけでは、生前の判断能力低下への備えとしては十分ではない場合があります。
事業承継では、死亡と判断能力低下を分けて考える必要があります。
自社株は会社経営に関係する重要な財産
中小企業では、代表取締役である社長個人が会社の株式の大半を保有していることがあります。
自社株は単なる金融資産ではありません。
会社経営に関係する重要な財産です。
そのため、自社株を大量に保有する社長については、死亡後に株式を誰へ承継させるかだけでなく、社長自身の判断能力が低下した場合にどうするのかも考えておく必要があります。
相続対策と事業継続の問題が重なるところに、自社株対策の難しさがあります。
遺言だけでは生前の財産管理とは別問題になる
遺言書は、社長が亡くなった後に財産をどのように分けるのかを指定するための方法です。
自社株を後継者へ承継させるという内容の遺言を作成することも考えられます。
しかし、社長が亡くなる前に判断能力が低下した場合は別の問題です。
参考記事では、遺言書による方法について、社長が亡くなった後に財産をどのように分けるかを指定するものとして説明しています。
したがって、事業承継では死亡後の財産承継だけではなく、死亡するまでの期間についても考える必要があります。
民事信託ならあらかじめ財産管理を決められる
そこで参考記事が紹介しているのが民事信託です。
民事信託とは、財産の所有者である委託者が、自分の持っている財産について、信頼できる受託者に管理や処分を託す仕組みです。
対象となる財産として、不動産、現金、株式などが挙げられています。
そして参考記事では、民事信託を利用すれば、委託者が認知症になったり判断能力が低下したりした場合でも、信託契約の内容に基づいて受託者による財産管理を行えると説明しています。
重要なのは、判断能力が低下する前に信託契約によって仕組みをつくっておくという点です。
自社株を信託する方法がある
民事信託を事業承継に利用する方法の一つが自社株信託です。
社長が保有している自社株を信託財産とする方法です。
参考記事では、自社株だけでなく、会社経営のために使用している社長個人の資産も信託するスキームが考えられるとしています。
社長が元気なうちにこうした仕組みをつくっておけば、その後に認知症などによって判断能力が低下する場合への備えになります。
事業承継対策を相続発生時だけの対策にしないところがポイントです。
後継者育成も同時に進められる
参考記事では、自社株信託には認知症への備えだけではなく、後継者育成という役割も示されています。
社長が元気なうちは後継者候補を育てながら、万一、社長が認知症になってしまった場合にも備えるという考え方です。
つまり、将来の判断能力低下に備えるためだけに自社株を信託するのではありません。
社長が元気な期間を利用して、後継者候補に経営を経験させることもできます。
事業承継の準備と後継者育成を並行して進めることができます。
社長が亡くなった後まで設計できる
民事信託では、さらにその先についても考えることができます。
参考記事では、社長が亡くなった場合に、信託した財産を誰へ承継させるのかについても定めることができるとしています。
この意味で、民事信託には遺言的な機能もあると説明されています。
社長が元気な期間があります。
その後、判断能力が低下する可能性があります。
そして最終的には相続が発生します。
民事信託では、こうした時間の流れを意識して財産管理と承継を考えることができます。
会社で使う社長個人の不動産にも注意する
認知症対策を考える場合、自社株だけを見ればよいとは限りません。
中小企業では、会社が使用している不動産を社長個人が所有している場合があります。
参考記事では、会社の事業に用いている社長個人の不動産について、自社株とともに後継者へ信託することができる点も自社株信託の強みとして挙げています。
会社経営に必要不可欠な社長個人の財産についても、相続争いに巻き込まれるリスクを軽減できるとしています。
自社株と事業用財産を一体として考える視点が重要になります。
元気なうちに準備することに意味がある
参考記事が強調しているのは、社長が元気なうちから備えることです。
認知症になってから初めて対策を考えるのではありません。
判断能力が十分にある段階で、後継者候補を育てながら将来の財産管理について準備します。
そして、社長が認知症になった場合などの万一にも備えます。
さらに、社長が亡くなった後の財産の承継先についても定めておきます。
事業承継を一時点の問題ではなく、長い時間軸で考えることになります。
結論
中小企業の事業承継では、社長が亡くなった後の相続だけに備えればよいわけではありません。
社長が生きている間に認知症などによって判断能力が低下する可能性についても考える必要があります。
特に社長個人が自社株の大半を保有している場合、自社株の管理は会社経営とも深く関係します。
参考記事で紹介されている民事信託では、社長が元気なうちに信託契約を締結し、将来判断能力が低下した場合でも、契約内容に基づいて受託者による財産管理を行う仕組みをつくることができます。
自社株信託を利用すれば、後継者候補を育てながら認知症などの万一に備え、さらに死亡後の財産の承継先まで定めることもできます。
事業承継は、社長が亡くなった瞬間から始まるものではありません。
社長が元気なうちに、後継者育成、判断能力低下への備え、死亡後の財産承継まで一連の問題として考えておくことが重要です。
参考
企業実務 2026年9月号 社長の相続対策リスク