2027年4月から発行できるようになるデジタル地方債では、地方債の権利をデジタル証券として管理します。
ブロックチェーンなどの分散型台帳技術が使われるため、「デジタル資産」という印象を持つ人もいるでしょう。
では、デジタル地方債を保有している人が亡くなった場合、その地方債はどうなるのでしょうか。
デジタルだから消えてしまうわけではありません。
基本的には、通常の地方債などと同じように財産として相続の対象になります。
重要なのは、デジタル地方債が新しい技術で管理されていても、投資家が持っているのは自治体に対する債権だということです。
デジタル地方債が個人に普及すれば、購入するときだけではなく、相続まで含めた管理の仕組みも重要になります。
デジタル地方債も地方債である
最初に押さえておきたいのは、デジタル地方債の「デジタル」という言葉です。
デジタル地方債は、地方債とは別の新しい資産が生まれるという意味ではありません。
地方自治体が資金を調達するために発行する地方債であることは変わりません。
個人が購入すれば、自治体にお金を貸したことになります。
発行条件に従って利息を受け取り、満期には原則として元本の償還を受けます。
違うのは、その権利をデジタル証券として発行、管理する点です。
トークン化されても債権は残る
デジタル地方債では、証券上の権利をトークンとして管理する仕組みが利用されます。
ここでいうトークンは、自治体に対する債権をデジタル技術によって管理するための仕組みです。
例えば10万円のデジタル地方債を持っている人には、自治体から利息や元本の支払いを受ける権利があります。
保有者が亡くなったからといって、その経済的な価値がなくなるわけではありません。
相続人に引き継がれる財産として扱うことになります。
紙がないから相続できないわけではない
デジタル地方債では、紙の債券が手元に存在しないことがあります。
しかし、現在の金融資産では紙がないこと自体は珍しくありません。
銀行預金も通帳を発行しない場合があります。
株式も電子的に管理されています。
投資信託も同様です。
重要なのは紙があるかどうかではなく、亡くなった人がどのような財産上の権利を持っていたかです。
デジタル地方債でも、その権利が確認できれば相続財産として扱われます。
相続ではまず保有していることを確認する
相続が発生した場合に最初に必要になるのが財産の確認です。
預金。
株式。
投資信託。
不動産。
生命保険。
そして債券。
被相続人がどのような財産を持っていたのかを調べます。
デジタル地方債も同じです。
どの自治体の地方債を保有しているのか。
いくら保有しているのか。
満期はいつなのか。
利息はどのような条件なのか。
どの金融機関やサービスを通じて管理しているのか。
こうした情報を確認する必要があります。
デジタル化で財産を見つけやすくなる可能性もある
デジタル金融資産では、家族がその存在を知らないという問題が起こることがあります。
本人だけがスマートフォンなどで管理していると、相続人が金融資産の存在に気付かない可能性があります。
一方、デジタル地方債では保有者情報を把握しやすい仕組みが想定されています。
適切な相続手続きの仕組みが整えば、保有者死亡後の名義変更などを進めやすくなる可能性があります。
デジタル化は相続を難しくする面だけではなく、権利関係を明確にする方向にも活用できます。
秘密鍵だけで管理する暗号資産とは違う
デジタル地方債という言葉から、暗号資産を思い浮かべる人もいるでしょう。
しかし、両者は同じものではありません。
暗号資産では秘密鍵などの管理が大きな問題になる場合があります。
秘密鍵を失うことで資産へアクセスできなくなるリスクもあります。
一方、デジタル地方債は自治体が発行する金融商品です。
金融商品としての権利関係や保有者情報を前提に管理されます。
単に「トークンだから暗号資産と同じ」と考えるのは適切ではありません。
相続人への名義変更が必要になる
デジタル地方債を保有している人が亡くなった場合、相続手続きを行うことになります。
一般的には、相続人を確認し、遺言や遺産分割などに基づいて誰がその財産を取得するのかを決めます。
そのうえで、金融商品を管理している事業者などの所定の手続きを行うことになります。
デジタル地方債でも、保有者情報を被相続人から相続人へ変更する手続きが必要になると考えられます。
デジタルだから自動的に相続人へ移転するというものではありません。
相続税の対象にもなる
地方債は経済的な価値を持つ財産です。
そのため、相続が発生すれば相続税の対象となる財産に含まれます。
デジタル地方債だから相続税の対象外になるわけではありません。
相続税を計算するときには、相続開始時点における財産の価額を把握する必要があります。
地方債についても、相続税上の評価方法に基づいて評価することになります。
重要なのは、トークンという技術ではなく、そのトークンが表している財産上の権利です。
額面金額と相続税評価額は同じとは限らない
債券には額面金額があります。
例えば額面100万円の地方債を持っていたとしても、相続税の評価を単純に100万円と考えればよいとは限りません。
債券の種類や取引状況などによって評価方法を確認する必要があります。
また、相続時点で受け取ることが確定している利息などがあれば、それについても確認が必要になります。
相続税では、金融商品の名称だけで判断するのではなく、その財産について定められた評価方法を確認することが重要です。
満期までの期間も相続人には重要
相続人がデジタル地方債を引き継いだ場合、その後どうするかという問題もあります。
満期まで保有する。
売却できる場合には途中で売却する。
相続人間で分ける。
さまざまな選択肢が考えられます。
特に確認したいのが満期です。
相続した地方債の償還まで何年あるのかによって、資産管理の考え方も変わります。
すぐに現金が必要な相続人にとっては、換金できるかどうかも重要になります。
小口化は遺産分割にも影響する可能性がある
デジタル地方債では、1万円単位などへの小口化が期待されています。
これは投資するときだけではなく、相続でも意味を持つ可能性があります。
例えば100万円の金融商品を1つの権利として保有している場合と、1万円単位で細かく管理できる場合では、相続人への分け方にも違いが生じる可能性があります。
ただし、実際にどのような単位で相続による移転ができるのかは、商品や管理の仕組みによります。
小口化されているから必ず自由に分割できると考えるのではなく、個別の商品条件を確認する必要があります。
高齢者が購入するなら相続手続きは特に重要
現在の個人向け地方債では、高齢者の購入割合が高くなっています。
東京都の個人向け都債では、購入額の約80%を60歳以上が占めています。
デジタル地方債では若い世代への普及が期待されていますが、従来の地方債投資家である高齢者も重要な購入者になるでしょう。
そう考えると、相続時の手続きを最初から分かりやすく設計する必要があります。
購入方法だけ簡単でも、相続手続きが複雑では長期的な金融商品として使いにくくなります。
家族に金融資産の存在を伝えることも大切
デジタル化が進むほど、資産が目に見えなくなります。
紙の証書や通帳があれば、家族が遺品整理をしたときに財産の存在に気付くことがあります。
スマートフォンやオンラインサービスだけで管理している場合、家族が気付かない可能性があります。
だからといってパスワードなどを無防備に共有することは適切ではありません。
重要なのは、自分がどの金融機関やサービスでどのような金融資産を保有しているのかについて、相続時に確認できる状態を整えておくことです。
これはデジタル地方債だけではなく、これからのデジタル金融資産全体に共通する課題です。
デジタル化には相続まで含めた制度設計が必要
デジタル地方債の議論では、
1万円から買える。
スマートフォンなどから利用しやすい。
地域ポイントを付けられる。
自治体から情報を受け取れる。
といった購入時の利便性が注目されます。
しかし、地方債は数年間保有することもある金融商品です。
その間に保有者が亡くなることもあります。
したがって、本当に使いやすいデジタル地方債にするには、購入から償還までだけではなく、相続による承継まで考えた仕組みが必要です。
結論
デジタル地方債を保有している人が亡くなった場合、その地方債は基本的に相続財産になります。
デジタル証券としてトークン化されていても、投資家が持っているのは自治体に対する財産上の権利だからです。
デジタルだから相続できないわけでも、相続税の対象外になるわけでもありません。
相続が発生すれば、地方債の存在を確認し、相続人を確定し、遺言や遺産分割などに基づいて所定の名義変更などを行うことになります。
相続税についても、地方債として適切な評価を行う必要があります。
2027年4月からデジタル地方債が始まり、1万円単位などで個人に広がれば、保有者の数も増える可能性があります。
そのとき重要になるのは、買いやすさだけではありません。
保有中の管理。
満期時の償還。
そして相続。
金融商品は購入した瞬間だけ便利であればよいわけではありません。
デジタル地方債が本当に個人に定着するためには、次の世代へ財産を引き継ぐところまで含めて分かりやすい仕組みを整えることが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 「デジタル地方債の可能性 地域に投資、裾野広げる 個人の購入、増やす契機」