若者の免許取得者が減少するなか、自動車教習所が新しい利用者として注目しているのが外国人です。
特に地方の教習所にとって可能性があるのが、外国人を対象とした合宿免許です。
合宿免許なら、教習所の周辺に住んでいない人でも一定期間滞在しながら免許取得を目指すことができます。
しかし、外国人を受け入れる場合、日本人向けの合宿免許をそのまま提供すればよいわけではありません。
食事、宗教、入浴、プライバシーなど、生活習慣の違いにも対応する必要があります。
そのため教習所は、運転を教える施設だけではなく、外国人が安心して一定期間生活できる宿泊施設としての機能まで求められるようになっています。
合宿免許なら外国人も地域を越えて集められる
通常の通学型教習所では、利用者の多くが周辺地域に住む人です。
そのため地域人口が減れば、利用者も減少しやすくなります。
一方、合宿免許では教習生が教習所の近くに宿泊します。
自宅から毎日通える距離である必要はありません。
教習所の商圏を地域から全国へ広げることができます。
外国人についても同じです。
居住地域の近くに外国人対応の教習所がなくても、一定期間滞在できるのであれば遠方の教習所を利用できます。
地方の教習所にとって、外国人向け合宿免許は地元人口に依存しない経営を実現する方法の1つになります。
若者が減る一方で外国人需要が期待される
教習所の従来の主要顧客は、普通免許を初めて取得する若者でした。
しかし少子化によって、この市場は縮小していく可能性があります。
指定自動車教習所の普通免許卒業者は2025年に約103万人でした。
今後は2030年前後に100万人を下回り、2050年には約68万人まで減少するとの試算があります。
教習所の数も2025年末の1,277校から2050年には約840校になるとの試算があります。
こうした環境では、日本人の若者だけを対象にした経営から利用者層を広げる必要があります。
その候補の1つが外国人です。
物流の人手不足が新しい需要を生む
外国人向け運転教育が注目される背景には、日本の人手不足があります。
特に物流などでは、運転人材の確保が重要な課題になっています。
外国人材が職業ドライバーとして働く機会が増えれば、日本で運転するための知識や技能を身に付ける必要があります。
日本の交通ルール。
道路標識。
左側通行。
狭い生活道路。
歩行者や自転車への対応。
外国で運転経験がある人でも、日本の道路環境に合わせた教育が必要になる場合があります。
外国人向け合宿免許は、こうした人材育成の受け皿になる可能性があります。
宿泊施設まで変える必要がある
外国人を合宿免許で受け入れる場合、大きな課題になるのが生活環境です。
参考記事では、千葉県市原市のSBSドライビングスクール姉崎の取り組みが紹介されています。
同校では外国人利用者を意識して宿泊施設を整備しました。
食べ物の持ち込みを自由にする。
自炊できるようにする。
個室シャワーを設ける。
宗教上の戒律や入れ墨に対する意識の違いなどにも配慮しています。
教習内容だけではなく、宿泊期間中の生活そのものを外国人が利用しやすい形に変えているのです。
食事への対応が重要になる
合宿免許では一定期間、教習所周辺で生活することになります。
そこで重要になるのが食事です。
宗教上の理由などから食べられないものがある人もいます。
日本人向けに決められた食事を一律に提供する仕組みでは、対応が難しい場合があります。
そこで、食べ物を自由に持ち込めるようにしたり、自炊設備を用意したりする方法があります。
すべての利用者に個別の食事を提供するのではなく、自分で選択できる環境を整える考え方です。
これは外国人だけではなく、食事にさまざまな制約がある利用者にも役立つ可能性があります。
入浴文化の違いにも対応する必要がある
日本の宿泊施設では、大浴場を利用することがあります。
しかし入浴に対する考え方は国や文化によって異なります。
他人と一緒に入浴することに慣れていない人もいます。
入れ墨に対する考え方も日本とは異なる場合があります。
そこで個室シャワーを設ければ、利用者がそれぞれの文化や生活習慣に合わせて利用できます。
外国人対応では、何か特別なサービスを増やすことだけが重要なのではありません。
利用者自身が選択できる環境をつくることも重要なのです。
宗教への配慮も必要になる
外国人利用者が増えれば、宗教上の習慣にも配慮する必要があります。
食事だけではありません。
礼拝など一定の時間や場所を必要とする人もいます。
教習スケジュールと生活上の習慣をどのように両立させるかという問題もあります。
すべての宗教について教習所側が個別対応することには限界があります。
そのため、利用者が自分の生活習慣を維持しやすい柔軟な環境を整えることが重要になります。
合宿免許は生活サービスでもある
合宿免許では、教習生は朝から夜まで一定期間その地域で生活します。
そのため教習所が提供しているのは運転教育だけではありません。
宿泊。
食事。
インターネット環境。
プライバシー。
生活上の安全。
これらを含めた滞在サービスです。
外国人利用者が増えるほど、この側面が重要になります。
教習料金だけで競争するのではなく、安心して滞在できる環境そのものが教習所を選ぶ基準になる可能性があります。
外国人対応は日本人にも便利になる
外国人向けに設備を改善すると、その利便性が日本人にも広がる場合があります。
例えば個室シャワーは、他人と一緒に入浴することを好まない日本人にも便利です。
自炊設備があれば、食事制限のある人も利用しやすくなります。
スマートフォンで確認できる分かりやすい案内も、多くの利用者に役立ちます。
外国人対応を進めることは、特定の利用者だけのための特別対応ではなく、施設全体を利用しやすくするきっかけにもなります。
閑散期を埋める役割も期待できる
合宿免許は学生の春休みや夏休みに利用が集中しやすいという特徴があります。
教習所からすると、繁忙期と閑散期の差が大きくなります。
宿泊施設や教習車を年間を通じて維持するには、閑散期にも利用者を確保することが重要です。
参考記事で紹介された群馬県の教習所では、繁忙期には首都圏の学生を、閑散期には外国人を取り込む取り組みを進めています。
利用者層を分散できれば、年間の稼働率を高めることができます。
外国人需要は、教習所経営の季節変動を小さくする役割も期待できます。
地方に外国人が滞在する機会にもなる
外国人向け合宿免許が広がれば、地方に一定期間滞在する外国人も増える可能性があります。
宿泊施設を利用します。
飲食店や商店を利用することもあります。
空き時間に地域を訪れることも考えられます。
教習所が外国人を地域へ呼び込む入口になる可能性があります。
人口減少が進む地方にとって、地域外から人を呼び込み、一定期間滞在してもらうことには経済的な意味もあります。
投資できる教習所とできない教習所で差が広がる
一方、外国人向け合宿免許を始めるには投資が必要です。
宿泊施設。
自炊設備。
個室シャワー。
多言語対応。
指導員への教育。
予約や教習管理のデジタル化。
こうした投資を小規模教習所が単独で行うことは容易ではありません。
外国人需要が新しい成長分野になればなるほど、必要な投資を実行できる教習所とできない教習所の差が広がる可能性があります。
その結果、M&Aやグループ化がさらに進むことも考えられます。
結論
外国人向け合宿免許が広がるためには、運転教育だけを外国語に対応させればよいわけではありません。
合宿免許では一定期間生活するため、食事、宗教、入浴、プライバシーなどへの対応も必要です。
食べ物を持ち込める。
自炊できる。
個室シャワーを利用できる。
利用者が自分の文化や生活習慣に合わせて選択できる環境を整えることが重要になります。
若者の免許取得需要が減少する一方、物流などの人手不足を背景に外国人ドライバーへの教育需要が増える可能性があります。
外国人を閑散期に受け入れれば、教習所の年間稼働率を高めることにもつながります。
これからの合宿免許は、単に短期間で免許を取るサービスではなくなるかもしれません。
運転教育と宿泊、生活支援を一体化し、多様な利用者を全国から受け入れる滞在型教育サービスへ変わっていく可能性があります。
その変化に対応できるかどうかが、人口減少時代の地方教習所の競争力を左右することになりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」