若者の運転免許離れが進むことで、自動車教習所の経営が厳しくなっています。
しかし、ここには逆方向の問題もあります。
教習所が減ることで、免許を取得したい人まで免許を取らなくなる可能性があることです。
自宅や学校、勤務先の近くに教習所があれば、日常生活のなかで教習を受けることができます。
ところが、近くの教習所が閉校すれば、遠くまで通わなければなりません。
教習所の減少は、単なる業界の店舗数減少ではありません。
運転免許を取得するための社会的なインフラそのものが縮小する問題でもあります。
教習所の閉校が全国で起きている
自動車教習所の閉校は、一部の地域だけで起きているわけではありません。
東京都杉並区にあった杉並自動車学校は2023年8月に閉校しました。
千葉市の勝又自動車学校も2023年、大阪府藤井寺市の藤井寺自動車教習所は2024年に閉校しています。
青森県でも2025年に金木自動車学校と於本自動車学校が閉校しました。
さらに東京都目黒区の日の丸自動車学校も、2027年3月末で閉校するとされています。
大都市から地方まで教習所の減少が進んでいることが分かります。
背景には少子化による若者人口の減少があります。
免許取得には何度も教習所へ通う必要がある
自動車教習所は、1度訪れれば終わる施設ではありません。
普通免許を取得するためには、学科教習と技能教習を繰り返し受ける必要があります。
そのため、教習所までの距離は利用者にとって重要です。
例えば自宅から10分で行ける教習所と、片道1時間かかる教習所では負担が大きく違います。
片道1時間であれば、往復だけで2時間必要です。
そこに教習時間が加わります。
学校や仕事を続けながら何度も通うことを考えれば、教習所へのアクセスは免許取得を左右する重要な条件になります。
仕事帰りに通えるかどうかは大きい
特に社会人にとって、教習所の場所は重要です。
平日に仕事をしながら免許を取得する場合、勤務終了後に教習所へ通う方法が考えられます。
勤務先や自宅の近くに教習所があれば可能です。
しかし、近隣の教習所が閉校すれば事情は変わります。
電車やバスを乗り継いで遠くの教習所まで行かなければならないのであれば、平日の教習が難しくなります。
週末だけ通えば、免許取得までの期間が長くなることも考えられます。
最初は免許を取るつもりだった人でも、時間的な負担が大きくなれば、今は必要ないと判断する可能性があります。
教習所の減少そのものが免許離れの原因になるのです。
若者減少と教習所減少が循環する
ここで問題になるのが、利用者と教習所の関係です。
若者が減ります。
免許を取得する人が減ります。
教習所の利用者が減ります。
経営が厳しくなった教習所が閉校します。
近くの教習所がなくなります。
免許を取得するための時間的な負担が増えます。
その結果、免許取得を諦める人が増える可能性があります。
すると、さらに教習所の利用者が減ります。
このように、利用者減少と教習所減少が互いを加速させる可能性があります。
地方では影響がさらに大きくなる可能性がある
地方では教習所の閉校がより深刻な問題になる可能性があります。
都市部であれば、近くの教習所が閉校しても、公共交通機関を使って別の教習所へ通える場合があります。
しかし地方では、そもそも鉄道やバスが十分に整備されていない地域があります。
自動車を運転できない人が、自動車を運転できるようになるために遠くの教習所へ行かなければならないという矛盾が生じます。
家族に送迎してもらう方法もありますが、誰もが利用できるわけではありません。
教習所の送迎バスにも運行できる範囲があります。
地方では免許が生活に必要であるにもかかわらず、その免許を取得する場所が遠くなるという問題が起こり得ます。
教習所の減少は高齢者にも影響する
影響を受けるのは若者だけではありません。
70歳以上の運転者は、免許更新時に高齢者講習を受ける必要があります。
高齢化によって高齢者講習の需要が増える一方、講習を実施する教習所が減れば、受講できる場所も限られてきます。
高齢者の場合、遠距離の移動そのものが負担になる場合があります。
地方では公共交通機関が少ないため、自動車が生活に不可欠という人もいます。
免許を維持するために必要な講習を受ける場所が遠くなることは、地域住民の生活にも影響します。
教習所は若者の免許取得施設であるだけではないのです。
外国人ドライバー育成にも影響する
今後は外国人ドライバーへの教育需要も増える可能性があります。
物流などでは人手不足が続いており、外国人材の活用が進んでいます。
外国人が日本で安全に運転するためには、日本独自の交通ルールや道路環境を理解することが重要です。
その教育を担う場所の1つが自動車教習所です。
教習所が減少すれば、外国人ドライバーを育成するための教育拠点も減ることになります。
教習所の問題は、将来的には物流や地域経済にも関係してくる可能性があります。
合宿免許が解決策の1つになる
教習所まで日常的に通うことが難しくなれば、合宿免許の重要性が高まる可能性があります。
合宿免許では、教習所の近くに宿泊しながら短期間で集中して教習を受けます。
自宅の近くに教習所がなくても、一定期間まとまった時間を確保できれば免許取得が可能です。
教習所側にもメリットがあります。
地域住民だけではなく、全国から教習生を集めることができるからです。
少子化で地元の若者が減っても、商圏を全国へ広げることができます。
教習所減少時代には、通学型だけではなく合宿型という選択肢がさらに重要になる可能性があります。
オンライン化だけでは解決できない
学科教育については、デジタル技術を利用する余地があります。
オンライン学科教習が広がれば、教習所へ行く回数を減らすことができます。
予約や配車のオンライン化も利用者の利便性を高めます。
しかし、自動車の運転そのものを学ぶ技能教習は実車で行う必要があります。
完全にオンラインで運転免許を取得することはできません。
デジタル化によって距離の問題を軽減することはできても、教習所という物理的な施設が不要になるわけではありません。
ここが他のサービスとは大きく異なるところです。
教習所は地域インフラという視点も必要になる
利用者が減少するのであれば、採算の取れない教習所が閉校するのは市場経済では自然な動きともいえます。
しかし、教習所には交通安全教育という公共的な役割があります。
若者の免許取得だけではありません。
高齢者講習があります。
外国人への運転教育があります。
企業ドライバーへの安全運転教育もあります。
教習所がなくなることで、こうしたサービスを受けるために地域住民が遠距離を移動しなければならなくなるのであれば、単純な民間企業の撤退だけでは済まない問題になります。
特に地方では、どこまで交通安全教育の拠点を維持するのかという議論が必要になるでしょう。
結論
自動車教習所の減少は、若者の免許離れの結果として起きています。
しかし、教習所が減れば、それ自体が新たな免許離れを生む可能性があります。
近くに教習所がなければ、免許取得に必要な時間と移動の負担が増えるからです。
特に公共交通機関の少ない地方では、免許が生活に必要であるにもかかわらず、免許を取得するための場所が遠くなるという問題が起こります。
さらに教習所は、高齢者講習や外国人ドライバー教育なども担っています。
若者が減る。
教習所が減る。
免許が取りにくくなる。
さらに免許取得者が減る。
これから重要になるのは、この循環をどこまで許容するのかという視点です。
自動車教習所の減少は、1つの業界の縮小ではなく、人口減少社会で交通安全のための地域インフラをどのように残していくのかという問題につながっています。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」