自動車教習所の閉校が全国で相次いでいます。
特に深刻なのが地方です。
地方では鉄道やバスなどの公共交通機関が十分ではなく、自動車が通勤、通学、買い物、通院などに欠かせない地域があります。
そのため都市部よりも運転免許の必要性は高いと考えられます。
ところが、その地方で教習所の経営が厳しくなっています。
背景にあるのが人口減少です。
免許を必要とする地域ほど、免許を取得したり高齢者講習を受けたりするための教習所を維持できなくなるという矛盾が生じ始めています。
地方では自動車が生活インフラになっている
都市部と地方では、自動車の意味が大きく異なります。
東京や大阪などでは、鉄道や地下鉄、バスなどを利用して日常生活を送ることができます。
自動車を持たないことも十分に可能です。
一方、地方では最寄り駅まで距離があったり、路線バスの本数が少なかったりする地域があります。
買い物に行く。
病院へ行く。
職場へ通う。
子どもを送迎する。
こうした日常生活のさまざまな場面で自動車が必要になります。
そのため、地方では運転免許が単なる資格ではなく、生活を維持するための重要な手段になっています。
それでも教習生は減っていく
自動車の必要性が高いからといって、地方の教習所経営が安定するわけではありません。
最大の問題は若者の絶対数が減っていることです。
リクルート進学総研が文部科学省の学校基本調査をもとにまとめた予測では、18歳人口は2025年の約110万人から2030年には約106万人、2035年には約98万人へ減少します。
全国的な少子化は、地方の教習所にも直接影響します。
しかも地方では、進学や就職をきっかけとして若者が都市部へ転出する場合があります。
地域人口の減少と若年人口の流出が重なれば、地元の教習生だけを対象にした経営はさらに難しくなります。
教習所には大きな固定費がかかる
教習所は利用者が減れば簡単に規模を縮小できる事業ではありません。
技能教習を行うためには教習コースが必要です。
教習車も必要です。
校舎や設備も維持しなければなりません。
さらに、教習を担当する指導員などの人材も必要になります。
教習生が1割減ったからといって、教習コースを1割小さくすることはできません。
一定の固定費を負担し続ける必要があります。
そのため利用者が減少すると、1人の教習生から得られる収入に対する固定費の負担が重くなります。
人口減少が長期間続けば、経営体力の小さい教習所ほど厳しい状況になりやすいのです。
設備投資をやめるわけにもいかない
利用者が減少しているからといって、投資を止めればよいわけでもありません。
教習車は更新する必要があります。
施設の修繕も必要です。
さらに現在では、予約や配車などのデジタル化も重要になっています。
オンライン予約を導入する。
教習生と指導員のスケジュールを効率的に組み合わせる。
紙の教習原簿を電子化する。
こうした投資によって業務を効率化できれば、少ない人員でも教習所を運営しやすくなります。
しかし、そのためには最初に資金が必要です。
経営が厳しい小規模教習所ほど、必要な投資をする余裕がないという問題が生じます。
教習所がなくなると地方ほど困る
地方の教習所問題には大きな矛盾があります。
人口が少ないため、教習所の経営は難しくなります。
しかし、公共交通機関が少ないため、住民にとって運転免許の必要性は高いのです。
近隣の教習所が閉校すれば、別の地域の教習所まで通わなければなりません。
ところが免許を取得する前なので、自分で自動車を運転して教習所へ行くことはできません。
家族の送迎や教習所の送迎バスに頼る必要があります。
鉄道や路線バスが少ない地域では、教習所が数十キロ離れるだけでも免許取得のハードルが大きく上がる可能性があります。
高齢者講習という役割もある
地方の教習所を若者の免許取得だけで考えることもできません。
高齢化が進む日本では、高齢者への交通安全教育という役割が重要になっています。
70歳以上の人が運転免許を更新する際には、高齢者講習を受ける必要があります。
地方では自動車が生活に不可欠なため、高齢になっても運転を続けざるを得ない人がいます。
一律に免許返納を求めれば、買い物や通院などの日常生活が難しくなる可能性があります。
そのため、安全に運転を続けるための再教育が重要になります。
教習所が減少すると、高齢者講習を受けられる場所も減ることになります。
公共交通の衰退ともつながっている
地方では鉄道や路線バスも利用者減少に直面しています。
人口が減る。
公共交通の利用者が減る。
路線が縮小する。
自動車への依存度が高まる。
ところが同時に、自動車を運転するための免許取得や安全教育を担う教習所も減っていきます。
つまり、公共交通と自動車教習所が同時に縮小する可能性があります。
地域住民から見れば、公共交通がなくなるから自動車が必要なのに、その自動車を安全に運転するための教育施設までなくなるということです。
人口減少社会における地方交通の難しさがここにあります。
地元需要だけに依存しない経営が必要になる
地方の教習所が生き残る方法の1つが、商圏を地域外へ広げることです。
代表的なのが合宿免許です。
合宿免許であれば、東京や大阪など地域外の若者を教習生として呼び込むことができます。
春休みや夏休みには学生を受け入れ、閑散期には外国人など別の利用者を受け入れることも考えられます。
地域人口が減っても、全国から利用者を集めることができれば経営を維持できる可能性があります。
地方にあることを弱点ではなく、宿泊施設や地域資源と組み合わせた強みに変える発想が必要になります。
外国人ドライバーも新しい顧客になる
物流などの人手不足を背景に、外国人ドライバーへの期待も高まっています。
外国人が日本で安全に運転するためには、日本の交通ルールや道路環境への理解が欠かせません。
教習所は、その教育拠点になることができます。
外国人利用者を受け入れるためには、多言語対応だけではなく、宿泊や食事、宗教、生活習慣などへの配慮も必要になります。
こうした対応には投資が必要ですが、地域の若者だけに依存しない経営モデルを構築することにもつながります。
大手への集約が進む可能性もある
すべての地方教習所が単独でこうした改革を進められるわけではありません。
ITシステムを導入する。
宿泊施設を整備する。
外国人向けサービスを開発する。
指導員を確保する。
これらには資金と経営ノウハウが必要です。
そこで今後は、M&Aによって大手企業や教習所グループの傘下に入るケースが増える可能性があります。
実際に、物流企業グループの資金力を活用し、高齢者講習などへ投資する教習所もあります。
単独経営では難しい投資を、グループ化によって実現する方法です。
人口減少は、教習所の閉校だけではなく業界再編も促すことになりそうです。
教習所を採算だけで考えてよいのか
さらに考える必要があるのが、教習所の公共的な役割です。
教習所は民間企業ですから、基本的には事業として採算を確保しなければなりません。
しかし、地方の教習所には交通安全インフラという側面もあります。
若者に安全運転を教える。
高齢者を再教育する。
外国人ドライバーに日本の交通ルールを教える。
企業のドライバー教育を行う。
こうした機能が地域から失われれば、単なる企業の撤退以上の影響が生じます。
人口が少ない地域の教習所について、完全に市場原理だけで維持できるのかという問題が今後浮上する可能性があります。
結論
地方の自動車教習所が厳しい最大の理由は、若者を中心とした地域人口の減少です。
教習所には教習コース、教習車、校舎、指導員など一定の固定費が必要なため、利用者が減少すると経営への影響が大きくなります。
一方、地方では公共交通機関が少なく、自動車が生活に欠かせない地域があります。
つまり、教習所を経営するには人口が少なすぎる一方で、住民が生活するには教習所が必要という矛盾があります。
さらに高齢化によって高齢者への再教育も重要になります。
地方の教習所を維持するためには、合宿免許、外国人教育、デジタル化、M&Aなどによって地元の若者だけに依存しない経営へ転換する必要があります。
それでも維持できない地域では、公的支援を含めて交通安全教育を誰が担うのかという議論も必要になるでしょう。
地方の教習所問題は、人口減少社会で地域のインフラをどこまで維持するのかという日本全体の課題を映しているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」