企業年金の資産運用では、単に高い利回りを得ればよいわけではありません。
将来、加入者や受給者へ年金を支払う必要があるからです。
そこで重要になる考え方の一つがデュレーションです。
デュレーションというと、債券価格が金利変動によってどの程度動くかを測る指標として知られています。
しかし企業年金では、資産だけではなく将来支払う年金という負債にも期間があります。
資産と負債の期間をできるだけ合わせることで、金利が動いたときの企業年金全体への影響を抑えることができます。
デュレーションとは何か
デュレーションは、債券投資で使われる重要な指標です。
簡単にいえば、債券から得られる利息や元本を受け取るまでの期間を考慮した平均的な回収期間を表します。
一般にデュレーションが長い債券ほど、金利変動による価格変化が大きくなります。
金利が上昇すれば債券価格は下落します。
反対に金利が低下すれば債券価格は上昇します。
同じ1%の金利変動でも、短期債と長期債では価格への影響が違います。
長期債の方が大きく動きやすいのです。
企業年金には資産だけでなく負債がある
個人が債券へ投資する場合、保有している債券という資産に注目することが多いでしょう。
企業年金は少し違います。
企業年金には年金資産がある一方で、将来加入者や受給者へ年金を支払う義務があります。
企業年金から見れば、将来の年金給付は負債です。
例えば現在働いている30歳の従業員に対する年金は、数十年先まで支払いが始まらない可能性があります。
一方、すでに年金を受給している人には現在から給付を続けます。
企業年金には近い将来に支払う給付と、何十年も先に支払う給付が同時に存在しています。
この将来の支払いまでの期間も考える必要があります。
年金負債にもデュレーションがある
将来支払う年金についても、いつ支払いが発生するのかを考えることで期間を測ることができます。
これが年金負債のデュレーションです。
加入者の平均年齢が若ければ、実際に多くの年金を支払う時期は遠くなる傾向があります。
そのため負債のデュレーションは長くなります。
反対に加入者や受給者の平均年齢が高くなれば、年金支払いの時期が近づき、負債のデュレーションが短くなる場合があります。
企業年金はこの負債の期間を考えながら、どのような資産を持つのかを決める必要があります。
資産と負債の期間を合わせる
例えば企業年金が20年後に多額の年金を支払う必要があるとします。
その資金を短期債だけで運用していれば、数年ごとに満期を迎えた資金を再び運用しなければなりません。
その時点で金利が大きく低下していれば、十分な利回りで再投資できない可能性があります。
一方、将来の支払い時期に合わせて長期債を保有しておけば、現在の金利水準で長期間の収益をある程度固定できます。
企業年金が長期債や超長期債を利用する理由の一つです。
将来の給付時期と資産から資金を回収する時期を近づけることで、金利変動による影響を抑えやすくなります。
金利が下がると年金負債の価値は増えやすい
企業年金でデュレーションが重要になる理由は、金利変動が資産だけでなく負債にも影響するからです。
将来支払う100万円と現在の100万円は、財政計算上まったく同じ価値ではありません。
将来の支払いを現在価値に換算するときには、一定の利率を使って割り引きます。
金利が低下すると割引の効果が小さくなるため、将来支払う年金の現在価値は大きくなる方向に働きます。
つまり金利低下は、企業年金にとって負債の価値を増加させる要因になり得ます。
反対に金利が上昇すれば、負債の現在価値は小さくなる方向に働きます。
長期債を持つことで負債の動きに近づける
ここで長期債が重要になります。
金利が低下すると、一般に長期債の価格は上昇します。
同時に年金負債の現在価値も増える方向に動きます。
つまり資産として長期債を持っていれば、負債が増加したときに資産も増加しやすくなります。
反対に金利が上昇すると長期債の価格は下落しますが、年金負債の現在価値も低下する方向に動きます。
資産だけを見ると債券価格の下落は悪いことに見えます。
しかし企業年金全体で見れば、負債も同時に変化しています。
この両方を見ることが重要です。
デュレーションが大きく違うと金利変動の影響を受けやすい
例えば年金負債のデュレーションが長いのに、資産側では短期債ばかり保有しているとします。
金利が大きく低下すると、長期の年金負債の現在価値は大きく増える可能性があります。
ところが短期債は長期債ほど価格が上昇しません。
負債の増加に資産の増加が追いつかず、企業年金の財政状態が悪化する可能性があります。
資産と負債のデュレーションを近づければ、こうした金利変動によるずれを小さくできます。
これが企業年金でデュレーション管理が重要とされる理由です。
金利上昇局面では期間の選択が重要になる
現在のように金利が上昇する局面では、企業年金にとって国内債券の魅力が高まります。
しかし単純に最も利回りの高い債券を購入すればよいわけではありません。
10年債を買うのか、20年債を買うのか、それともさらに長い債券を利用するのか。
企業年金が抱えている年金負債の期間によって適切な選択は変わります。
高い利回りを確保することと、将来の年金支払いに資産の期間を合わせることを同時に考える必要があります。
企業年金の債券運用では、利回りだけでなく期間も重要なのです。
加入者の年齢構成も運用に影響する
企業年金のデュレーションは固定されたものではありません。
加入者や受給者の年齢構成が変われば、将来の年金支払いの時期も変化します。
若い加入者が多ければ、将来の給付まで長い時間があります。
一方、加入者の高齢化が進めば、年金支払いの時期は近づいてきます。
企業年金は加入者の年齢構成や退職時期などを確認しながら、資産の構成も見直していく必要があります。
人口構成や働き方の変化は、企業年金の運用にも影響するわけです。
結論
企業年金のデュレーションとは、単に債券の値動きを測るためだけの考え方ではありません。
企業年金には運用する資産と、将来支払う年金という負債があります。
その両方に期間が存在します。
資産と負債のデュレーションをできるだけ合わせることで、金利が大きく変動した場合でも企業年金全体の財政への影響を抑えやすくなります。
金利上昇によって国内債券の利回りが高くなれば、企業年金にとって債券投資の魅力は増します。
しかし重要なのは、最も利回りの高い債券を選ぶことではありません。
将来いつ年金を支払うのかを考え、その時期に合わせて資産を準備することです。
企業年金の運用を見るときには、利回りだけではなく資産と負債の時間軸を見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」