死亡保険から医療保険へ主力商品が変わると生保運用はどう変わるのか 保険期間短期化の影響編

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生命保険会社の資産運用を考えるとき、金利や株価などの金融市場だけを見ていては十分ではありません。

実は、どのような保険商品が売れているのかによって、生保の運用方法も変わります。

2000年代ごろまで生保の主力だったのは死亡保険でした。しかし現在は、医療保険など第三分野の商品が重要になっています。

死亡保険から医療保険へ。

この商品構成の変化が、生保の負債を短くし、国債運用にも影響を与えています。

死亡保険とは何か

死亡保険は、被保険者が死亡した場合に契約で定められた保険金を受け取る商品です。

代表的なものに定期保険や終身保険があります。

定期保険は一定期間の死亡保障を提供します。

一方、終身保険は原則として一生涯にわたって死亡保障が続きます。

生命保険会社から見ると、特に終身保険は非常に長期間の契約になる可能性があります。

若い契約者が加入すれば、実際に死亡保険金を支払うのが数十年後になることもあります。

死亡保険は長い負債になりやすい

例えば30歳の人が終身保険へ加入したとします。

契約者は保険料を支払い、生命保険会社は将来の死亡時に保険金を支払います。

実際の支払いが何年後になるかは分かりません。

しかし大量の契約を保有する生保では、死亡率などを利用して将来どの程度の保険金支払いが発生するのかを見積もることができます。

若い契約者が多ければ、全体として保険金を支払うまでの期間は長くなります。

そのため、死亡保険を大量に販売していた生保は長期間の負債を抱えることになりました。

長い負債には長い資産が必要になる

将来20年、30年先に多額の保険金を支払うのであれば、その資金も長期間運用する必要があります。

そこで重要になったのが20年国債や30年国債などの超長期国債です。

生保は資産と負債の期間をできるだけ近づけるALMを行っています。

負債が長ければ、資産側にも長い国債を保有する必要があります。

生保が超長期国債の代表的な買い手になってきた背景には、死亡保険や終身保険という長期商品が大量に存在していたことがあります。

医療保険など第三分野が重要になった

ところが、生保の商品構成は変化しています。

死亡保障だけでなく、病気やけが、介護などに備える商品が重要になっています。

こうした商品は一般に第三分野の保険と呼ばれます。

代表的なのが医療保険やがん保険、介護保険などです。

例えば医療保険では、入院や手術など一定の条件を満たした場合に給付金が支払われます。

死亡時に大きな保険金を支払う死亡保険とは、保険会社から見たお金の流れが異なります。

医療保険では支払い時期が近くなる場合がある

死亡保険の場合、若い契約者であれば保険金の支払いが数十年先になる可能性があります。

一方、医療保険では契約者が生存している間にも入院給付金や手術給付金などが発生します。

参考記事では、医療保険の年限は10年前後とされ、終身保険の20年から30年に比べて短いと指摘されています。

この違いは生保の資産運用にとって重要です。

保険金や給付金を支払うまでの期間が短くなれば、それに備えて保有する資産についても期間を短くできます。

商品構成が変われば負債デュレーションも変わる

生保の負債デュレーションは、すべての保険契約から将来発生するキャッシュフローを反映します。

長期の死亡保険が多ければ、負債デュレーションは長くなりやすくなります。

一方、比較的早い段階から給付が発生する商品が増えれば、負債デュレーションを短くする方向に働きます。

実際、国内生保の負債デュレーションは2003年度の20.1年から2025年度には16.3年まで短くなったとの試算があります。

若年層の生保離れによる契約者の高齢化とともに、販売する商品の変化も背景にあります。

負債が短くなれば超長期国債への依存度が下がる

負債デュレーションが20年程度であれば、生保にとって20年国債や30年国債は重要な運用商品になります。

しかし負債デュレーションが10年から15年程度へ近づいていけば、10年以下の国債も利用しやすくなります。

例えば10年後に給付金などを支払う可能性が高いのであれば、30年国債ばかりを持つ必要はありません。

10年国債などを保有することで、支払い時期と資金回収の時期を近づけることができます。

保険商品の変化が、国債の購入年限を変えるわけです。

金利上昇も運用短期化を後押しする

さらに現在は金利環境も変わっています。

10年国債利回りは足元で3%台となっています。

低金利時代には十分な利回りを得るため、より長い国債を購入する必要性がありました。

しかし10年程度の国債でも生保の予定利率を上回る利回りを確保できるのであれば、価格変動の大きい超長期国債を大量に保有する必要性は低下します。

商品構成の変化による負債の短期化と、金利上昇による中長期債の投資魅力の向上が同時に進んでいるのです。

保険商品と国債市場はつながっている

医療保険が売れることと国債市場は、一見するとまったく別の話に見えます。

しかし生保の資産と負債を通して考えるとつながります。

死亡保険中心であれば、長期間先の保険金支払いが多くなります。

長い負債が増えれば、超長期国債を購入する必要性が高まります。

一方、医療保険などの割合が高まり、より早い時期から給付金が発生する構造になれば、負債の期間は短くなります。

そうなれば10年以下の国債などへ運用対象を広げることができます。

消費者がどの保険商品を選ぶかという変化が、巨大な生保マネーの行き先を変える可能性があるのです。

結論

生命保険会社の資産運用は、金融市場だけで決まるものではありません。

どのような保険商品を販売しているのかによって、生保が将来いつ保険金や給付金を支払うのかが変わります。

かつて主力だった死亡保険や終身保険では、保険金支払いまで20年、30年という長期間になることがありました。

そのため、生保は20年国債や30年国債などの超長期国債を大量に保有する必要がありました。

一方、医療保険など第三分野の商品が重要になると、保険会社から見たキャッシュフローの期間も変化します。

そこに契約者の高齢化が加わり、生保の負債デュレーションは短くなっています。

さらに10年国債でも相応の利回りを得られるようになったことで、生保はより短い国債へ運用対象を広げやすくなりました。

死亡保険から医療保険への変化は、単なる生命保険商品の流行の変化ではありません。

生保の負債構造を変え、その資産運用を変え、最終的には日本国債の需給構造にまで影響する可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 生保運用、「短い国債」に食指

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