新築マンション価格の高騰を受け、国土交通省は令和9年度税制改正要望で必要な措置を求めています。
背景にあるのが、都心の大規模マンションなどで増えている短期売買です。
購入後1年以内の売買は、東京圏で6.3%、東京都で8.5%、東京23区で9.3%、都心6区では12.2%でした。
こうした短期売買が価格高騰の一因だと指摘される一方、マンションの売買は本来、所有者が自由に行える経済活動でもあります。
短期転売への税制措置を検討する場合には、価格高騰を抑える必要性と、不動産市場の自由な取引を維持することの両方を考える必要があります。
短期売買そのものが違法なわけではない
まず確認しておきたいのは、マンションを購入して短期間で売却すること自体が違法というわけではないことです。
値上がりを期待して購入することも、購入後に価格が上昇したため売却することも、通常の不動産取引として行われています。
投資家が利益を得ること自体を禁止する制度ではありません。
問題になるのは、短期的な投機需要が住宅価格を押し上げ、実際に住みたい人の住宅取得を難しくする場合です。
そのため政策としては、短期売買そのものをなくすのではなく、市場に与える影響をどこまで抑えるのかという考え方が重要になります。
投資家がいることにも市場上の意味がある
投資家の存在には、住宅市場にとって一定の役割もあります。
投資家が物件を購入することで、売り手にとっては買い手が増えます。
中古マンション市場では、投資家が物件を購入して賃貸に回すことで、賃貸住宅の供給につながる場合もあります。
投資家がすべて短期的な価格上昇だけを狙っているとは限りません。
そのため投資需要を一律に悪いものとして扱うのではなく、どのような投資行動が住宅市場に大きな影響を与えているのかを見極める必要があります。
短期転売には異なる性質の取引が含まれる
購入後1年以内に売却されたというだけでは、その取引の目的は分かりません。
値上がり益を狙った投資だった可能性があります。
一方で、購入後に転勤が決まり、自宅を売却した可能性もあります。
住宅ローンの返済が難しくなったケースも考えられます。
家族構成が変わって住み替える場合もあります。
同じ短期売買という統計の中に、異なる目的の取引が含まれています。
税制を設計する場合には、この違いをどこまで考慮するのかが重要になります。
税制はできるだけ明確である必要がある
税金は国民や企業の財産に直接影響します。
そのため、どの取引が課税対象になるのかを明確にする必要があります。
例えば購入後1年以内の売却を対象にすると決めた場合でも、購入日はいつなのか、引き渡し日はいつなのか、売却日は契約日なのか引き渡し日なのかなど、細かなルールが必要になります。
さらに自宅として利用していた場合の例外を設けるなら、居住実態をどのように確認するのかという問題も生じます。
制度を細かくすればするほど公平性を高められる一方、分かりにくくなる可能性があります。
例外を増やすと制度は複雑になる
転勤なら対象外。
介護なら対象外。
離婚なら対象外。
失業なら対象外。
こうした例外を設ければ、投機とは関係のない売却を保護しやすくなります。
しかし例外が増えるほど、制度は複雑になります。
例えば転勤についても、会社から命令された場合だけなのか、自分で転職して引っ越した場合も対象なのかという問題があります。
介護についても、どの程度の事情なら認めるのかを決める必要があります。
公平な制度を作ろうとすると、細かな線引きが必要になります。
高い税率にも限界がある
短期転売を抑えたいからといって、税率を高くすれば高くするほどよいわけではありません。
税負担が重くなれば、投資家の短期売買を抑える効果は強くなる可能性があります。
しかし同時に、正常な住宅取引まで抑制する可能性があります。
売却したい人が税負担を避けるために売却を先送りすれば、市場に出てくる物件が減ります。
取引量が減れば、不動産市場の流動性が低下する可能性があります。
投機抑制と市場流動性のバランスが必要です。
価格を下げることと取引を減らすことは違う
短期転売への規制によって投資需要が減った場合、マンション価格が下落する可能性があります。
しかし、価格が下がる代わりに売買件数も大きく減少する可能性があります。
価格を抑えることだけを目標にすると、取引が成立しにくい市場になってしまう可能性があります。
住宅を売りたい人と買いたい人が適切に出会えることも、不動産市場には重要です。
政策効果を見るときには、価格と取引量をセットで確認する必要があります。
市場の透明性を高める方法もある
短期転売への対応は、税金だけとは限りません。
不動産取引の実態をより正確に把握できれば、どの地域で、どの価格帯で、どの程度短期売買が発生しているのかを分析できます。
国土交通省が不動産登記情報を活用して新築マンションの短期売買を調査したことも、その一例です。
市場の実態を把握したうえで、必要な部分だけに政策を集中させることも一つの考え方です。
一律規制より対象を絞る方法もある
新築マンション市場全体に一律の負担を課すのではなく、特に短期売買が集中している取引に限定する方法も考えられます。
例えば購入後数カ月以内の売却だけを対象とする方法です。
あるいは一定の条件を満たす取引だけを対象にする方法もあります。
対象を絞れば、通常の住宅取引への影響を小さくできる可能性があります。
ただし対象を狭くしすぎれば、投資家が制度の対象外になるよう取引方法を変える可能性があります。
税制以外の対策も組み合わせられる
マンション価格高騰への対応を税制だけに頼る必要もありません。
住宅供給を増やす政策があります。
土地利用や再開発を進める方法もあります。
投資目的の取引実態を把握する方法もあります。
マンション販売時の情報開示を充実させる方法も考えられます。
住宅市場の問題が複数の要因から生じているのであれば、複数の政策を組み合わせる方が制度設計を柔軟にできる場合があります。
市場環境が変われば制度も見直す必要がある
不動産市場は固定されたものではありません。
金利が上昇すれば住宅ローン需要が変化します。
建築費が上昇すれば新築供給が変わります。
人口や世帯数が変われば住宅需要も変わります。
海外投資家の動向や景気によっても市場は変化します。
そのため、現在の価格高騰を前提として作った制度を長期間そのまま維持することが適切とは限りません。
制度を導入する場合には、どの指標を見て見直すのかをあらかじめ考えておくことも重要です。
結論
新築マンション価格の高騰を背景として、短期転売への税制措置が検討されています。
短期的な値上がり益を狙う取引が住宅価格を押し上げているのであれば、税負担によって投機需要を抑えることには一定の政策的意味があります。
一方で、購入後1年以内の売却がすべて投機目的とは限りません。
転勤、介護、離婚、収入減少などによる自宅売却も含まれます。
また、投資家が存在すること自体がすべて問題というわけでもありません。
税制を設ける場合には、どの取引を対象にするのかを明確にし、通常の住宅取引への影響をできるだけ小さくする必要があります。
さらに、価格だけでなく取引件数や中古市場への影響、投資家の行動変化まで確認することが重要です。
マンション高騰対策では、投機を抑えることと市場の自由な取引を維持することを両立させる必要があります。
税率を上げれば問題が解決するわけではありません。
どの取引を対象とし、どのような市場を目指すのかを明確にしたうえで、税制、供給政策、市場の透明性向上などを組み合わせて考えることが重要になります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か