海外では住宅の投機をどう抑えているのか 追加課税や取得規制から日本の制度を考える編

税理士
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新築マンション価格の高騰を受け、日本でも短期転売への税制措置が検討されています。

では、海外では住宅価格の高騰や短期的な投機取引に対して、どのような税制や規制が使われてきたのでしょうか。

代表的な例として参考になるのがシンガポールです。

シンガポールでは、住宅の購入時に課される追加的な印紙税と、短期間で売却した場合に課される売却者印紙税があります。

一方、香港ではかつて短期転売を抑える特別印紙税などを導入しましたが、住宅市場の環境変化を受けて2024年に需要抑制策を撤廃しました。

海外の制度を見ると、重要なのは単純に税率を高くすることではなく、市場環境に応じて制度を調整することだと分かります。

シンガポールには購入時と売却時の対策がある

シンガポールでは、住宅取得に関して複数の印紙税が設けられています。

購入時には買い手印紙税があり、一定の場合には追加買い手印紙税が加わります。

追加買い手印紙税の税率は、購入者の属性や保有する住宅の数などによって異なります。

例えば2023年4月27日以降、シンガポール国民が2戸目の住宅を購入する場合の追加買い手印紙税は20%、3戸目以降は30%です。

永住者や外国人、法人などではさらに異なる税率が設定されています。

つまりシンガポールでは、住宅を何戸所有しているのか、誰が購入するのかによって購入時の税負担を変えています。

法人による住宅取得には65%の追加買い手印紙税

シンガポールの制度で特に注目されるのが法人です。

法人などのエンティティーが住宅を取得する場合、追加買い手印紙税は原則65%とされています。

住宅開発業者については一定の条件を満たせば別の取り扱いがあります。

この仕組みは、単純に「住宅を買ったら同じ税率」というものではありません。

住宅を誰が購入するのか、何戸目の住宅なのかなどによって負担を変えています。

日本で短期転売対策を考える場合にも、購入者の属性や投資目的の有無をどこまで制度に反映させるのかという論点につながります。

シンガポールには売却時の印紙税もある

シンガポールでは購入時だけでなく、短期間で住宅を売却した場合にも売却者印紙税があります。

2025年7月3日に制度変更が発表され、2025年7月4日以降に取得した住宅について、課税対象となる保有期間が3年から4年へ延長され、各段階の税率も4ポイント引き上げられました。

現在の制度では、4年以内に売却すると売却者印紙税がかかります。

1年以内なら16%、1年超2年以内なら12%、2年超3年以内なら8%、3年超4年以内なら4%です。

4年を超えて保有すれば、この売却者印紙税はかかりません。

日本の不動産譲渡所得課税とは仕組みが異なりますが、短期保有ほど売却時の負担を重くするという点では共通する部分があります。

シンガポールは保有期間に応じて段階的に負担を変えている

この制度の特徴は、単純に短期売却か長期売却かの2区分ではないことです。

1年以内なら16%、1年超2年以内なら12%、2年超3年以内なら8%、3年超4年以内なら4%というように、保有期間が長くなるほど負担が低くなります。

このような仕組みなら、短期間で売却するほど税負担が大きくなります。

一方、4年を超えて保有すれば売却者印紙税はなくなります。

短期転売を抑えるという政策目的を、保有期間に応じた税負担で表現している点が特徴です。

香港では短期転売への特別印紙税を導入した

香港もかつて短期的な住宅投機を抑えるため、特別印紙税を導入していました。

特別印紙税は2010年に導入され、その後強化されました。

2023年10月25日以降の制度では、住宅を6カ月以内に売却した場合20%、6カ月超12カ月以内なら15%、12カ月超24カ月以内なら10%という税率でした。

短期間で売却するほど負担が重くなる仕組みです。

日本が今後短期転売への新しい税制を検討する場合、こうした海外の制度は比較材料になります。

しかし香港は2024年に需要抑制策を撤廃した

香港の事例で特に重要なのは、その後の政策変更です。

香港政府は2024年2月28日から、住宅に対する需要側の管理策をすべて撤廃しました。

それまで存在していた特別印紙税や買い手印紙税などについて、同日以降の住宅取引では原則として適用しないこととしました。

つまり、住宅価格の高騰や投機を抑えるために導入した税制でも、市場環境が変化すれば撤廃されることがあります。

税制は一度導入したら永久に維持するものではありません。

香港では金利上昇と価格調整も背景になった

香港政府は2023年の政策説明で、金利上昇や経済成長の鈍化などを背景として住宅取引が減少し、住宅価格も調整していることを説明していました。

そのうえで住宅供給の増加も見込み、短期投機などを抑える需要側の政策を調整しました。

この経緯は、日本のマンション政策を考えるうえでも参考になります。

マンション価格が上昇しているときと、金利上昇などによって市場が調整しているときでは、必要な政策が同じとは限らないからです。

海外制度から見える3つの考え方

海外の事例を見ると、住宅投機への対応にはいくつかの方法があることが分かります。

一つ目は購入時の負担を重くする方法です。

シンガポールの追加買い手印紙税のように、2戸目以降の住宅や外国人、法人などに追加負担を求める方法があります。

二つ目は売却時の負担を重くする方法です。

シンガポールの売却者印紙税のように、保有期間が短いほど負担を重くする方法です。

三つ目は制度そのものを市場環境に応じて変更する方法です。

香港では短期転売などへの需要抑制策を導入した後、市場環境の変化を受けて2024年に撤廃しました。

日本はどの方式を採用するのか

日本で新築マンションの短期転売対策を検討する場合、海外の制度をそのまま導入することはできません。

日本にはすでに短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分があります。

また、住宅ローン減税やマイホーム売却時の特例など、居住用住宅に関する税制も存在します。

そのため新しい制度を導入するなら、現在の税制との整合性を取る必要があります。

特に重要なのは、投資目的の短期転売と、実際に住むための住宅売却をどう区別するかです。

税制は市場を変えるが市場も税制を変える

海外事例から分かるもう一つのポイントは、税制と不動産市場が一方向の関係ではないことです。

政府が税制によって市場へ働きかける一方、市場環境が変化すれば政府側も制度を見直します。

住宅価格が急上昇している局面では投機抑制策が重視されます。

金利上昇などによって住宅市場が冷え込めば、今度は取引を促すために規制を緩和することがあります。

香港が2024年に需要抑制策を撤廃したことは、その一例です。

日本でも市場環境を見ながら考える必要がある

日本では現在、新築マンション価格の高騰を背景に短期売買が政策上の論点になっています。

一方で金利は上昇しており、都市部のマンション価格にも一服感が見え始めています。

このような状況では、短期転売への税制措置を検討する場合でも、市場が今後どう変化するのかを見る必要があります。

短期売買を抑えることだけを目的に制度を設計すると、市場がすでに調整局面に入った場合には、住宅取引をさらに抑制する可能性があります。

税制の効果と市場環境を同時に確認することが重要です。

結論

海外では、住宅の投機や価格高騰への対応として、購入時と売却時の双方に税負担を設ける制度があります。

シンガポールでは、購入者の属性や保有住宅数などに応じて追加買い手印紙税が課され、さらに2025年7月4日以降に取得した住宅については、4年以内の売却に売却者印紙税がかかります。

一方、香港では短期転売を抑える特別印紙税などが導入されていましたが、住宅市場の環境変化を受け、2024年2月28日以降の住宅取引について需要側の管理策が撤廃されました。

この違いから分かるのは、住宅投機対策では税率だけでなく、市場環境との組み合わせが重要だということです。

日本で新しい短期転売対策を検討する場合にも、海外制度をそのまま取り入れるのではなく、現在の短期譲渡所得課税や居住用住宅の特例との関係を整理する必要があります。

さらに、制度を導入した後にマンション価格、短期売買、住宅取引がどう変化するのかを検証し、市場環境に応じて制度を見直す視点も重要になります。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か

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