即時償却と税額控除はどちらを選ぶべきなのか 利益水準によって有利不利が変わる理由編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

大胆な投資促進税制では、一定の要件を満たす設備投資について、即時償却と税額控除の選択適用が認められています。

即時償却を選べば、対象設備の取得価額を早い段階で大きく損金にできます。

税額控除を選べば、機械装置などでは取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物では4%相当額を法人税額から控除する仕組みとなっています。

では、企業はどちらを選べばよいのでしょうか。

単純に税率や控除率だけを比べても答えは出ません。

現在の利益、将来の利益、法人税額、資金繰りなどによって、選択の意味が変わるからです。

即時償却と税額控除では効果の出方が違う

まず確認したいのが、2つの制度の基本的な違いです。

即時償却は、将来計上する減価償却費を設備投資の初期に前倒しして計上する仕組みです。

損金が増えるため、その年度の課税所得を圧縮できます。

一方、税額控除は課税所得を減らすのではなく、計算された法人税額から一定額を直接差し引きます。

つまり、即時償却は所得計算に作用し、税額控除は税額計算に作用します。

この違いが、有利不利を考える出発点になります。

大きな利益が出ている会社では即時償却の効果が大きく見える

たとえば、設備投資をする年度に大きな利益が出ている企業を考えてみます。

この会社が大規模な設備を取得して即時償却を選択すると、多額の償却費を早期に損金へ算入できます。

その結果、課税所得が大幅に減少し、その年度に支払う法人税も減ります。

設備投資を行った直後は購入代金の支払いによって多額の資金が流出します。

同じ時期に法人税の支払いまで重なると、企業の資金負担はさらに大きくなります。

即時償却によって初年度の税負担を抑えられれば、会社に現金を残しやすくなります。

そのため、大きな利益が出ている企業にとって、即時償却は資金繰りを考えるうえで重要な選択肢になります。

ただし即時償却は将来の償却費を先に使っている

即時償却によって初年度の税負担が大きく減ったとしても、それだけで税額控除より有利とは判断できません。

即時償却では、本来なら将来の年度に計上する減価償却費を先に計上しています。

そのため、その後の年度に計上できる減価償却費は少なくなります。

初年度の法人税は減っても、将来の課税所得は通常の減価償却を行った場合より大きくなる可能性があります。

つまり、即時償却による税負担軽減の中心は課税の繰延べです。

税金を永久になくす効果とは区別して考える必要があります。

税額控除は税負担そのものを減らす

一方、税額控除は一定の適用要件や控除限度の範囲内で、法人税額そのものから控除します。

たとえば対象となる機械装置を1億円で取得し、7%の税額控除を計算すると700万円となります。

実際に控除できる金額については制度上の限度などを確認する必要がありますが、利用できた税額控除は法人税負担そのものを減らす方向に働きます。

将来の減価償却費を前倒ししているわけではありません。

このため、設備を使用する期間全体の税負担を考える場合、税額控除には即時償却とは異なるメリットがあります。

目先の減税額だけを比較してはいけない

即時償却と税額控除を比較するときに注意したいのが、設備投資をした年度だけで判断しないことです。

即時償却では、初年度の税負担が大幅に減ることがあります。

数字だけを見ると、税額控除より即時償却の方が圧倒的に有利に見える場合があります。

しかし、その中には将来支払う税金を後ろへずらした効果が含まれています。

比較するときには、初年度だけではなく数年間の税負担を確認する必要があります。

今年いくら税金が減るのか。

翌年度以降はいくら増えるのか。

税額控除を選択した場合には税負担総額がどうなるのか。

時間軸をそろえて比較することが重要です。

将来も利益が出る会社では考え方が変わる

将来にわたって安定的に利益が出ると予想される企業では、即時償却によって初年度の課税を繰り延べても、その後の年度に法人税を負担する可能性が高くなります。

この場合、税額控除によって税負担そのものを減らす効果との比較が重要になります。

一方、現在は大きな利益が出ているものの、数年後には大幅な利益減少が予想されている企業では事情が異なります。

将来の所得状況によって、費用をどの年度に計上することが有効なのかも変わります。

したがって、現在の決算だけを見て判断するのではなく、中期的な利益計画と一緒に検討する必要があります。

利益が少ない会社では即時償却を生かしにくいこともある

設備投資を行う年度の利益が少ない会社では、即時償却を行っても、その年度の税負担を大きく減らせないことがあります。

もともとの課税所得が小さいからです。

税額控除についても、控除対象となる法人税額が十分になければ、計算上の控除額をそのまま利用できない場合があります。

つまり、設備投資額が同じでも、利益水準によって制度の効果は変わります。

大胆な投資促進税制を検討するときには、設備の取得価額だけを見るのではなく、その設備を取得する年度の所得や法人税額を確認する必要があります。

キャッシュフローを優先する考え方もある

企業経営では、最終的な税負担だけでなく手元資金も重要です。

大型設備への投資直後は、会社から多額の現金が出ていきます。

そのタイミングで税負担を抑えられる即時償却には、資金繰りを改善する効果があります。

将来支払う税金だったとしても、支払いを後ろへずらせれば、その間は会社が資金を利用できます。

新たな設備投資に回すこともできますし、研究開発や人材採用、借入金の返済などに利用することもできます。

したがって、税負担総額だけではなく、いつ現金が出ていくのかという視点も必要です。

金利がある世界では支払時期にも価値がある

即時償却による課税の繰延べには、もう一つ重要な意味があります。

同じ1,000万円の税金を支払うとしても、今年支払う場合と数年後に支払う場合では経済的な価値が同じとは限りません。

企業が手元資金を事業へ投資して収益を生み出せるのであれば、税金の支払いを先送りすることにも価値があります。

金利が上昇すれば、資金を早く手元に残すことの価値も意識されやすくなります。

そのため、即時償却と税額控除を厳密に比較するのであれば、単純な税額だけではなく時間価値まで考える必要があります。

投資前のシミュレーションが重要になる

即時償却と税額控除の選択は、設備を購入した後に考えればよい問題ではありません。

大型投資では、税制の選択によって投資後の資金繰りが変わる可能性があります。

現在の利益水準、今後の利益計画、設備の取得価額、適用される税率、税額控除の利用可能額などを基に複数年度の試算を行うことが重要です。

即時償却を選んだ場合と税額控除を選んだ場合について、初年度だけではなく将来年度まで並べて比較します。

そうすることで、単なる節税額の比較から、設備投資を含めた経営判断へと視点を広げることができます。

結論

即時償却と税額控除のどちらを選ぶべきかは、設備の取得価額だけでは決まりません。

即時償却は課税所得を早期に圧縮し、設備投資直後の法人税負担を軽減する効果があります。

ただし、その中心は将来の減価償却費を前倒しすることによる課税の繰延べです。

税額控除は、一定の範囲で法人税額そのものを直接減らす仕組みです。

そのため、現在の利益が大きいのか、将来も利益が続くのか、手元資金をどの程度確保したいのかによって選択の意味が変わります。

重要なのは、今年の法人税だけを比較しないことです。

数年間の税負担とキャッシュフローを並べて考えることで、即時償却と税額控除の本当の違いが見えてきます。

大胆な投資促進税制は単なる減税制度ではなく、企業の投資時期や資金配分にも影響する制度です。

だからこそ、大規模な設備投資では投資計画の段階から税制を含めたシミュレーションを行うことが重要になります。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など

国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について

タイトルとURLをコピーしました