貸倒損失と貸倒引当金は何が違うのか 回収不能の確定と将来リスクの違い編

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取引先の経営状態が悪化し、売掛金や貸付金の回収が難しくなった場合、企業の決算では「貸倒損失」と「貸倒引当金」という二つの言葉が登場します。

どちらも債権を回収できないリスクに関係するものですが、税務上の意味は大きく異なります。

簡単にいえば、貸倒損失は一定の要件のもとで既に発生した貸倒れを損失として処理するものです。

これに対して貸倒引当金は、まだ貸倒れが確定していない段階で、将来発生する可能性のある貸倒れに備えて一定額を費用として見積もるものです。

この違いを理解していないと、

回収が難しそうだから貸倒損失にする

全額回収不能ではないから何も処理できない

といった誤った判断につながる可能性があります。

貸倒損失と貸倒引当金は、債権の回収可能性が悪化していく過程のどの段階にあるのかという視点から整理すると分かりやすくなります。

貸倒損失とは何か

貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの金銭債権について、一定の事実が発生したことによって、その債権を損失として処理するものです。

税務上の貸倒損失は、大きく三つの類型に整理できます。

法律上の貸倒れ

事実上の貸倒れ

形式上の貸倒れ

です。

例えば、法的整理などによって債権の一部が切り捨てられた場合には、法律上の貸倒れが問題になります。

また、法律上は債権が残っていても、債務者の資産状況や支払能力などからみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、事実上の貸倒れを検討します。

さらに、一定の売掛債権について取引停止後1年以上経過するなどの条件を満たせば、形式上の貸倒れを検討することになります。

つまり貸倒損失は、単なる将来予測ではなく、貸倒れを認識するための一定の事実が生じていることが前提になります。

貸倒引当金とは何か

一方、貸倒引当金は考え方が異なります。

決算時点では債権が存在し、まだ貸倒損失として処理できる状態ではないものの、将来その一部または全部が回収できなくなる可能性があります。

その将来の貸倒リスクを見積もり、一定額をあらかじめ費用として計上するのが貸倒引当金です。

例えば1000万円の売掛金について、

取引先の経営状態がかなり悪化している

返済条件の変更を求められている

資金繰りが厳しくなっている

という状況だったとします。

それでも現時点では、1000万円全額が回収不能であることが明らかとはいえないかもしれません。

この場合、法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れとして1000万円を貸倒損失にすることはできません。

しかし、一定の要件を満たせば、貸倒引当金の対象として検討できる可能性があります。

最大の違いは確定した損失か将来の見積りか

貸倒損失と貸倒引当金の最大の違いは、損失がどの段階にあるかです。

貸倒損失では、税務上貸倒れとして認識できる一定の事実が発生しています。

これに対して貸倒引当金では、債権そのものは残っており、将来発生する可能性のある損失を見積もっています。

例えば1000万円の債権について、

もう回収できないことが一定の要件のもとで明らかになった

という段階と、

回収できない可能性がかなり高くなっている

という段階では意味が違います。

前者では貸倒損失が問題となり、後者では貸倒引当金が問題になります。

この「確定」と「見積り」の違いが二つの制度を理解する基本になります。

貸倒引当金には個別評価と一括評価がある

税務上の貸倒引当金は、大きく二つに分けて考えることができます。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金と、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金です。

個別評価は、特定の債務者について回収リスクが高まっている場合に、その債務者に対する債権を個別に評価する考え方です。

一方、一括評価は、多数の売掛金などについて、過去の貸倒実績などを基礎として一定額の貸倒れを見積もる考え方です。

つまり、

この取引先の債権が危ない

という個別の問題と、

売掛金全体では一定割合の貸倒れが発生する

という集合的な問題を分けて考えています。

ただし、法人税法上の貸倒引当金は、すべての法人が自由に損金算入できる制度ではありません。

法人の区分などによって適用対象が定められているため、会計上貸倒引当金を計上できることと、税務上その全額を損金算入できることは別問題です。

個別評価金銭債権とは何か

個別評価金銭債権とは、特定の債務者について一定の事実が生じ、回収リスクが高くなっている金銭債権を個別に評価するものです。

例えば、債務者について更生計画認可の決定や再生計画認可の決定などがあり、弁済が長期間猶予された場合などが問題になります。

また、債務者の債務超過状態が相当期間継続し、事業に好転の見通しがないことなどから、金銭債権の一部について取立ての見込みがないと認められるケースもあります。

ここで重要なのは、まだ債権の全額が貸倒れになったわけではないということです。

回収不能部分を合理的に見積もり、そのリスクを貸倒引当金として反映させる考え方です。

担保がある場合はどう考えるのか

貸倒引当金を計算するときにも、担保は重要になります。

例えば1000万円の貸付金について債務者の経営状態が悪化していたとしても、600万円の価値が見込まれる担保があれば、その600万円については担保から回収できる可能性があります。

したがって、単純に1000万円全額を回収困難額として考えるわけではありません。

担保物の処分見込額など、回収可能な金額を考慮して貸倒引当金の対象額を判断する必要があります。

前回まで取り上げた貸倒損失でも担保の存在は重要でした。

事実上の貸倒れでは、担保から回収できる可能性が残っている以上、原則として全額回収不能とはいえません。

貸倒引当金でも、担保による回収可能額を考慮することになります。

つまり担保は、

貸倒損失を計上できるか

貸倒引当金をいくら設定できるか

という双方に影響する重要な要素なのです。

貸倒損失にできないから引当金にするとは限らない

ここで注意したいのが、

貸倒損失の要件を満たさなければ、貸倒引当金にすればよい

という考え方です。

これは必ずしも正しくありません。

貸倒損失には貸倒損失の要件があり、貸倒引当金には貸倒引当金の要件があります。

例えば、単に入金が数か月遅れているだけで、債務者の財務状態にも特段の問題がない場合には、個別評価による貸倒引当金の要件を満たさないことがあります。

貸倒損失と貸倒引当金は、どちらか一方を自由に選択できる制度ではありません。

それぞれ独立した要件に基づいて判断する必要があります。

貸倒損失になると債権はどうなるのか

会計上貸倒損失を計上した場合には、対象となる債権を帳簿から減額することになります。

例えば100万円の売掛金について全額を貸倒損失として処理すれば、原則として売掛金100万円を減額し、貸倒損失100万円を計上します。

一方、貸倒引当金では債権そのものを消すわけではありません。

売掛金100万円という債権は残したまま、将来の貸倒れに備えるための貸倒引当金を設定します。

この違いも重要です。

貸倒損失は債権自体の損失処理です。

貸倒引当金は債権を残したまま回収リスクを別途認識する処理です。

貸借対照表上の見え方にも違いが生じます。

翌期に状況が改善したらどうなるのか

貸倒引当金は将来の損失を見積もる制度です。

そのため、翌事業年度には改めて状況を確認する必要があります。

債務者の経営状態が改善し、回収可能性が高まることもあります。

逆に、さらに経営状態が悪化し、最終的に貸倒損失の要件を満たすこともあります。

つまり貸倒引当金は、一度設定すればそのまま固定されるものではありません。

各事業年度の状況に応じて税務上必要な処理を行うことになります。

貸倒引当金の税務には、繰入れだけでなく翌期の戻入れという考え方があることも理解しておく必要があります。

税務上の貸倒引当金には対象法人の制限がある

会計と税務の違いとして特に注意したいのが、貸倒引当金を損金算入できる法人の範囲です。

会計上は債権の回収可能性に応じて貸倒引当金を計上する必要があっても、法人税法上、その繰入額をそのまま損金算入できるとは限りません。

税務上の貸倒引当金制度は、一定の中小法人や銀行、保険会社など、法令で定められた法人等を対象としています。

したがって決算書に貸倒引当金が計上されていても、

会計上はいくら必要か

税務上はいくら損金算入できるか

を分けて考える必要があります。

ここは会計処理と法人税申告の違いが現れやすいところです。

債権の状態を段階的に考える

貸倒損失と貸倒引当金を理解するには、債権の状態を時間の流れで考えると分かりやすくなります。

最初は正常に回収できていた売掛金があります。

その後、支払いが遅れ始めます。

さらに債務者の経営状態が悪化し、回収リスクが高まります。

一定の要件を満たせば、この段階で貸倒引当金を検討することがあります。

さらに状況が悪化し、法的整理によって債権が切り捨てられたり、全額回収不能であることが明らかになったりすれば、貸倒損失を検討する段階に移ります。

つまり、

正常債権

回収リスクが高まった債権

貸倒れとなった債権

という段階の違いを税務上どのように認識するのかが、貸倒引当金と貸倒損失の問題なのです。

税務調査では判断時点の資料が重要になる

貸倒損失でも貸倒引当金でも重要なのが、決算時点でどのような事実が存在していたかです。

後から取引先が倒産したからといって、過去の決算時点でも当然に回収不能だったことになるわけではありません。

反対に、その後業績が回復したからといって、過去の決算時点で存在した回収リスクがなくなるわけでもありません。

税務上の判断では、それぞれの事業年度終了時点の状況が重要になります。

そのため、

債務者の決算書

資金繰りの状況

支払条件の変更内容

弁済状況

担保の内容

保証人の状況

債権者との協議内容

法的整理に関する資料

などを保存しておくことが重要です。

決算時に「危ないと思った」という担当者の記憶だけでは、数年後の税務調査で十分な説明ができない可能性があります。

結論

貸倒損失と貸倒引当金は、どちらも金銭債権の回収リスクに関係しますが、その役割は異なります。

貸倒損失は、法律上の債権切捨てや全額回収不能など、税務上貸倒れとして認識できる一定の事実が生じた場合に損失処理するものです。

これに対して貸倒引当金は、まだ貸倒れには至っていないものの、将来回収できなくなる可能性がある債権について、そのリスクをあらかじめ見積もるものです。

つまり両者の違いを一言で表せば、

貸倒損失は既に生じた貸倒れ

貸倒引当金は将来の貸倒リスクへの備え

と整理できます。

ただし、税務上はそれぞれに細かな要件があり、企業が自由に選択できるわけではありません。

さらに貸倒引当金については、税務上損金算入できる法人の範囲にも制限があります。

重要なのは、債権の回収が難しくなったときに、すぐに「貸倒れ」と考えないことです。

その債権はまだ回収リスクが高まった段階なのか。

それとも税務上貸倒れとして認識できる段階まで進んでいるのか。

この時間軸を意識することが、貸倒損失と貸倒引当金を正しく使い分けるための基本になるのです。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 「連載『不良債権に係る税務上の取扱いの再確認』税理士・東辻 淳次 第5回/回収不能の場合の貸倒れ」

国税庁 法人税基本通達 第9章第6節 金銭債権の貸倒れ

国税庁 法人税基本通達 第11章第2節 貸倒引当金

国税庁 タックスアンサー 貸倒引当金

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