国税庁の2027年度定員要求を見ると、消費税の不正還付対策や租税回避スキームへの対応など、人員を重点的に配置しようとしていることが分かります。
一方で、税務行政ではデジタル化も進んでいます。
電子申告によって大量の申告データが蓄積されれば、その情報を分析して税務調査へ活用することができます。
ここで重要なのは、デジタル化によって税務職員が不要になるわけではないということです。
AIやデータ分析が得意な仕事と、人間でなければ難しい仕事を分けて考える必要があります。
税務調査は、人が大量の申告書を一件ずつ確認する仕組みから、データを使って調査すべき案件を絞り込み、人が詳しく確認する仕組みへ変わっていくと考えられます。
税務調査では対象を選ぶ必要がある
税務調査では、すべての納税者を毎年詳しく調べることはできません。
税務職員の人数には限りがあります。
そのため、限られた人員をどこへ投入するのかが重要になります。
申告内容。
過去の申告状況。
取引に関する情報。
さまざまなデータを利用して、確認する必要性が高い案件を選ぶことになります。
この調査対象の選定は、データ分析との相性がよい分野です。
電子申告がデータ活用の基盤になる
紙の申告書が中心だった時代と比べ、電子申告では情報をデータとして扱いやすくなります。
大量の申告情報を一定の条件で比較することも可能になります。
同じ業種の企業と比べて数字が大きく違う。
前年までの申告内容から急激な変化がある。
特定の取引が急増している。
こうした特徴をデータから探すことができれば、職員が最初からすべての申告書を同じように確認する必要はなくなります。
デジタル化は、税務調査の入口を効率化する役割を持っています。
AIは異常を見つけることが得意
AIやデータ分析が力を発揮しやすいのは、大量の情報から一定の特徴を持つ案件を見つける仕事です。
人間が何万件もの申告データを一つずつ比較するには大きな時間がかかります。
コンピューターであれば大量のデータを高速で処理できます。
通常とは異なる動きがある申告。
過去と大きく変化した申告。
複数の情報を組み合わせると確認の必要性が高い申告。
こうした案件を絞り込むことができれば、税務職員はより重要な案件へ時間を使うことができます。
AIが見つけても課税できるわけではない
ただし、データ分析によって異常な数字が見つかったからといって、それだけで申告誤りや不正と判断できるわけではありません。
売上が急増した企業には、本当に事業が急成長したという事情があるかもしれません。
経費が大きく増えた企業には、新しい設備投資など合理的な理由があるかもしれません。
大きな還付申告にも、正当な理由がある場合があります。
データが示すのは、詳しく確認した方がよい可能性です。
実際に何が起きているのかを確認する作業は別に必要です。
最後は取引の実態を確認する
税務調査では、申告書の数字だけでなく、その数字の背景を確認します。
帳簿を見る。
請求書を見る。
契約書を確認する。
資金の流れを調べる。
必要に応じて取引先との関係を確認する。
そのうえで税法を適用します。
AIが調査対象を効率的に選ぶことができても、取引の実態を確認し、税法上どのように評価するかという仕事では人による判断が重要になります。
消費税の不正還付対策でもデータが重要になる
国税庁は2027年度の定員要求で、消費税の不正還付対策として185人の増員を要求しています。
消費税の還付申告では、適正な還付と不正な還付を区別する必要があります。
大量の還付申告の中から確認の必要性が高い案件を効率的に見つけることができれば、限られた人員を重点的に投入できます。
一方、実際に仕入れが存在するのか、商品が動いているのか、資金がどのように流れているのかといった確認には、人による調査が必要になります。
データ分析と税務職員の調査を組み合わせることが重要です。
租税回避スキームは単純な異常値だけでは分からない
租税回避対策では、さらに難しい問題があります。
国税庁はこの分野で57人の増員を要求し、新たに租税回避対策企画官の設置も求めています。
租税回避スキームでは、一つ一つの取引だけを見ると特別な問題が見えない場合があります。
複数の法人。
複数の契約。
金融取引。
資産の移転。
こうした取引を組み合わせることで税負担を小さくする仕組みが作られることがあります。
この場合、大量データから特徴を探す技術だけでなく、取引全体を読み解く専門知識が必要になります。
データによって点を線につなげられる
一つの税務署だけを見ていると、同じような取引が全国で行われていることに気づきにくい場合があります。
しかし、情報を集約して分析すれば、離れた地域で似た取引が繰り返されていることを発見できる可能性があります。
一件だけなら特殊な取引に見える。
ところが全国の情報を集めると同じパターンが何十件も存在する。
そうなれば、個別案件ではなく一つのスキームとして分析する必要が出てきます。
国税庁に租税回避対策の司令塔を設ける意味も、こうした情報の横断的な分析と関係しています。
DXで職員の仕事は高度化する
税務行政DXの目的を、単純な人員削減だけで考えると実態を見誤ります。
機械が得意な大量処理は機械に任せる。
AIやデータ分析によって確認すべき案件を絞り込む。
そして職員は、複雑な取引の分析や事実確認、税法上の判断などに時間を使う。
このような役割分担が重要になります。
つまりDXによって、税務職員の仕事は減るだけではなく、より判断を必要とする仕事へ移っていく可能性があります。
人員増とDXは矛盾しない
デジタル化を進めながら国税庁が増員を要求していることを、不思議に感じるかもしれません。
2027年度には730人の増員が要求されています。
定員合理化552人を差し引いた純増要求は178人です。
しかし、DXと増員は必ずしも矛盾しません。
定型的な事務を効率化する一方で、不正還付や租税回避など高度な調査分野へ人員を移すことができます。
重要なのは職員数の総数だけではなく、どの仕事に人を配置するのかです。
結論
税務調査は、AIやデータ分析によって大きく変わっていく可能性があります。
大量の申告情報を分析し、確認の必要性が高い案件を絞り込む仕事はデジタル技術が得意とする分野です。
しかし、データ上の異常がそのまま申告誤りや不正を意味するわけではありません。
帳簿や契約書を確認する。
取引の実態を調べる。
資金の流れを追う。
そして事実関係に税法を適用する。
こうした仕事では、引き続き税務職員の専門知識と判断が重要になります。
国税庁DXの本質は、人を機械に置き換えることだけではありません。
機械が大量のデータを処理し、人が複雑な判断を担当する。
その役割分担によって、限られた人員を重要な税務調査へ集中させることにあります。
国税庁の人員増とDXを一緒に見ることで、これからの税務行政が目指している方向が見えてくるのです。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を